不同意わいせつ罪の量刑|初犯で執行猶予はつくのか、統計と判断の枠組み

不同意わいせつ罪の法定刑は、6か月以上10年以下の拘禁刑です。下限が6か月であるため、初犯では執行猶予を検討できる範囲に届きます。量刑は、法定刑の幅の中で、まず犯行そのものの事情(犯情)が刑の大枠を決め、次にそれ以外の事情(一般情状)を考慮して宣告刑が決まります。宣告刑が3年以下であれば、執行猶予が問題になります。この記事は、この流れを順に説明します。

第1 不同意わいせつ罪にはどのくらいの刑が定められているか

刑法176条は、不同意わいせつ罪に6か月以上10年以下の拘禁刑を定めています。この下限の低さが、初犯で執行猶予が現実の選択肢になる制度上の理由です。

1 法定刑は6か月以上10年以下の拘禁刑

1 次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。
(刑法176条1項)

条文の「六月以上十年以下」が、この罪の法定刑です。1項は8つの行為・事由を号で列挙しています。どの号にあたるかによって法定刑が変わることはありません。成立要件そのものは、不同意わいせつ罪の成立要件で扱っています。

罪名が「強制わいせつ罪」から「不同意わいせつ罪」に変わったのは、令和5年改正(法律第66号)によります。2023年6月23日に公布され、同年7月13日に施行されました。

刑の種類が「懲役」から「拘禁刑」になったのは、これとは別の改正です。令和4年法律第67号により懲役と禁錮が拘禁刑に一本化され、2025年6月1日から施行されました。呼び名が変わっただけで、176条の法定刑に変更はありません。

2 未遂と、けがをさせた場合

未遂も処罰されます。刑法180条は、176条・177条・179条の罪の未遂を罰すると定めています。

けがをさせた場合は、適用される条文自体が変わります。

1 第百七十六条若しくは第百七十九条第一項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は三年以上の拘禁刑に処する。
(刑法181条1項)

下限が6か月から3年に上がります。同じ181条でも、不同意性交等罪の系統である2項は「無期又は六年以上の拘禁刑」で、1項より下限が高く定められています。

行為そのものが176条の範囲でも、結果によって適用条文が移ることがあります。

3 罰金の定めがないため、略式では終わらない

176条の法定刑に、罰金はありません。177条・179条・181条も同じです。

略式命令は、100万円以下の罰金か科料にあたる事件だけを対象とする手続です(刑事訴訟法461条)。そのため、不同意わいせつ罪では略式命令で終わることが制度上ありません。起訴されれば、必ず公判請求になります。

起訴されるかどうかと、公判でどのような刑になるかが、そのまま問題になります。

4 不同意性交等罪との違いは下限にある

不同意性交等罪(刑法177条1項)の法定刑は、条文の言葉で「五年以上の有期拘禁刑」です。上限ではなく下限に、176条との大きな差があります。

執行猶予を検討できるのは、3年以下の拘禁刑の言渡しを受けたときです(刑法25条1項)。176条は下限が6か月ですから、刑を減軽しなくても3年以下の範囲に届きます。

177条は下限が5年ですから、減軽をしない限り3年以下にはなりません。執行猶予の可否を分ける制度上の入口は、この下限の差にあります。

不同意わいせつ罪と不同意性交等罪の法定刑の幅を、執行猶予が検討できる3年以下のラインと重ねて比較した図

不同意性交等罪の量刑を調べていて本記事にたどり着いた場合は、この下限の差を先に確認しておくと、あとの章の読み方が変わります。

5 量刑が決まるまでの流れ

法定刑の幅は、量刑の出発点にすぎません。実際の刑は、法定刑の幅の中で、犯情(犯行そのものの事情)が大枠を決め、一般情状(それ以外の事情)を考慮して宣告刑が決まり、宣告刑が3年以下であれば執行猶予が検討される、という流れで決まります。

第2 刑の重さを分けるのは、どのような事情か

量刑は、犯行そのものに関する事情で刑の大枠を決め、そのあとに犯行以外の事情で宣告刑を決める、という二段で組み立てられます。前の段を「犯情」、あとの段を「一般情状」と呼びます。

