盗撮の量刑は、罰金で終わる事件と、正式な裁判で拘禁刑が言い渡される事件に分かれます。性的姿態等撮影処罰法2条の法定刑は三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金で、罰金刑があるため略式手続となる可能性もあります。令和6年に地方裁判所で判決を受けた461人のうち罰金は15人ですが、この統計に簡易裁判所の略式罰金は入っていません。盗撮事件には、①擬律(どの罪として扱うか)、②処分の有無(起訴不起訴の判断)、③処分形式(正式裁判か略式裁判か)、④宣告刑(実刑か執行猶予か)という流れがあります。

第1 撮影罪と迷惑行為防止条例のどちらで問われるか
盗撮は、2023年7月13日に施行された性的姿態等撮影処罰法の2条で問われるのが基本です。それまで盗撮を処罰していたのは各地の迷惑行為防止条例と軽犯罪法で、盗撮そのものを正面から処罰する法律は置かれていませんでした。
1 2023年にできた法律
正式名称は「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」(令和五年法律第六十七号)です。長いため、この記事では撮影処罰法と呼びます。
この法律ができた背景として、立案にかかわった担当者の解説が挙げているのは、盗撮事案の深刻化です。スマートフォン等を用いた下着等の盗撮事案と、性犯罪の犯行時に被害者の姿態を撮影する事案が多数発生していると述べています(法曹時報76巻2号)。
この法律が何を守ろうとしているかは、量刑を考えるときにも参考になります。
「本法第2章の罪は…その保護法益は、意思に反して自己の性的な姿態を他の機会に他人に見られないという性的自由・性的自己決定権である」(法曹時報76巻2号488頁)
守られているのは、撮られた人が自分の姿態を他人に見られない状態を保つ利益です。盗撮をその場のマナー違反ではなく個人の権利の侵害としてとらえる建て付けで、後の章で扱う量刑の事情も、この利益がどこまで侵されたかという軸に並びます。
刑法研究者の解説も、同じ方向で整理しています。この利益を、性的な姿態に関する情報を適切に管理する権利ととらえています。そのうえで、究極的には個人の性的自由・性的自己決定権の一環に位置づけています(警察学論集77巻11号105頁)。
2 撮影罪の行為類型と法定刑
撮影罪は、4つの類型を並べています。
次の各号のいずれかに掲げる行為をした者は、三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。
(性的姿態等撮影処罰法2条1項柱書)
- ① 正当な理由がないのに、ひそかに、対象となる性的姿態等を撮影する行為
- ② 同意しない意思を形成し、表明し、全うすることが困難な状態にさせ、またはその状態に乗じて撮影する行為
- ③ 性的なものではないと誤信させ、または特定の者以外は閲覧しないと誤信させて撮影する行為
- ④ 正当な理由がないのに、十三歳未満の者を対象として撮影する行為と、十三歳以上十六歳未満の者を5歳以上年長の者が撮影する行為
いわゆる盗撮は一号にあたります。撮影の対象になるのは、性的な部位(性器・肛門・これらの周辺部・臀部・胸部)と、それを現に覆っている下着の部分です(2条1項1号イ)。下着は、通常衣服で覆われており、かつ性的な部位を覆うのに用いられるものに限られます。未遂も処罰されます(同条2項)。
胸部は年齢・性別を問わず含まれます。男性が被写体の場合も対象になります(警察学論集77巻11号107頁)。
一号が対象とする姿態は、これだけではありません。わいせつな行為や性交等(刑法177条1項に規定する性交等)がされている間の人の姿態も含まれます(2条1項1号ロ)。第2の6で扱う、性交の場面を撮影した事案は、この類型にあたります。
条文は、処罰の対象からあらかじめ外している姿態も定めています。除かれるのは、人が通常衣服を着けている場所での姿態のうち、不特定または多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し、またはとっているものです。この部分が「対象性的姿態等」から外れます(2条1項1号)。
