窃盗罪の刑は、50万円以下の罰金から10年以下の拘禁刑までです(刑法235条)。万引きは235条の窃盗にあたる行為であり、独立の罪名ではありません。令和6年に万引きで検挙された20歳以上の46,589人のうち、26,671人(57.2%)には前歴がありました。その9割近くは窃盗の前歴です(警察庁の統計・当事務所の算出)。
当事務所が確認した裁判例66件では、累犯加重または常習累犯窃盗が適用された13件は全件が実刑で、前科がない12件には実刑が1件もありませんでした。執行猶予の期間中に再び罪を犯した事案でも、もう一度執行猶予が言い渡された例があり、いずれも保護観察が付いています。
もっとも、刑の量定は事実審裁判所にゆだねられており、個別の事件でどの刑が言い渡されるかについて、明確な見通しは立ちません。あくまで参考程度です。当事務所が確認した裁判例66件と司法統計を通して、窃盗罪の量刑相場を検討します。
初犯の処分の流れと逮捕後の手続は、万引きで逮捕されたらで扱っています。
第1 窃盗罪の量刑の枠組み
1 法定刑と罰金・略式
窃盗罪には罰金と拘禁刑の両方があります。検察庁で起訴されたのは、起訴と不起訴の合計のうち44.8%で、起訴された人の8割は公判請求です。
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
(刑法235条)
令和6年に窃盗罪で検察庁の処理を終えた人は、起訴31,014人、不起訴38,153人(うち起訴猶予30,240人)、家庭裁判所送致14,129人でした。起訴と不起訴の合計に占める起訴の割合(起訴率)は44.8%です(『令和7年版犯罪白書』資料2-2・検察統計年報による)。起訴された人のうち、公判請求は25,307人(81.6%・当事務所の算出)、略式命令請求は5,707人です。
罰金の額は、通常の裁判で550人中289人(52.5%)、略式手続で5,087人中2,454人(48.2%)が20万円以上30万円未満でした。次いで30万円以上50万円未満が多く(略式手続で38.7%)、両手続とも約9割がこの2区分です(同白書2-3-3-4表・当事務所の算出)。個別の事件の罰金額は予測が難しく、手がかりはこの分布です。
罰金を納めない場合は、1日以上2年以下の期間、労役場に留置されます(刑法18条1項)。令和6年の労役場留置者は一日平均533人で、罪名別の内訳は公表されていません。
これまでの経験では、窃盗の初犯は多くが起訴猶予で終わります。令和6年に窃盗罪で起訴猶予となった人は30,240人で、起訴された人(31,014人)とほぼ同じ数です。微罪処分で終わる場合もありますが、考慮される事情が多く、一律には見通せません。微罪処分は、万引きで逮捕されたらで扱っています。起訴された後は、略式命令による罰金、執行猶予、実刑と、犯罪歴が重なるにつれて処分が一つずつ重くなるのが大枠です(段階的量刑。第1の3)。ただし、例外もあります。前科がなくても被害額や件数から公判請求された事案があり(第3の1)、執行猶予の期間中の再犯でも再度の執行猶予となった事案があります(第3の3)。各時点でとれる弁護活動は、第6で扱います。

2 犯情と一般情状の二段階
量刑は、犯情で刑の大枠を決め、次に一般情状で宣告刑を決める二段階で判断されます。
犯情とは、犯行の動機、手段と方法、結果といった、犯罪行為自体に関する要素です。窃盗事件では、被害額、犯行の回数と期間、手口、共犯の有無、常習性がこれにあたります。
一般情状は、前科、被害弁償と示談、反省の内容、再犯を防ぐ環境、被害者側の処罰感情です。主として一般予防・特別予防に関する事情であり、最終的な宣告刑を決める段階で考慮されます。
万引きでは、被害品が被害者の手に戻ることが多く、示談が成立しやすいため、反省・被害弁償・宥恕の重要性は相対的に低いと推測されています。同種前科がある場合は、前刑のときの反省や誓約を守れなかった点で反省の弁が説得力を欠き、これらの事情の影響は限定的になるとされています。
3 犯罪歴が主軸である理由
窃盗事件、とくに万引きの量刑では、犯罪歴の程度が結論を分ける主軸になります。
万引き事案では、厳密な意味での初犯は例外に属し、多くの裁判例で前科前歴への言及があります。犯罪歴の程度(前科前歴の数、前刑からの期間、服役経験の有無など)は、量刑を決める大きな考慮要素であると分析されています。
初犯が例外的であることは、警察庁の統計からも確認できます。令和6年に万引きで検挙された20歳以上の人のうち、窃盗の同種前歴がある人は23,327人で、全体の50.1%でした(当事務所の算出)。ただし検挙段階の統計であり、起訴や有罪となった人数ではありません。
前科が刑を重くする理由は、前科による警告にもかかわらず罪を犯したことに着目する考え方(警告理論)で説明するのが通説的とされています。この理解では、前科はその種類・内容に応じて行為責任を加重します。そのため前科は、一般情状として宣告刑を調整するだけでなく、犯情で決まる刑の大枠にも関わります。