「量刑においては、まず量刑事情としての『犯情』、すなわち犯行の動機、手段・方法、結果などの犯罪行為自体に関する要素によって、『刑(ないし責任)の大枠』を決めた上で、次に、犯情以外の要素で、主として一般予防・特別予防に関する事情である『一般情状』を考慮して、最終的な宣告刑を決めるというものである」
(『新 刑事政策講座Ⅰ』310頁)

この順序は、示談などの事情がどこで効くかを決めます。示談は一般情状に属しますから、犯情で決まった大枠を動かす作業になります。大枠そのものを別の位置に移す働きはしません。

1 犯情(刑の大枠を決める事情)

⑴ 行為の動機・手段・方法

犯情は、犯行の動機、手段・方法、結果といった、犯罪行為自体に関する要素です。176条1項は、暴行・脅迫、薬物、睡眠、地位に基づく影響力といった事由を号で列挙しています。これらは成立要件であると同時に、どのような手段だったかという評価の対象にもなります。

もっとも、犯情に何でも取り込めるわけではありません。量刑論では、犯情の範囲が広がりすぎることへの警戒が示されています。

「『犯情』に属するとされる要素が広範囲にわたってしまうと…当然のことながら『行為責任』を超える刑罰を導く結果となり…『刑罰限定機能』が無意味となるおそれが生じる」
(『新 刑事政策講座Ⅰ』311頁)

行為の重さを超えて刑を重くしない、という歯止めがここにあります。第7で述べる弁護活動の一つは、この歯止めを具体的な事実の形で示す作業です。

⑵ 結果の重さ

結果が一定の線を超えると、第1の2で見たように、適用される条文が181条1項に移ります。下限が6か月から3年に上がるため、減軽をしなければ、執行猶予を検討できるのは3年ちょうどの言渡しに限られます。結果は、犯情の中でも刑の大枠を大きく動かす要素です。

⑶ 立場の利用と、加重に働く事情

加重に働く事情が重なると、示談があっても実刑が選ばれることがあります。教員が14歳の男児にSNSで接近した事案が、その例です。

松山地方裁判所は、求刑懲役5年に対し、懲役3年の実刑を言い渡しました(松山地判令和6年9月24日・LEX/DB文献番号25622376)。酌量減軽(情状を酌んで刑を軽くする措置)を経たうえでの判断です。控訴審は高松高判令和7年2月13日です(同25622377)。

この事案では、前科前歴がなく、100万円の示談が成立し、反省も認められていました。それでも、行為が繰り返されていたこと、拒絶を無視してカメラを隠して撮影したこと、教員という立場での動機が悪質であることが重くみられています。

ただし、この判決を初犯の相場として読むことはできません。被害者が16歳未満の児童で、不同意性交等罪と児童ポルノ製造を含む複合的な事件です。176条は、観念的競合(一つの行為が同時に複数の罪にあたる場合の扱い)の中で処断の基礎になった一部にすぎません。

加重に働く事情が強い事件では示談だけで結論が決まらない、という限度で参考になる事例です。

2 一般情状(宣告刑を動かす事情)

⑴ 示談

示談は、犯情で決まった大枠を動かす一般情状の中心にあります。公刊裁判例を統計処理した研究では、示談は「全部成立」「一部成立」「未成立」に分けて扱われ、全部成立だけが実刑を回避する方向に働いていました。

分かれ目は、示談が成立したかどうかではなく、被害者全員との間で成立したかです。具体的な内容は第4の4と第5の2で扱います。

⑵ 前科と常習性

前科は、二つの働き方をします。

  • ① 執行猶予の前提として働く場合(第6の1)
  • ② 情状として刑の重さに反映される場合

罪名が違えば無関係になる、という関係にはありません。刑事事実認定の解説には、常習性を認定した裁判例についての次の記述があります。

「強制わいせつ罪の前科があることは、常習痴漢罪の常習性を認定する方向に働く事情となる。痴漢行為が、他人の身体に著しく接触する、又は他人に不安を覚えさせるような行為であり、又は直接接触をする行為にまで至らなくても、その行為の性的な属性は互いに異なることではない」
(『刑事事実認定重要判決50選(下)〔第3版〕』176〜177頁)