もっとも、この除外は限られた場面のものです。撮られた人が、不特定または多数の目に触れることを認識したうえで自ら露出していた、という評価が成り立つ必要があります。
法定刑は三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金です。撮影処罰法には、常習の場合に刑を重くする規定が置かれていません。 この点は、常習加重の規定を置く迷惑行為防止条例との違いになります。
3 画像を人に渡した場合
撮影した画像を他人に渡すと、撮影罪とは別に提供罪が成立します。
1 性的影像記録(前条第一項各号に掲げる行為若しくは第六条第一項の行為により生成された電磁的記録…を複写したものをいう。以下同じ。)を提供した者は、三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。
2 性的影像記録を不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、五年以下の拘禁刑若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
(性的姿態等撮影処罰法3条)
提供した場合が1項、不特定または多数への提供と公然陳列が2項です。2項は上限が五年以下の拘禁刑・五百万円以下の罰金に上がり、拘禁刑と罰金を併科することもできます。提供や公然陳列の行為をする目的で保管していただけの場合も、二年以下の拘禁刑又は二百万円以下の罰金が定められています(4条)。
影像を送信する行為も、罪に問われる可能性があります。正当な理由がないのに、送信されることを知らない人の対象性的姿態等の影像を、不特定または多数の者に送信する行為などがこれにあたります。法定刑は五年以下の拘禁刑若しくは五百万円以下の罰金で、併科もできます(撮影処罰法5条1項)。
事情を知って、そうして送信された影像をさらに送信した者も、同じ扱いになります(同条2項)。撮る、渡す、渡すために持つ、送るという行為ごとに罪が分かれる建て付けです。
撮影に関する犯罪の全体像は、撮影犯罪の解説で扱っています。
4 迷惑行為防止条例との関係
盗撮行為は、各地の迷惑行為防止条例でも処罰され得ます。ただし規定や罰則は自治体ごとに異なり、全国一律ではありません。条例の罰則には、法律上の上限が定められています。
「普通地方公共団体は、法令に特別の定めがあるものを除くほか、その条例中に、条例に違反した者に対し、2年以下の拘禁刑、100万円以下の罰金、拘留、科料若しくは没収の刑又は5万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができる」(地方自治法14条3項)
条例の罰則は、この上限を超えられません。常習の場合の加重規定を条例が置いても、2年以下の拘禁刑という枠は動きません。
撮影処罰法2条の法定刑は三年以下の拘禁刑です。条例の法定刑は、撮影処罰法より軽く定められています。
条例と撮影処罰法とでは、守ろうとしている利益が違います。
「迷惑防止条例が、社会的法益の保護、すなわち、周りから見た『卑わい』性を重視するのに対し、性的姿態撮影等処罰法は、被害者の個人的法益としての性的自己決定権の保護を重視している点で異なっており、条例が法令に違反する場合ではないといえる。したがって、法律の先占の問題は生じない」(上智法学論集67巻1・2・3号)
撮影処罰法ができたからといって、条例が使えなくなるわけではありません。両方が同時に成立する場合もあります。
「令和4年決定の事案のような場合には、両罪が同時に成立し、観念的競合となるが、今後は、多くの場合には、性的姿態等撮影(未遂)罪によって盗撮行為の処罰が可能となるように思われる」(上智法学論集67巻1・2・3号)
盗撮行為の中心は、条例から撮影処罰法へ移りつつあるという見方です。