万引きでは、検挙の回数に応じて、微罪処分、起訴猶予、略式罰金、公判請求と処分が重くなる実務慣行も紹介されています。
被害品の種類・数・金額は、実刑か執行猶予かの判断にはさほど影響を与えていないとされています。
以下では、犯罪歴の程度を、前科なし、罰金前科のみ、猶予付き懲役前科あり(猶予中・猶予終了後・実刑前科2件を含む)、累犯加重・常習累犯窃盗の4区分に分けて検討します。窃盗事件では、犯罪歴が刑の大枠に対応しているためです。前科そのものについては、前科の記事で扱っています。
4 累犯と常習累犯窃盗の意味
万引きを何度も繰り返していても、それだけで累犯や常習累犯窃盗にあたるわけではありません。累犯は、前の拘禁刑の執行を終わった日(またはその執行の免除を得た日)から5年以内に更に罪を犯したことを前提としています。常習累犯窃盗は、行為前10年以内に6月以上の拘禁刑の執行を受けたこと(またはその執行の免除を得たこと)が3回以上あることを前提としています。
⑴ 累犯
累犯(再犯)とは、拘禁刑の執行を終わった日、またはその執行の免除を得た日から5年以内に更に罪を犯し、有期拘禁刑に処せられる場合をいいます(刑法56条1項)。累犯にあたると、刑の上限が、その罪に定められた拘禁刑の長期の2倍になります(刑法57条)。これを累犯加重といいます。
⑵ 常習累犯窃盗
常習累犯窃盗は、盗犯等防止法3条が定める罪です。
常習トシテ前条ニ掲ゲタル刑法各条ノ罪又ハ其ノ未遂罪ヲ犯シタル者ニシテ其ノ行為前十年内ニ此等ノ罪又ハ此等ノ罪ト他ノ罪トノ併合罪ニ付三回以上六月ノ拘禁刑以上ノ刑ノ執行ヲ受ケ又ハ其ノ執行ノ免除ヲ得タルモノニ対シ刑ヲ科スベキトキハ前条ノ例ニ依ル
(盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律3条)

要件の1つ目は、形式的要件です。行為前の10年以内に、窃盗・強盗(事後強盗・昏酔強盗を含み、いずれも未遂を含みます)の罪で、6月以上の拘禁刑の執行を受けたこと(またはその執行の免除を得たこと)が3回以上あることを要します。これらの罪と他の罪との併合罪で刑の執行を受けた場合も含みます。行為前の10年以内は、行為を始めた日を除き、その前日から10年さかのぼった日以後を指します。
執行猶予の判決を受けて猶予期間を経過した場合や、猶予期間中である場合は、刑の執行を受けたことにも、執行の免除を得たことにもなりません。猶予が取り消されずに期間を満了した前科は、3回に数えません。猶予が取り消されて刑の執行を受けた場合は数えます。
要件の2つ目は、実質的要件である「常習トシテ」、すなわち反復して窃盗を犯す習癖があり、今回の犯行がその習癖の現れであることです。
「前条ノ例ニ依ル」とは、同法2条が窃盗について定める3年以上の有期拘禁刑によるという意味で、罰金の定めはありません。刑法25条1項の「三年以下の拘禁刑」と重なるのは3年ちょうどの場合に限られ、法律上の減軽(心神耗弱〔刑法39条2項〕など)か酌量減軽(刑法66条・71条)がなければ、執行猶予は事実上付きません。酌量減軽をすると、下限は1年6月になります。
⑶ 執行猶予だけの前科の場合
刑の全部の執行猶予の判決だけを受けてきた人は、その猶予が取り消されていない限り、累犯にも常習累犯窃盗にもあたりません。罰金の前科だけの人も同じです。累犯は前の拘禁刑の執行を終わった日(またはその執行の免除を得た日)から5年以内の再犯を、常習累犯窃盗は拘禁刑の執行を受けたこと(またはその執行の免除を得たこと)を前提としているためです。刑の一部の執行猶予の場合は、猶予が取り消されずに期間を経過すると、服役した部分の執行を終わった日に刑の執行を受け終わったものとされます(刑法27条の7第1項)。
また、今回の事件で前の猶予が取り消されても、今回の事件そのものが累犯になるわけではありません。累犯は前の刑の執行を終わった日から5年以内に更に犯した罪について、常習累犯窃盗は今回の行為の前に執行を受けた回数で判断するためです。
第2 分析の対象
以下の検討は、判例データベースに収録された窃盗罪・常習累犯窃盗罪の裁判例66件を読んだ結果であり、事件全体の分布は司法統計で確認します。
本記事は、万引きを中心とする窃盗事件の裁判例を素材とし、実刑と執行猶予を分けている考慮要素を検討します。具体的には、判例データベース(D1-Law.com判例体系)から「万引き」「常習累犯窃盗」「窃盗症」「窃盗被告事件 万引き 執行猶予」「窃盗被告事件 前科がない 万引き」の各語で抽出しました。そのうち2026年9月17日までに取得して判決全文を読んだ窃盗罪・常習累犯窃盗罪の裁判例66件(2002年8月から2026年2月まで。以下「分析対象裁判例」といいます。)を用います。検討対象は、このうち第一審の有罪判決51件(被告人2名の事件2件は被告人ごとに分け、53人分として集計)です。控訴審で無罪となった事件の第一審判決1件は除きました。53人分の内訳は、全部執行猶予26人、実刑24人、罰金3人です。
