保釈金は、裁判にきちんと出頭するという約束を裏づけて裁判所に預ける担保金です。文献では一般に150万円から300万円程度とされますが、事案の内容と本人の資力で上下します。約束を守れば戻り、逃亡や条件違反があれば没収されます。この記事は、額の決まり方・現金がないときの用意のしかた・戻る条件という「お金の実務」を順に説明します。
第1 保釈金は結局いくら用意すればよいのか
保釈金は、文献では一般に150万円から300万円程度とされています。別の実務書は、最低で150万円、通常は200万円ほどと説明します。いずれも幅のある目安で、事案の内容と本人の資力によって、この幅を上下します。なお、私の経験上、認め事案で執行猶予の見通しであれば200万円が多い印象です。
保釈が認められる条件や請求の手続は、保釈とは何かで説明しています。この記事は、保釈の見込みが立ったあとの「お金」に絞ります。
そもそも保釈は、起訴されたあとに勾留による身柄拘束を解く制度です。その引き換えに預けるのが保釈金で、被告人が裁判にきちんと出頭するという約束を、お金で裏づけるものです。
約束を守れば裁判の終わりに戻り、逃げたり条件を破ったりすれば没収されます。この戻る・戻らないの分かれ目が、保釈金を理解する軸になります。
戻ってくるのかという点は、ご家族が最初に気にされる点です。結論から言えば、戻るのが原則です。預けたお金は、裁判が終われば手元に返ります。守らなかったときだけ戻りません。その条件は第4で説明します。
同じ罪名でも、額は一律ではありません。150万円を下回る額が定められることもあれば、事件の内容によってはもっと高くなることもあります。額がどう決まるのかを、次に見ます。
第2 保釈金の額はどう決まるのか
保釈金の額は、刑事訴訟法93条2項が挙げる4つの事情を総合して、裁判所が決めます。
保証金額は、犯罪の性質及び情状、証拠の証明力並びに被告人の性格及び資産を考慮して、被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額でなければならない。 (刑事訴訟法93条2項)
考える事情は4つです。犯罪の性質と情状、証拠の証明力、被告人の性格、そして資産です。これらを見て、被告人が逃げずに出頭する気になる額はいくらか、という観点で金額が決まります。条文はこの4つを挙げますが、考える事情はこれらに限られるものではありません。
資産が考慮されるのは、担保として意味のある額でなければ、出頭の保証にならないからです。同じ事件でも、資力のある人には高めに、乏しい人には低めに定まる傾向があります。額が人によって違うのは、この考慮のためです。
実務では、裁判例の積み重ねによって、事件ごとにおおよその相場が形づくられているといわれます。ある程度の幅のある目安をもとに、事案の重大性や本人の資産・環境などを総合して、具体的な額が決められているという説明です。
その相場には幅があり、時期による差もあります。賃金の水準が上がるにつれて、保証金額も高くなる傾向が指摘されています。
高額になった裁判例もあります。被害者が複数にわたる事件では、保証金の合計が1500万円とされました(最決平成26年3月25日)。強制わいせつ5件で起訴された事件では、1件あたり75万円の合計375万円とされています(最決平成24年10月26日)。もっとも、いずれも裁量による保釈の当否が争われた個別の事案で、そのまま相場として読むものではありません。
第3 現金を用意できないときはどうするか
現金が手元になくても、保釈金を用意する方法はいくつかあります。本人以外の家族が納めることができます。
1 誰が、何で納めるか
前提として、保釈は保証金を納めてはじめて実行され、納めるまで釈放されません(刑事訴訟法94条1項)。だからこそ、資金の準備が切実になります。
お金を出すのは、被告人本人でなくてかまいません。刑事訴訟法94条2項は、保釈を請求した人以外の者が納めることを認めています。第2で見た「出頭を保証する担保」という性質は、誰が用意したかを問わないからです。家族が用意して納めても、保釈金としての意味は変わりません。
納めるのは現金でなくてもかまいません。94条3項は、有価証券や、第三者が差し出す保証書での代用を認めています。保証書は、名義人が保証金額をいつでも納める義務を負う文書で、没取のときには最終的にその人の財産に及びます。弁護士会の協同組合が保証書を発行する制度もあり、この仕組みを使うものです。
2 民間団体の立替という選択肢
手元に相場の額がなくても、それだけで保釈の請求をあきらめる必要はありません。まとまった現金も担保も用意しにくいときは、民間団体の立替を検討します。日本保釈支援協会は、保釈金を立て替える事業を行っています。関係者が申し込み、審査を経て、協会から弁護人に立替金が振り込まれます。それを弁護人が裁判所に納める、という流れです。
たとえば、前科があって家族と距離のある方でも、友人が申込人となり、別の保証制度を使って保釈にこぎ着けた例が文献に紹介されています。一つの制度でだめでも、あきらめずに複数をあわせて検討する価値があります。
協会の公開情報によると、以下のとおりです(2026年7月時点)。
- ① 立替の限度額は500万円
- ② 立替期間は2か月
- ③ 審査は最短30分