どちらで立件されるかの振り分けは、この記事では扱いません。撮影処罰法と条例の適用関係は別記事で扱う予定です。条例の内容は迷惑行為防止条例の解説で扱っています。
5 不同意わいせつ罪との関係
撮影処罰法2条3項は、刑法176条と179条1項(監護者わいせつ)の適用を妨げないと定めています。撮影行為そのものがわいせつな行為と評価される場合には、不同意わいせつ罪も同時に成立し得ます。
両罪の法定刑の差は大きく、不同意わいせつ罪は六月以上十年以下の拘禁刑です(刑法176条1項)。この差は、第3で扱う罰金と正式な裁判の分かれ目に直結します。
撮影罪の成立要件そのものは、撮影罪の成立要件の解説で扱っています。
第2 量刑を分ける事情
量刑を分けるのは、次の6つの事情です。
- ① 撮影の態様
- ② 撮影の回数と保管データの量
- ③ 繰り返しの有無
- ④ 被害者が特定できるかどうか
- ⑤ 被害弁償と示談
- ⑥ 撮影以外の罪が同時に成立するかどうか
①から⑤は、撮られた人の被害がどこまで広がったかという一つの軸に並びます。⑥だけは軸が違い、処断される刑の枠そのものを動かします。
1 撮影の態様
どこで、どのような機器を使って撮ったかが出発点になります。撮影罪の検挙で犯行に使われた機器は、警察庁生活安全局の調査結果に出ています。
令和5年は携帯電話975件・小型秘密カメラ187件・その他の撮影機器41件でした。令和6年は携帯電話5,186件・小型秘密カメラ926件・その他の撮影機器167件です。
数の上では携帯電話が大半を占めます。もっとも、更衣室等に機器を隠す、撮影機器に工作を加えるといった態様は、常習性を認める方向に働く事情とされます。
2条1項が並べているのは、一号の「ひそかに」撮影する類型だけではありません。同意しない意思を全うすることが困難な状態に乗じた二号、誤信させた三号、年少者を対象とする四号があります。同じ「盗撮」という言葉でも、条文がとらえている行為の性質は号ごとに違います。
2 撮影の回数と保管データの量
撮影が1回だけか繰り返されたか、保管されていたデータがどれだけあったかは、量刑を分ける事情になります。
⑴ 保管データが客観的な証拠になる
押収されたスマートフォンやパソコンに残っていた画像・動画は、余罪を裏づける客観的な証拠として扱われます。
「盗撮という行為の性質上、犯罪が反復実行された場合に、客観的な証拠が残る場合が痴漢と比較して多い点が相違といえる」(『刑事事実認定重要判決50選(下)』184頁)
手元の機器に何が残っているかは、本人が申告するかどうかとは別に、捜査の側から見えます。
⑵ データを他人に渡したかどうか
画像を他人に渡した段階で、提供の罪が加わり、法定刑の上限も上がります。 第1の3で見たとおり、提供は三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金です。不特定または多数への提供と公然陳列は五年以下の拘禁刑若しくは五百万円以下の罰金で、併科もできます(撮影処罰法3条)。
データが手元にとどまっていたのか、外に出たのかは、被害の広がりそのものです。
3 繰り返しの有無と常習性
第1の2で述べたとおり、撮影処罰法には常習加重の規定がありません。常習性が正面から要件になるのは、常習の場合の加重規定を置く迷惑行為防止条例のもとで立件された場合です。
条例違反の時代には、常習性が争点になった裁判例が蓄積しています。盗撮の常習性を認定するときに検討されるのは、①前科前歴の罪名、②犯行の手口・態様、③余罪の3つです。①については、同一の罪名の前科が積極的な事情になる一方、盗撮は手口の工夫が多様なため慎重な検討が必要だと指摘されています。
痴漢の事案についての整理ですが、同じ文献が痴漢と盗撮を並べて論じています。
「強制わいせつ罪の前科があることは、常習痴漢罪の常習性を認定する方向に働く事情となる」(『刑事事実認定重要判決50選(下)』172頁、176〜177頁)