「執行猶予」の語で補充した裁判例とそれ以外の裁判例は別の母集団であり、合算した比率を相場として読むことはできません。また、この種のデータベースには、微罪処分・起訴猶予で終わった事件や、略式命令で罰金となった事件は含まれません。実際、分析対象裁判例には、単発・少額・自白・前科なしという万引きが1件もありません。この種の万引きの多くは起訴猶予や略式命令で終わり、判決にならないためと考えられます。起訴された人の8割が公判請求という統計(第1の1)も、窃盗全般の数値ですが、軽い事件の多くが起訴の前に終わっていることと整合します。初犯の相場を示すことはできませんので、全体の分布は司法統計年報および犯罪白書によることとしました。
なお、66件のうち無罪4件(第一審3件・控訴審の破棄自判1件)は表から除きました。上訴審の判決11件は量刑の集計から除きました(第一審と対になるもの7件、第一審がデータベースにないもの4件)。示談・被害弁償の記載は判決文に現れた範囲にとどまり、記載がないことは弁償がなかったことを意味しない点にご留意ください。
全体の分布に用いる司法統計(令和6年・窃盗の罪)では、拘禁刑の有罪となった10,972人が、全部執行猶予5,625人と実刑5,347人に分かれています。全部執行猶予率は51.3%です(当事務所の算出)。
分析対象裁判例は、1件(拘禁刑2年8月)を除き「懲役」の言渡しです。刑名は判決日ではなく行為日で決まり、2025年6月1日以後の行為には拘禁刑が言い渡されます。
第3 犯罪歴の程度別の量刑
当事務所が確認した裁判例66件を見ると、被害額・犯行回数・犯行態様のいずれよりも、犯罪歴の程度が結論に影響を与えていることが分かります。
犯罪歴の程度と宣告刑を組み合わせる整理は、万引き事案の量刑に関する論文(「『万引き』と責任非難・量刑」『高橋則夫先生古稀祝賀論文集(下)』71頁)に倣っています。その研究の図は、第一東京弁護士会『量刑調査報告集IV・V』収録の単純な万引き526件をもとにしたものです。
以下の件数は、第一審の有罪判決51件を被告人ごとに分けた53人分を、1人1件として数えたものです。区分は次の4つです。
| 区分 | 件数 | 執行猶予/実刑/罰金 |
|---|---|---|
| 前科なし | 12件 | 11/0/1 |
| 罰金前科のみ | 0件 | 0/0/0 |
| 猶予付き懲役前科あり(猶予中・猶予終了後・実刑前科2件を含む) | 28件 | 15/11/2 |
| 累犯加重・常習累犯窃盗 | 13件 | 0/13/0 |
「前科なし」には、判決が前科なしとしたもののほか、量刑上見るべき前科がないとしたもの(後に紹介する家電量販店の事案)を含めています。
1 前科なし
前科がない12件には実刑が1件もなく、執行猶予11件と罰金1件でした。
執行猶予11件の刑期は懲役1年から2年6月で、中央値は1年6月です(1年2件・1年6月4件・2年3件・2年2月1件・2年6月1件)。猶予期間は2年1件・3年6件・4年2件・5年2件で、刑期が長い事案ほど猶予期間も長くなっています。
保護観察が付いたのは2件です(刑法25条の2第1項前段)。罰金1件は30万円(求刑どおり)で、被告人が氏名や住居などを一切明らかにせず、氏名・住居・生年月日が不詳のまま正式裁判となった事案です。
3か月余りで倉庫や物置への侵入を含む5回の窃盗を重ね、被害品136点・被害総額約73万円となった事案があります。判決は侵入盗という類型自体を悪質と述べつつ、全被害者への弁償、2名からの宥恕、犯罪歴がないことを挙げ、懲役2年6月・執行猶予3年としました。
家電量販店を複数県で回り、防犯タグを外す万引きを約5か月で11回、被害総額約108万円という事案もあります。判決は「犯情等だけを見れば実刑も視野に入る事案である」としました。そのうえで弁償と弁済供託、古い同種前科は「量刑上見るべき前科があるとはいい難い」ことを挙げ、懲役2年2月・執行猶予5年としています。
この判示は、犯情で刑の大枠を見定めたうえで、一般情状で執行猶予を選ぶという順序を示しています。犯情等だけを見れば実刑も視野に入る事案でも、判決は被害弁償と前科の評価を挙げて執行猶予としています。
2人で約50日間に4回の万引きを行い、被害総額約92万円となった事案では、判決は2人の犯情を同じと評価し、同じ懲役1年6月を言い渡しました。別の万引きで受けた執行猶予の期間中だった側は実刑となり、前科前歴のない側には執行猶予3年が付いています。判決は、事実を認めて反省の言葉を述べていることと、実父が同居して指導監督すると誓っていることを両名について挙げ、被害回復も両名に共通する事情としています。両名で異なっていたのは、前科の有無(一方は別の万引きの執行猶予期間中)でした。
この区分には、事実を争った事案や、刑事未成年の子を犯行に使った事案も含まれ、いずれも執行猶予でした。犯行の回数・被害額・態様が重い事案でも、犯罪歴がなければ執行猶予の側に位置しています。もっとも、12件はいずれも被害額・件数・共犯構造・否認・人定不明のどれかの事情で公判請求された事案であり、初犯の相場を示すものではないことには注意が必要です。