- ④ 担保や保証人は不要
申し込めるのは家族や友人などで、被告人本人は申し込めません。手数料は立替額に応じて定まり、たとえば200万円の立替で5万5000円ほど、これに別途の事務手数料が加わります。料金や上限は協会の判断で変わりうるので、利用の前に協会のサイトで最新の内容を確かめておくと確実です。
立替を使うときに気をつけたいのは、没取されたときの負担です。保釈が取り消されて保証金が没取されると、申込人は協会に立替金相当額を弁償する義務を負います(2026年7月時点)。自己資金を納めた場合と違い、立替では申込人にこの負担が残ります。準備の手段を選ぶときは、この違いも踏まえて考えます。
第4 保釈金は戻ってくるのか
保釈金は、裁判が終われば戻るのが原則で、被告人が逃亡したり保釈の条件に違反したりしたときにかぎり、その全部または一部が没取されます(刑事訴訟法96条)。第1でふれたとおり、約束を守っていれば返ってくる担保だからです。逃げも隠れもせず手続を全うすれば、没取されなかった保証金は還付されます。
1 戻る手続と時期
戻す手続そのものは簡単です。保証金を納めるときに振込先の口座を書いておけば、判決の言い渡しのあと、数日から1週間ほどで指定の口座に振り込まれます。
戻る場面は、判決のときだけではありません。勾留が取り消されたときや、保釈が失効して収容されたときにも、没取されなかった保証金は還付されます。
2 没取される場合
戻らないのは、約束を破ったときです。刑事訴訟法96条は、次のような場合に保釈を取り消せると定めています。
- ① 正当な理由なく召喚に応じず出頭しないとき
- ② 逃亡し、または逃亡を疑う相当な理由があるとき
- ③ 証拠を隠し、または隠すと疑う相当な理由があるとき
- ④ 被害者や証人などの身体・財産に危害を加え、または脅すとき
- ⑤ 正当な理由なく報告をせず、または虚偽の報告をしたとき
- ⑥ 住居の制限その他の条件に違反したとき
取り消されたとき、裁判所は保証金の全部または一部を没取できます。
没取するかどうか、するとしていくらかは、裁判所の裁量です。全額とはかぎりません。一部だけが没取され、残りが戻ることもあります。
弁護人が出頭の確保に十分努めていた事情があれば、没取額が減らされる余地もあるとされています。実際に、没取を行き過ぎとして取り消した裁判例もあります(大阪高決昭和60年8月9日)。
ここまでは還付される内容を紹介してきましたが、例外もあります。実刑の判決を受けたあとに逃亡すると、没取は裁量ではなく義務になります。2023年の法改正で、この場合の必要的な没取が定められました。判決が出たあとも、手続が終わるまで約束は続きます。
第5 弁護人は保釈金について何をするのか
弁護人は、保釈を請求するだけでなく、保証金額そのものにも働きかけます。被告人の所得や資産の資料を裁判所に示し、裁判官との面談で、額を適正な水準にするよう求めます。資力に見合わない高い額は、保釈の機会を実際に奪うからです。
用意の方法も一緒に考えます。現金が足りなければ、第三者の保証書や有価証券での代用、民間団体の立替といった手段のうち、そのご家族に合うものを選びます。立替を使う場合は、協会から立替金を受け取って裁判所に納め、還付後に協会へ返すまでの実務も、弁護人が担います。
実刑判決のあとに改めて保釈を求める再保釈では、保証金が増えるのが通例です。文献では、東京の裁判所で従前の1.5倍とされることが多いと説明されています。大阪や名古屋では、50万円から100万円ほど増えて総額300万円や400万円といった、きりのよい額になる例が多いようです。増額を見込んだ準備も、弁護人の仕事の一つです。
第6 よくある質問
1 保釈金のほかに費用はかかりますか
弁護士に依頼する場合の弁護士費用は、保釈金とは別に必要です。保釈金は裁判所に預けて戻りうるお金で、弁護士費用は弁護活動への報酬です。性格の違うお金です。詳しくは刑事事件の弁護士費用で説明しています。
2 有罪判決が出ても保釈金は戻りますか
戻るのが原則です。実刑の判決でも、逃げずに手続を続けるかぎり、没取されなかった保証金は還付されます。戻らないのは判決後に逃亡した場合などで、有罪か無罪かではなく、約束を守ったかどうかで決まります。
3 住んでいる地域で相場は違いますか
差が出ることがあります。文献は、保証金の相場には地域による差も時期による差もあると述べています。埼玉で保釈を進める場合の実務は、別の記事で扱う予定です。
第7 本記事の前提と更新
本記事は2026年7月時点の法令・運用に基づきます。判例・法改正に応じて随時更新します。
保釈や刑事事件のご相談は、当事務所でも受けています。相談の方法と費用は、費用のご案内をご覧ください。
参考文献
- 東京弁護士会法友全期会・刑事弁護研究会編『新・刑事弁護マニュアル 手続の勘所と実践知』(ぎょうせい、2022年)
- 現代人文社編『刑事弁護ビギナーズ ver.2.1』(現代人文社、2019年)
- 中山善房ほか編『大コンメンタール刑事訴訟法〔第三版〕第2巻』(青林書院、2024年)
- 酒巻匡『刑事訴訟法 第3版』(有斐閣、2024年)
- 一般社団法人日本保釈支援協会ウェブサイト(https://www.hosyaku.gr.jp/ ・2026年7月閲覧)