この分析は迷惑行為防止条例の時代のものです。常習加重の規定がない撮影処罰法のもとでは、繰り返しの有無は法定刑の枠を動かす要素ではなく、その枠の中で量刑を左右する事情として扱われることになります。
4 被害者が特定できるかどうか
被害者が誰か分からない事件では、被害弁償と示談の交渉そのものができません。電車内や店舗内で不特定の相手を撮った事件では、被害者が特定できない場合があります。
当事務所では、盗撮事件を撮影の場面ごとに分けて整理しています。電車内、店舗内、学校や公共空間、親密な関係にある相手、自画撮りの要求の5つです。前の3つは、被害者が誰か分からないまま捜査が進むことがあります。後の2つでは、被害者が最初から特定されています。
被害者が特定できない場合にできることは限られます。考えられるのは、証拠が足りないことを理由に不起訴を求めることと、再犯防止の手当てを進めることくらいです。示談を前提にした見通しは立てられず、不起訴にならないまま略式の罰金で終わる可能性の方が高いのが実情です。
5 被害弁償と示談
示談が成立すれば必ず軽くなる、という関係にはありません。もっとも、被害弁償と示談は、被害の回復に直接関わる事情として量刑に影響します。
示談金に確立した相場はありません。 撮影処罰法は施行から日が浅く、示談金の水準は事案の内容によって大きく異なります。金額の目安を挙げる文献はありますが、いずれも迷惑行為防止条例の時代の実務を踏まえた参考値で、統計や判例に裏づけられた数字ではありません。
当事務所として確立した相場があるわけでもありません。示談の場面で弁護人が何をするかは、第5の1で扱います。
6 撮影以外の罪が同時に成立する場合
撮影行為と別の罪が同時に成立すると、量刑の枠そのものが変わります。高松高判令和7年2月13日は、罪数関係を2つに分けて判断しました。事案は、SNSを通じて16歳未満の被害者に性的姿態の画像送信を要求し、その後に性交をして姿態を動画撮影したものです。
「原判示第1の16歳未満の者に対する映像送信要求罪と、不同意わいせつ罪及びこれと観念的競合の関係にある他の2罪は、刑法54条1項前段の観念的競合の関係にあるというべきである」(高松高判令和7年2月13日)
画像送信を求める部分については、その要求行為自体が不同意わいせつ罪の実行行為と評価できるとされました。16歳未満の者に対する映像送信要求罪・不同意わいせつ罪・性的姿態等撮影罪・児童ポルノ製造罪の4罪が観念的競合とされました。処断は、重い不同意わいせつ罪の刑によることになります。
性交の場面については、判断が分かれます。性交行為と姿態の動画撮影行為は「通常伴う関係」になく、社会的見解上は別個の動態であるとして、併合罪とされました(刑法45条前段)。併合罪になれば、刑法47条により刑が加重されます。
罪数の考え方については、刑法研究者の論文も同じ方向を示しています。
「性的姿態等撮影罪の要件を充たす行為が、同時に不同意わいせつ罪または監護者わいせつ罪の要件を充足する場合には、両罪の罪数関係が問題となる」(警察学論集77巻11号122頁)
両罪の実行行為がどこまで重なるかに応じて、観念的競合または併合罪として処理されると整理されています。示談の場面でも、この区別が効きます。性被害と撮影による被害は別の被害であり、それぞれ手当てが必要になります。
第3 罰金と正式起訴の分かれ目
罰金で終わるか正式な裁判になるかは、検察官が決めます。冒頭の流れの②処分の有無と③処分形式にあたる部分で、その基準は条文上に明記されていません。
1 検察官の選択肢
捜査が終わると、検察官は起訴するかしないかを決めます。起訴しない処分には、犯罪の嫌疑が足りない場合のほか、嫌疑はあっても処分をしない起訴猶予があります。起訴猶予は不起訴処分の一種で、有罪の判断を受けたわけではありません。
起訴する場合は、さらに2つに分かれます。簡易裁判所に略式命令を請求する道と、公判請求、つまり正式な裁判を求める道です。不起訴の種類は不起訴処分の解説で扱っています。
2 略式手続の枠組み