2 罰金前科のみ
罰金の前科だけで公判請求された事案は、分析対象裁判例に1件もありませんでした。
0件であること自体が、母集団の性質を示しています。この区分について、分析対象裁判例から言えることはありません。この区分の事件の多くは、起訴猶予か略式命令で終わっていると考えられます。
万引き事案の量刑研究によれば、罰金刑に処せられるのは懲役刑の前科がない場合が大半です。執行猶予付きの懲役となるのは、前歴が複数ある場合か、罰金前科はあるが服役経験のない場合が大半であるとされています。
これまでの経験では、罰金の前科だけで公判請求された場合でも、よほどの事情がない限り執行猶予が付きます。どのような事情が「よほどの事情」にあたるかは事件ごとに異なり、最終的には裁判所の判断にゆだねられます。
3 猶予付き懲役前科あり(猶予中・猶予終了後・実刑前科2件を含む)
この区分の28件は、執行猶予15件・実刑11件・罰金2件で、区分の中で結論が分かれています。
内訳は、執行猶予の期間中の再犯25件、猶予期間の終了後の犯行1件、懲役の実刑前科がある2件です。実刑前科の2件は、前件の上告中に犯した前刑未確定の余罪(懲役4月)と、前刑の執行終了から約6年半後で累犯加重に至らない侵入窃盗(懲役3年)で、いずれも実刑です。
執行猶予15件の刑期は懲役1年から3年(中央値1年)で、15件中14件が懲役1年でした。実刑11件は懲役4月から3年(中央値10月)です(4月・6月・8月・10月3件・1年2件・1年4月・1年6月・3年)。
罰金2件は、いずれも窃盗罪の罰金の上限である50万円です。認知症の影響により罰金を選んだ事案と、実刑による治療の中断が再犯の防止に適切でないとした事案でした。
執行猶予15件のうち14件は刑法25条2項の再度の執行猶予で、14件すべてに保護観察が付いています。再度の執行猶予の保護観察は、25条の2第1項後段により必要的です。
執行猶予の期間中の再犯25件の判示は、ほぼ例外なく、本来は実刑であるとしたうえで、情状に特に酌量すべきものがあるかを検討する順序で書かれています。「執行猶予期間中に、同種犯行に及んだ被告人に対しては、懲役刑の実刑を以て臨むのが本来である」とした判決がその例です。

執行猶予の判決から1か月余りで、セーター1着(1万260円)を万引きした事案があります。判決は「本件は、基本的には実刑を選択すべき事案である」と明言しました。そのうえで、30万円を支払った示談と宥恕、保釈後のカウンセリングの継続と夫の支援を挙げ、懲役1年・執行猶予5年・保護観察付きとしています。
執行猶予期間中に発泡酒1本(169円)を万引きした事案では、10万円を支払って示談が成立し、3名が出廷して監督を誓約していました。判決は「実刑は免れない。これらの事情は、刑期の面で考慮することとし」と述べ、求刑懲役10月に対し懲役6月の実刑としました。
親子2人で同じ日に2回、食料品を万引きした事案(被害合計2,380円)では、懲役2年・執行猶予4年の猶予期間中だった側が懲役1年の実刑でした。判決は「常習性及び規範意識の鈍麻は明らかで、更生の意欲は乏しい」と述べています。
示談または全額以上の弁償がありながら実刑となった猶予中の3件では、判決が、有利な事情を「刑期の面で考慮する」という形で刑期の調整に充てています。
当事務所が確認した裁判例では、執行猶予期間中の再犯であることが実刑の理由として第一に挙げられる一方、それだけで結論は決まっていません。弁護活動の対象は、情状に特に酌量すべきものがあるかという点に集中していることが分かります。
量刑研究でも、執行猶予期間中の犯行は実刑を選択する強力な要素とされています。司法研修所での講演記録も、執行猶予による警告を受けているのに再犯に及んだことを考慮し、大原則は実刑という実務は変わらないと述べています。猶予15件・実刑11件という内訳は、「執行猶予」の語で補充した母集団の性質によるもので、実際の比率は分かりません。
4 累犯加重・常習累犯窃盗
累犯加重または常習累犯窃盗が適用された13件は、全件が実刑でした。累犯と常習累犯窃盗の意味は、第1の4のとおりです。
⑴ 宣告刑と酌量減軽
13件の宣告刑は1年から5年で、中央値は2年8月でした。このうち常習累犯窃盗(盗犯等防止法3条)が適用された7件は、1年8月から5年で、中央値は3年です。再度の執行猶予も保護観察も0件です。被害245円・310円・432円の万引き3件も、懲役1年から1年4月の実刑でした。
常習累犯窃盗7件のうち、法定刑の下限である3年以上となった4件(3年・3年2月・4年6月・5年)は、いずれも酌量減軽がありません。酌量減軽をして3年を下回った3件(懲役1年8月・懲役2年2月・拘禁刑2年8月)の理由は、被害全額の弁償と家族の支援態勢、被害者全員との示談と知的障害の影響、被害弁償と具体的な再犯防止策でした。
出所の翌日に、スーパーで醤油2本など28点(1万2,190円)を万引きした事案があります。判決は、出所当日に窃盗症の相談をしていた事実を一定の更生意欲と評価しつつ、常習性は顕著としました。他方で、被害弁償と、実店舗を使わずネットスーパーを利用するという具体的な再犯防止策を検討している段階であることを酌量減軽の理由とし、拘禁刑2年8月としています。
前刑の執行を終えて約1か月後から、3県の学校の部室や教官室に侵入する窃盗を5件重ね、被害総額約43万円となった事案もあります。判決は犯行態様を手慣れた職業的なものと述べ、31万円余の弁償を考慮したうえで、求刑懲役7年に対し懲役5年としました。
卵1パック(245円)の万引きで懲役1年の実刑となった事案では、判決は「被害金額は少額であるものの」としたうえで、責任は重いと述べています。理由は、多数の窃盗前科と、本件と累犯の関係にある同種の服役前科2犯でした。
この区分では、被害者全員との示談が成立した事案、被害額の約11倍の弁償をした事案、知的障害の影響が有利に考慮された事案も実刑でした。
当事務所が確認した裁判例では、被害弁償と具体的な再犯防止態勢が、法定刑の下限を下回るかどうかに影響を与えていることが分かります。もっとも、7件では、どの程度の弁償や態勢があれば酌量減軽に至るかは分かりません。
⑵ 常習性の認定
実質的要件である習癖は、前科・前歴の内容、動機、手口や態様、犯行回数、性格などを総合的に考慮して判断されます。考慮される事情は、今回の犯行の回数と間隔、前科の行為の回数と間隔、前科から今回までの間隔、動機と態様の類似性、性格と素行の5点に整理されています。
前科と今回とで動機や態様が著しく異なる場合には、常習性の認定は難しくなります。もっとも、態様の類似性は要件そのものではなく、認定に用いる資料の一要素であるとした裁判例もあります。
分析対象裁判例にも、第一審が常習性を否定し、求刑4年に対し懲役1年2月とした事案があります。ただし控訴審は原判決を破棄し、常習累犯窃盗を認定しました。
常習特殊窃盗(同法2条)は、凶器の携帯、「二人以上現場ニ於テ共同シテ」犯すこと、侵入、夜間の侵入という特定の態様の常習性を要件とする別の罪です。
万引き事案の量刑研究では、累犯前科がある場合には1年4月以上の実刑が相場とされています。常習累犯窃盗罪では、犯情が軽い場合に酌量減軽を経て2年程度の実刑が中心となります。前科が多い場合、否認事件、前刑出所後間もない犯行では、3年以上も視野に入るとされています。
第4 量刑を分ける事情
当事務所が確認した裁判例66件では、被害額は実刑と執行猶予の結論を分けていません。被害弁償と示談は刑期と酌量減軽の可否に、治療と監督の態勢は再度の執行猶予の可否に影響を与えています。犯行の反復は、犯罪歴とは別に犯情として評価されています。
1 被害額は結論を分けていない
被害額は、実刑と執行猶予の結論を分けていません。
分析対象裁判例で被害額が小さいものは169円(発泡酒1本)で、結論は懲役6月の実刑でした。大きいものは約108万円(換金目的の万引き11回)で、懲役2年2月・執行猶予5年です。245円で懲役1年の実刑、310円で懲役1年4月の実刑、382円で執行猶予という事案も並んでいます。
共犯者2人を比べた事案もあります。被害約92万円・4回の万引きで、被害額も態様も役割も同じと認定されながら、執行猶予の期間中だった側が実刑、前科前歴のない側が執行猶予でした。被害合計2,380円の親子の事案でも、前科のない側が執行猶予、猶予期間中だった側が実刑です。
判決文の被害額は「この種の事案として少額とはいえない」という相対評価で示され、1万円前後を多額と評価する判示が複数あります。
侵入盗では被害額と刑期がおおむね対応していますが、件数・服役回数・示談・否認の影響が混在しており、被害額だけの影響は分離できません。
2 被害弁償と示談
被害弁償は刑期と酌量減軽の可否に影響を与えていますが、犯罪歴の重い区分で結論を変えた事案は確認できませんでした。
示談の成立または全額以上の弁償が確認できる21件の結論は、執行猶予14件・実刑6件・罰金1件でした。実刑6件のうち3件は累犯加重・常習累犯窃盗の事案で、うち2件は示談・弁償を主な理由として法定刑の下限3年を下回っています。
残る3件は執行猶予期間中の再犯で、第3の3で見たとおり、有利な事情は「これらの事情は、刑期の面で考慮することとし」という文言で刑期の調整に充てられています。全額弁償と夫の監督誓約があっても、懲役8月の実刑となった事案があります。弁償をしたのが被告人ではなく別に審理された家族であった事案では、その被告人の酌量事情としては足りないとされました。
他方、判決が財産犯における被害回復を正面から評価した判示も複数あります。「被害者全員に対し相応の被害弁償金が支払われて示談が成立したことは、財産犯である本件の量刑において大きく考慮できる」とした判決がその例です。
被害額の約11倍(約15万8,700円)を弁償しても、実刑となった事案があります。判決は被害額ではなく、侵入口の窓の交換や、現場保全のための営業停止といった実害を、結果の重大性としています。