簡易裁判所は、検察官の請求により、その管轄に属する事件について、公判前、略式命令で、百万円以下の罰金又は科料を科することができる。この場合には、刑の執行猶予をし、没収を科し、その他付随の処分をすることができる。
(刑事訴訟法461条)
略式命令は、簡易裁判所が書面の審理だけで罰金または科料を科す手続です。法廷に立つことはありません。
略式命令で科すことができる罰金は100万円が上限です。 撮影処罰法2条の選択刑は三百万円以下の罰金ですが、略式で科される罰金がその額に届くことはありません。三百万円という数字は、公判請求されたうえで罰金が選ばれた場合の上限です。
461条は、略式命令に付随して、刑の執行猶予をし、没収を科し、その他の処分をすることもできると定めています。罰金だけで終わる手続に見えても、没収の判断はこの中に含まれます。
裁判所の側にも歯止めがあります。
1 第四百六十二条の請求があつた場合において、その事件が略式命令をすることができないものであり、又はこれをすることが相当でないものであると思料するときは、通常の規定に従い、審判をしなければならない。
(刑事訴訟法463条1項)
検察官が略式命令を請求しても、裁判所が相当でないと判断すれば通常の審判に移ります。略式手続そのものは略式起訴の解説で扱っています。
3 罰金刑があるかどうかで経路が分かれる
盗撮という同じ言葉でとらえられる行為でも、問われる罪名によって罰金の可能性の有無が分かれます。

次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。
(刑法176条1項)
不同意わいせつ罪の法定刑に罰金はありません。 罰金または科料を科す手続である略式命令は、罰金刑の定めのない罪について使えません。
これに対して撮影処罰法2条は、三百万円以下の罰金を選択刑として置いています。この選択刑があるため、略式命令による罰金という選択肢があります。第1の5で触れた両罪の関係は、ここで実際の帰結の差になります。
4 略式になりやすい類型、公判請求される類型
ここから先は当事務所の見立てです。基本的には、1件のみで事実を認めており前科がなければ略式の罰金、否認している場合・前科がある場合・複数の事件が立件されている場合には公判請求に向かう、という感覚です。
この整理は、統計や判例の集計に裏づけられたものではありません。撮影処罰法の施行から日が浅い時期の見聞をまとめたもので、そのまま自分の事件にあてはめられる相場ではありません。
5 振り分けの基準は公表されていない
どの事件を略式にし、どの事件を公判請求するかの基準は公表されていません。 検察官がどう判断したかは、処分が出るまで分かりません。第4で見るとおり、検察の段階での内訳を示す公表統計にも、撮影処罰法だけを取り出した数字はありません。
罰金で終わるのか正式な裁判になるのかは、最終的に検察官の判断にゆだねられます。ここから先は弁護士にも断定できません。
第4 統計・研究から見える全体像
令和6年に地方裁判所で判決を受けた461人のうち、罰金を言い渡されたのは15人です。残りは拘禁刑で、実刑は3割弱です。

1 令和6年・通常第一審の461人
数字の出どころは、最高裁判所事務総局『司法統計年報 2 刑事編』令和6年版です。統計表上の名称は「性的姿態撮影等処罰法」で、本記事でいう撮影処罰法と同じ法律を指します。
通常第一審(全地方裁判所)の終局総人員は461人、うち有罪は442人(95.9%)でした。有罪の内訳は拘禁刑427人と罰金15人です。
拘禁刑427人の内訳は次のとおりです。
| 内訳 | 人員 | 割合 |
|---|---|---|
| 実刑 | 131人 | 30.7% |
| 全部執行猶予 | 292人 | 68.4% |
| 一部執行猶予 | 4人 | 0.9% |
罰金15人の額の区分のうち、13人は「50万円以上」の区分に入ります。次の区分が100万円以上のため、事実上は50万円以上100万円未満です。
残る2人は「30万円以上」の区分です。100万円以上と20万円以上の区分は、いずれも0人でした。
終局総人員461人と有罪442人の差である19人の内訳は、公表されている統計からは確認できません。
なお、令和6年の統計の表見出しは「懲役・禁錮」の表記です。拘禁刑への一本化は2025年6月1日に施行されたためで、本記事では拘禁刑と表記しています。
2 この数字に付く3つの限定
【注意点】
- ① この統計は法律単位で一括して集計されています。撮影罪(2条)だけでなく、提供罪や保管罪など同じ法律の他の罪を含む数字です。
- ② 集計の対象は通常第一審、つまり地方裁判所の裁判に限られます。簡易裁判所の略式命令による罰金は入っていません。
- ③ 罰金15人という母数は小さく、額の分布の頑健性は低いといえます。
①について補足します。撮影処罰法3条2項の不特定または多数への提供と公然陳列、5条の送信罪は、いずれも五年以下の拘禁刑若しくは五百万円以下の罰金で、2条より重い法定刑です。こうした重い罪の事案が混ざっていれば、実刑の割合はその分だけ高く出ます。
②が、読者の実感と統計の落差を生みます。盗撮の多くは略式命令の罰金で終わっているという実務の感覚と、地方裁判所の統計で罰金が15人しかいないという数字は、矛盾しません。
略式命令は簡易裁判所の手続であり、この表には最初から入っていないためです。 冒頭の流れでいえば、③処分形式で略式に進んだ人は、この461人の中にいません。
3 検挙の規模
盗撮の検挙は、撮影処罰法の施行後に大きく動いています。警察庁生活安全局生活安全企画課の調査結果によると、撮影罪は令和5年が認知2,391件・検挙1,203件でした。令和6年は認知7,773件・検挙6,310件です。
一方で、迷惑行為防止条例違反のうち盗撮の検挙件数は、令和3年5,019件、令和4年5,737件、令和5年5,730件と推移しています。
「盗撮事犯については、今後、迷惑防止条例よりも性的姿態撮影等処罰法の適用が多くなるとみられる」(『情報刑法Ⅱ』367頁)
数字の取り方によって幅が出る点にも触れておきます。『犯罪白書』令和7年版は、令和6年の撮影処罰法違反を認知8,436件・検挙6,867件としています。
警察庁生活安全局の調査結果は「ひそかに撮影」の類型を対象とし、『犯罪白書』は法律全体を対象としているため、集計の範囲が違います。同じ年でも、資料によって数字が変わります。
撮影処罰法ができる前の流れは、立案にかかわった担当者の解説に残っています。
「盗撮事犯の検挙件数・検挙人員(…)は、平成22年にはそれぞれ1,741件・1,639人であったのが、令和3年にはそれぞれ5,019件・3,501人に増加している。また、令和3年の検挙件数5,019件のうち、犯行供用物件としてスマートフォンが用いられたものは3,950件、小型(秘匿型)カメラが用いられたのは681件である(警察庁生活安全局の資料による)」(法曹時報76巻2号)
平成22年から令和3年までの11年で、検挙件数はおよそ3倍になりました。令和3年の時点で、使われた機器の約8割がスマートフォンです。
ただし、令和3年までのこの数字は、撮影処罰法ができる前の検挙です。第1で述べたとおり、当時盗撮を処罰していたのは条例と軽犯罪法でした。撮影罪の検挙件数とそのまま比較することはできません。
4 検察の段階の内訳は公表資料から確認できない
撮影処罰法だけを取り出した検察の段階の数値は、公表資料に見当たりません。起訴率・起訴猶予率・略式命令請求率のいずれも、確定した数字を示せない状態です。
『犯罪白書』令和7年版の性犯罪の起訴・不起訴の統計は、不同意性交等罪と不同意わいせつ罪を対象としており、撮影処罰法は含まれていません。
施行後半年足らずの2023年の犯罪統計を分析した論文は、認知2,538件・検挙1,296件と報告しています。検察の段階については、起訴率64.8%・起訴猶予33.3%という数字を挙げています。起訴の内訳は、公判請求23.7%・略式命令請求41.1%です(法律時報96巻11号)。