万引きで示談や弁償の重要性が相対的に低いとされるのは、示談が意味を失うということではなく、他の罪種ほど結論を左右しないという意味です。示談金額が判決文に明示されたのは5件のみで、示談金の相場は示せません。示談書の作り方は、示談書の書き方で扱っています。
3 窃盗症・認知症と治療の態勢
判決が評価しているのは診断名ではなく、判決の時点で現に動いている治療と監督の仕組みです。
責任能力が争われたのは17件(第一審14件・上訴審3件)で、第一審で心神耗弱が認められたのは1件のみでした。責任能力を否定しない理由は、違法性の認識、合目的的な行動、発覚しそうな場面で思いとどまれていることの3点です。合目的的な行動とは、人目のない場所を選ぶ、一部の商品を精算して買物客を装うといったものです。
当事務所が確認した裁判例では、精神障害の影響は、責任能力の問題としてではなく、犯情としての責任非難の低減として量刑に反映されています。
精神障害が被告人の行動制御能力を相当程度低下させていたことは被告人の責任非難を相当程度減少させるものとして、被告人に有利な犯情として考慮できる
(分析対象裁判例の判示)
執行猶予や罰金となった事案で判決が挙げた再犯防止の内容は、すでに動いている仕組みでした。施設に入所して一人での外出が許されていないこと、訪問介護ヘルパーに買い物支援を委託したこと、保釈後に再入院して窃盗症を扱う法人の寮に入所したことなどです。
日本酒2本(410円)を万引きした事案では、判決は実刑を検討すべき事案としました。前回の判決の後、息子は被告人を実際に入院させ、施設に入所させ、GPS装置を取り付けて行動を見守っていました。判決はこれらの点を挙げて、今回も息子の監督に期待できるとし、懲役1年・執行猶予4年・保護観察付きとしています。
反対に、治療を受ける意向の表明にとどまった事案では、判決は「前回の裁判時でも同様に誓っており、その監督にも多くを期待することはできない」と述べています。この判決が再犯しないこと等の誓約を評価しなかったのは、前回の裁判時にも同じ誓約をしていたためです。
再度の執行猶予に向けた立証として、5点を挙げる整理があります(「病的窃盗常習事件に関する量刑及び責任能力判断の現状と課題」専修大学法学研究所所報58号136-137頁)。医師の意見、入院治療の継続、本人の治療意欲、家族の協力、判決までに再犯しないことです。
当事務所が確認した裁判例では、判決が挙げているのは診断名ではなく、現に動いている治療と監督の仕組みでした。これが再度の執行猶予の可否に影響を与えていることが分かります。
どの程度の態勢があれば足りるか明確な指針はありません。同じ家族の監督でも、前回の実績がある事案では評価され、前回も同じ誓約をしていた事案では評価されていません。診断と責任能力の関係や治療の内容は、窃盗症(クレプトマニア)の記事で扱っています。
4 犯行の反復・件数・手口
判決は、1回の犯行の重さではなく、反復の様子を犯行態様として評価しています。
実刑となった事案では、「盗癖には根深いものがある」「常習性及び規範意識の鈍麻は明らかで、更生の意欲は乏しい」といった判示が、実刑の理由として述べられています。
前科がない区分でも、判決が反復の様子を重く評価した事案があります。親子の万引きの事案では「手慣れた様子のうかがえる巧妙な犯行」とされ、家電量販店の事案では「職業的かつ常習性の顕著な犯行」とされました。
前科がない区分で保護観察が付いた2件は、1か月に7回の換金目的の万引きと、週2〜3回の頻度で万引きし12歳の子を実行役にした事案です。いずれも判決が、常習性が顕著で社会内での自力更生に限界がある旨を述べています。
当事務所が確認した裁判例では、反復と手口は、犯罪歴とは別に、犯情として評価されていることが分かります。
第5 執行猶予と実刑の分かれ目
当事務所が確認した裁判例66件では、犯罪歴の程度が実刑と執行猶予の区分におおむね対応しており、その中で結論が分かれたのは執行猶予期間中の再犯の区分でした。
1 区分ごとの結論
前科なしの12件は、執行猶予11件・罰金1件で、実刑はありませんでした。
猶予付き懲役前科ありの28件は、執行猶予15件・実刑11件・罰金2件に分かれました。このうち執行猶予の期間中の再犯25件は、再度の執行猶予14件・実刑9件・罰金2件です。
累犯加重・常習累犯窃盗の13件は、全件が実刑でした。常習累犯窃盗の法定刑は3年以上の有期拘禁刑ですから、法律上の減軽か酌量減軽を経なければ、執行猶予は事実上付きません。
2 再度の執行猶予の要件と令和4年改正
再度の執行猶予の要件は、刑法25条2項が定めています。
前に拘禁刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が二年以下の拘禁刑の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、この項本文の規定により刑の全部の執行を猶予されて、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。