起訴された事件では、略式命令の請求が公判請求を上回っていたことになります。
この数字は2023年の時期のもので、先の司法統計の461人(令和6年)とは年次も母集団も違います。同じ統計として合算することはできません。論文は孫引きの一次出典を明記しておらず、一次の統計まで確認することはできませんでした。
論文が引く2023年の認知2,538件・検挙1,296件は、先に挙げた警察庁生活安全局の調査結果の令和5年の数字とわずかに違います。一次の出典名が示されているのは、警察庁生活安全局の調査結果のほうです。
5 量刑相場が固まっていないこと
撮影罪だけを取り出した量刑相場は、まだ固まっていません。 撮影処罰法は施行から3年ほどで、裁判所が公開している判例にも反映が薄い状態です。当事務所でも、撮影罪単独の量刑相場は蓄積を待つ段階だと整理しています。
量刑は個別の事情をもとにした裁判官の判断です。この記事に載せた統計から、自分の事件の結論を予測することはできません。
第5 弁護人の弁護活動
弁護人が行うのは、次の3つです。
- ① 被害弁償と示談の交渉
- ② 再犯を防ぐための手当て
- ③ 身柄拘束を解く活動
いずれも、罪名が決まった後の処分の有無・処分形式・宣告刑に働きかける活動です。
1 被害弁償と示談の交渉
弁護人は、被害者側の意向を確認したうえで、被害弁償と示談の交渉を行います。示談の内容として当事務所が重視しているのは、被害弁償のほか、撮影されたデータを削除したことの証明です。
金額は事案によって大きく異なります。第2の5で述べたとおり、示談金の水準を示す確立した相場はありません。示談そのものについては示談の解説で扱っています。
2 再犯を防ぐための手当て
再犯を防ぐための手当ては、情状として検討される事項の中心になります。当事務所が情状弁護の要点として挙げているのは、被害弁償と示談、削除の証明、余罪への対応です。
第2の3で見た常習性の認定要素は、前科前歴、犯行の手口・態様、余罪の3つでした。裏返せば、繰り返しをどう断つかという問いになります。何をどう組み立てるかは、撮影の態様や生活の状況によって変わるため、弁護士が個別に設計します。
3 身柄拘束を解く活動
身柄拘束が続けば、その間は出勤も通学もできません。弁護人は、勾留の段階で身柄の解放を求める活動を行います。
5 略式命令を受けた後の選択
略式命令の告知を受けても、そこで手続が終わるとは限りません。
略式命令には、罪となるべき事実、適用した法令、科すべき刑及び附随の処分並びに略式命令の告知があつた日から十四日以内に正式裁判の請求をすることができる旨を示さなければならない。
(刑事訴訟法464条)
告知があった日から十四日以内であれば、正式裁判を請求できます。 請求できる旨は、略式命令の書面自体に示されます。
弁護人は、認定された事実と罰金額を確認したうえで、請求するかどうかを本人と検討します。期間が過ぎれば、この選択はできなくなります。
6 争う場合
撮影の事実そのものを争う事件では、量刑ではなく成立要件が問題になります。2条1項1号は「正当な理由がないのに、ひそかに」撮影することを要件としており、「正当な理由」の判断は実質的にならざるを得ないと指摘されています。
考慮される要素として挙げられているのは、次の5つの総合判断です(法律時報96巻11号)。
- ① 撮影行為者と対象者の関係
- ② 撮影に至る経緯
- ③ 撮影の目的
- ④ 撮影された姿態の内容
- ⑤ 撮影方法の態様等
どの要素をどう評価するかは、最終的に裁判所の判断にゆだねられます。
第6 よくある質問
1 罰金を納めれば前科はつかないのですか
略式命令も裁判です。第5の5で引いた刑事訴訟法464条は、略式命令に、罪となるべき事実、適用した法令、科すべき刑を示さなければならないと定めています。条文が「科すべき刑」と書いているとおり、罰金は刑罰です。法廷に立たずに書面で終わっても、有罪の裁判を受けたことに変わりはありません。
前科と前歴の違いは前科の解説で扱っています。
2 勤務先に知られますか
一般論として答えられる問題ではありません。実際上の分かれ目になるのは、身柄拘束が続いて出勤できない期間が生じるかどうかです。弁護人が勾留の段階で身柄の解放を求める活動を行うのは、この期間に関わるからです(第5の3)。それ以外の経路で職場に伝わるかどうかは、事案によって異なります。
3 押収されたスマートフォンは返ってきますか
基本的には返却されます。データが入っていた場合も、記録を消去すれば機器そのものは返ってくるのが通常です。撮影処罰法8条が没収の対象として定めているのは、犯罪行為により生じた物を複写した物などで、機器そのものではありません。
1 次に掲げる物は、没収することができる。
一 第二条第一項又は第六条第一項の罪の犯罪行為により生じた物を複写した物
(2号略)
(性的姿態等撮影処罰法8条1項)
没収は、原則として犯人以外の者に属しない物に限られます。ただし、犯人以外の者に属する物であっても、犯罪の後にその者が事情を知って保有するに至ったものは没収できると定められています(同条2項)。
記録の消去は、撮影処罰法10条が定める手続で行われます。消去して機器が戻る場合と、消去が技術的に難しく機器ごと廃棄される場合があり、どちらになるかは最終的に検察官の判断にゆだねられます。なお、押収の前後を問わず、データを自分で消したり隠したりすることは、証拠隠滅と評価される危険があります。
実際上の問題は、いつ返ってくるかです。捜査機関によって幅があり、スマートフォンの解析が終わり次第返却されることもあれば、終局処分まで返ってこないこともあります。弁護人が押収物還付請求を行うこともありますが、実務上は認められにくく、当事務所でも、身柄解放後に還付請求を行ったものの判断がされないまま、結局任意の返却を受けた経験があります。
4 撮影に失敗して画像が残っていない場合も罪になりますか
罪になり得ます。撮影処罰法2条2項が、2条1項の罪の未遂を罰すると定めているためです。
「未遂犯処罰と実行の着手の問題である。…撮影機器の差し向け行為や、これに準ずる卑わいな行為は、これまでも迷惑防止条例でもって処罰されてきた。そのため、こうした行為がなされた時点で、その実行の着手が認められると考えられるが、単に撮影機器を設置した場合は予備にとどまる場合もあり得よう」(『情報刑法Ⅱ』367頁)
撮影機器を向けた時点で着手が認められると考えられる一方、機器を設置しただけの段階では予備にとどまる場合もあり得ると整理されています。 どこで線が引かれるかは、今後の裁判例が示していくことになります。
第7 本記事の前提と更新
本記事は2026年8月時点の法令・運用に基づきます。判例・法改正に応じて随時更新します。
撮影処罰法は2023年7月13日の施行から3年余りで、量刑の傾向はこれから蓄積していきます。統計の年次が更新されたときや、撮影罪の量刑を扱う裁判例が公刊されたときには、本文の数字と見立てを改めます。
参考文献
- 浅沼雄介ほか「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律について⑴」法曹時報76巻2号(2024年)465頁以下
- 橋爪隆「性犯罪に対する処罰規定の改正等について⑶・完」警察学論集77巻11号(2024年)102頁以下
- 川崎友巳「性的姿態等撮影罪の検討」法律時報96巻11号(2024年)30〜35頁
- 富山侑美「盗撮行為における迷惑防止条例と性的姿態撮影等処罰法との関係について」上智法学論集67巻1・2・3号(2023年)99〜128頁
- 田邉三保子「痴漢及び盗撮の常習性」植村立郎監修『刑事事実認定重要判決50選(下)〔第3版〕』立花書房、171〜185頁
- 深町晋也ほか編『情報刑法Ⅱ』(2026年)362〜368頁
- 警察庁生活安全局生活安全企画課「令和5年中の痴漢・盗撮事犯に係る検挙状況の調査結果」「令和6年中の痴漢・盗撮事犯に係る検挙状況の調査結果」
- 最高裁判所事務総局『司法統計年報 2 刑事編』令和6年
- 『犯罪白書』令和7年版