(刑法25条2項)
25条1項の執行猶予は、3年以下の拘禁刑の言渡しを受けることと、前科についての要件を満たすことが必要です。前科の要件は、前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがないか、刑の執行を終えた日などから5年以内に拘禁刑以上の刑に処せられたことがないことです。そのうえで、情状により裁判所が判断します(刑法25条1項)。
条文上は50万円以下の罰金にも執行猶予を付けられますが、実務上、罰金刑に執行猶予が付く例はほとんどありません。
執行猶予の期間中の再犯では、2年以下の拘禁刑の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときに限り、もう一度執行猶予を付けられます(25条2項)。この場合、保護観察は必要的です(25条の2第1項後段)。
2項ただし書により、再度の執行猶予で保護観察に付され、その期間内に更に罪を犯した人は除かれます。
令和4年の改正で変わったのは2点です。再度の執行猶予を付けられる刑の上限が1年以下から2年以下になったことと、初度の裁量的な保護観察の期間中の再犯にも再度の執行猶予の余地が生まれたことです。なお、要件である「情状に特に酌量すべきものがあるとき」自体は変わっていません(「窃盗症と責任能力・量刑」『刑事事実認定重要判決50選〔第4版〕』98頁)。
法務省は、改正後も再度の執行猶予が付されるのが極めて限定的な場合であることに変わりはないとしています。検察官も、執行猶予の言渡しを受けた人の再犯は猶予を受けていない人より行為責任が重いとして、再度の執行猶予を否定する論告を行っています。
分析対象裁判例で、刑の一部の執行猶予(刑法27条の2)が適用された事案は0件です。司法統計でも、窃盗の罪の一部執行猶予は18人(実刑5,347人の内数)にとどまります。
3 境界に位置する事案
実刑と執行猶予の判断が接している事案の代表例は、次の3種類です。
- 実刑の求刑に対して、再度の執行猶予を言い渡した2件
- 猶予判決から約3週間・約1か月余りでの再犯で、再度の執行猶予となった2件
- 常習累犯窃盗の下限3年を、酌量減軽で下回った3件
4 上訴審で刑や結論が変わった事案
分析対象裁判例の上訴審11件のうち、量刑不当の主張を正面から判断して刑を変更したものは0件でした。刑や有罪・無罪の結論が変わった6件の理由は、次のとおりです。
第一審判決の後に再犯防止の態勢が現実に整ったとして、刑訴法397条2項により破棄されたものが2件です。いずれも懲役10月の実刑が、懲役1年・執行猶予5年・保護観察付きに変わりました。医療と福祉の従事者と長男夫婦による同居監督が整った事案と、自宅の建替えが終わって夫・長女との同居が始まり、要介護1の認定も受けた事案でした。
検察官控訴により実刑となったものが1件です。第一審が生活苦の前提とした孫への仕送りが、控訴審の事実の取調べで存在しなかったと認定され、懲役8月の実刑となりました。
事実誤認を理由とするものが3件です。1件は、常習性を否定した第一審を破棄し、常習累犯窃盗を認定して懲役2年とした事案です。1件は、心神耗弱を認めた第一審を破棄し、完全責任能力として懲役4月を懲役10月とした事案で、上告審が控訴審の自判の手続を違法として破棄差戻ししています。もう1件は、被告人を犯人とした認定を誤りとして懲役4年の第一審を破棄し、無罪とした事案です。この第一審判決は、第2のとおり量刑の集計から除いています。
当事務所が確認した裁判例では、上訴審で刑や結論が変わった理由は、量刑の重い軽いの判断ではありません。第一審判決の後に態勢が現実に整ったこと、または第一審が前提とした事実が否定されたことが、結論に影響を与えていることが分かります。
397条2項で執行猶予に変わった2件は、いずれも高齢で認知機能の低下があり、親族の同居監督が実現した事案です。他の類型で同じ扱いになるかは分かりません。
5 見通しの範囲
犯罪歴の程度は、裁判例の結論と対応していた事情であり、それだけで結論が決まるものではありません。最終的な刑の量定は、裁判所の判断にゆだねられます。執行猶予の制度そのものは、執行猶予とはで扱っています。
第6 弁護人の対応
起訴される前の段階では終わり方の選択肢が残っており、起訴された後は、判決の時点で態勢が現に動いている状態にすることに時間を充てます。
1 起訴される前
弁護人は、本人からの聴き取りで犯罪歴を確認し、盗犯等防止法3条の形式的要件にあたるかを数えます。数えるのは、行為前10年以内に6月以上の拘禁刑の執行を受けた回数です。執行の免除を得た場合も数えますが、猶予が取り消されずに期間を満了した前科は数えません(第1の4)。
累犯加重(刑法56条・57条)の5年の要件も、前刑の執行を終えた日から数えて確認します。
店舗への被害弁償を申し出るときは、本社の方針を確認します。申出と相手の対応の経過は、記録に残します。受領されない場合には、弁済供託をして供託金の払戻請求権を放棄した処理が、判決で評価された例があります。
この段階では、微罪処分・起訴猶予・略式命令という終わり方がまだ残っており、とりうる手段は起訴後より多くあります。
2 起訴された後
治療は、意向の表明ではなく、判決の時点で現に動いている状態にします。受診の実績、入院、自助グループへの参加、買い物の同行、宅配への切替え、施設への入所がその例です。監督者には、前回の判決の後に実際に何をしたかを具体的に述べられる人を選びます。
常習累犯窃盗で起訴された事件では、常習性を争うか、常習性は争わずに酌量減軽を求めるかの方針を早い段階で決めます。常習性が否定されれば、法定刑の下限3年の適用がなくなります。
常習性を争う場合の検討の順序として、まず今回の窃盗自体について、動機・態様・回数・間隔から常習性が認められるかを見ます。認められない場合に、前科の窃盗で形成された常習性が今回の犯行に現れたといえるかを見る、という整理が示されています。
弁護人は、第一審の判決期日から逆算して、環境を整える時期と資料を提出する時期を決めます。
第一審判決の後に環境が整った場合は、控訴審で刑訴法397条2項に基づいて主張します。もっとも、結果を決めるのは裁判所であり、犯罪歴から見込まれる処分と異なる結論になる事案もあります。そのため、起訴前・起訴後の各時点で、とれる弁護活動をしておく意味があります。
第7 よくある質問
よく受ける質問を4問まとめます。
1 罰金で終わることはあるか
あります。刑法235条には50万円以下の罰金の選択刑があり、令和6年に窃盗罪で起訴された人の2割弱(31,014人のうち5,707人)は、罰金を求める略式命令請求でした。罰金を納めない場合は、労役場に留置されます(刑法18条1項)。
2 執行猶予中の万引きは必ず実刑か
必ず実刑になるわけではありません。2年以下の拘禁刑の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときは、もう一度執行猶予を付けられます(刑法25条2項)。この場合は必ず保護観察が付きます。ただし、再度の執行猶予で保護観察に付され、その期間内に更に罪を犯した場合は、もう一度執行猶予を付けることはできません(刑法25条2項ただし書)。
もっとも、当事務所が確認した裁判例でも、判決はほぼ例外なく、本来は実刑であるとしたうえで、情状に特に酌量すべきものがあるかを検討しています。犯罪歴の程度による区分の中で結論が分かれたのは、この猶予中の再犯の区分でした(第3の3・第5)。
3 前刑の執行猶予はどうなるか
執行猶予の期間中の再犯で実刑となれば、前の刑の執行猶予も取り消されます。刑法26条は、次の場合に執行猶予の言渡しを取り消さなければならないと定めています。
猶予の期間内に更に罪を犯して拘禁刑以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき。
(刑法26条1号)
4 10年経てば常習累犯窃盗にならないのか
前科の服役が行為前10年以内に3回以上という形式的要件は、時の経過とともに満たさなくなり、その後は通常の窃盗罪が適用されます。もっとも、常習性そのものに変化がないことから、量刑で調整することとなるとされています。
窃盗の初犯の処分は万引きで逮捕されたら、窃盗症の診断と治療は窃盗症(クレプトマニア)で扱っています。
参考文献
- 竹川俊也「『万引き』と責任非難・量刑」『高橋則夫先生古稀祝賀論文集(下)』成文堂、2022年、57-98頁
- 岡本貴幸『図解で明快 擬律判断ここが境界〔第3版〕』東京法令出版、2026年、35-40頁
- 石井伸興「常習累犯窃盗罪」植村立郎監修『刑事事実認定重要判決50選(下)〔第3版〕』立花書房、2019年、141-154頁
- 青沼潔「常習累犯窃盗罪」植村立郎監修・遠藤邦彦=安東章編『刑事事実認定重要判決50選〔第4版〕』立花書房、2026年、555-570頁
- 友重雅裕「窃盗症と責任能力・量刑」植村立郎監修・遠藤邦彦=安東章編『刑事事実認定重要判決50選〔第4版〕』立花書房、2026年、85-101頁
- 林大悟「病的窃盗常習事件に関する量刑及び責任能力判断の現状と課題」専修大学法学研究所所報58号、2019年、121-148頁
- 城下裕二「量刑」太田達也=川出敏裕編著『新 刑事政策講座Ⅰ』成文堂、2026年、307-330頁
- 小池信太郎「量刑における行為責任主義と量刑事情の位置付け」『司法研修所論集』第135号、2025年、1-44頁
- 最高裁判所事務総局『司法統計年報 2 刑事編』令和6年、第33表・第34表
- 法務省法務総合研究所『令和7年版犯罪白書』資料2-2・資料2-4・2-3-3-4表
- 警察庁長官官房『令和6年の刑法犯に関する統計資料』令和7年8月、図表2-3-3-ウ-5
法令・データベース
- 盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律
- D1-Law.com判例体系