痴漢の事案についての整理ですが、行為の性的な属性が共通するかどうかを見る点は、わいせつ事案にも共通します。常習性そのものは、犯罪を反復累行する者の属性ないし習癖を有し、その習癖の発露として犯罪行為を行う場合をいうと整理されています(同174〜175頁)。

もっとも、この整理は迷惑防止条例違反における常習性の認定について述べられたものです(福岡高判平成22年9月24日・高検速報集平22・232)。不同意わいせつ罪の量刑の判断枠組みそのものではありません。前科の一般的な扱いは、前科で扱っています。

⑶ 起訴されていない余罪の扱い

余罪は、量刑の事情として考慮することはできます。もっとも、起訴されていない犯罪事実として重く処罰することは許されない、と判示されています(最大判昭和41年7月13日刑集20巻6号609頁)。同じ趣旨は、最大判昭和42年7月5日刑集21巻6号748頁も示しています。

捜査の過程で複数の出来事が話題になり、そのうち一部だけが起訴される事件では、この線引きが実際の争点になります。

第3 統計を見る

検索可能な統計から読み取れるのは、複数の罪名を束ねた分布までです。第1の5で見た流れのうち、統計が写しているのは、最後に出た結果の分布だけです。

1 三つの母集団は、それぞれ別のものを数えている

不同意わいせつの統計を、警察の認知検挙、検察の終局処理、裁判所の第一審の三つの母集団に分けて並べた表

同じ罪名の統計でも、警察・検察・裁判所では数えている単位も対象も違います。

⑴ 捜査段階の数字

令和6年の不同意わいせつの認知件数は6,442件、検挙件数は4,959件で、検挙率は77.0%です(犯罪白書令和7年版)。単位は「件」であり、人数ではありません。

⑵ 検察が終局処理した人員

令和6年に全国の検察庁が終局処理した不同意わいせつの人員は、次のとおりです(犯罪白書令和7年版)。

処理の区分 人員 構成比
起訴 1,544人 33.7%
起訴猶予 1,702人 37.2%
嫌疑不十分 1,294人 28.3%
その他の不起訴 39人 0.9%
合計(母数) 4,579人

起訴猶予の構成比が、起訴を上回っています。この「起訴」には公判請求と略式命令請求の両方が含まれますが、第1の3で見たとおり、この罪では略式命令請求はありません。1,544人はすべて公判請求です。

同じ年の不同意性交等は起訴35.5%、起訴猶予24.4%で、起訴猶予の構成比に差があります。不起訴の種類ごとの意味は、起訴猶予で扱っています。

⑶ 裁判所が言い渡した刑

裁判段階の数字には、大きな制約があります。司法統計年報は罪名を条文単位まで分けておらず、不同意わいせつ罪だけを取り出した数値は公表されていません

令和6年の司法統計年報は、「わいせつ、不同意性交等及び重婚の罪」という章単位で一括して計上しています。この章に入るのは、176条のほか、174条(公然わいせつ)・175条(わいせつ物頒布等)・177条・179条です。さらに180条(未遂)・181条・182条・183条・184条も同じ章に含まれます。

全地方裁判所の通常第一審で、終局総人員1,958人、有罪1,906人(うち拘禁刑1,902人、罰金4人)です。

区分 人員 構成比
実刑 839人 44.1%
全部執行猶予 1,060人 55.7%
一部執行猶予 3人 0.2%

(司法統計年報令和6年・第33表/第34表。拘禁刑1,902人の内訳)

この55.7%は、章に含まれる罪をまとめた数字です。下限5年の177条と下限6か月の176条に加え、公然わいせつ罪のように法定刑の軽い罪までが同じ分母に入っています。176条だけを見たときの割合ではありません。

罰金の有罪4人は、罰金刑のあるこれらの罪から出た数字です。176条・177条の系統に罰金はありません(第1の3でみたとおりです)。なお、令和6年のデータは拘禁刑への一本化の施行前のもので、統計上の表記は「懲役・禁錮」のままです。

2 改正前の強制わいせつ罪には、罪名別の数字がある

罪名を分けた数字は、改正前のものであれば残っています。法制審議会・性犯罪に関する刑事法検討会の配布資料7に、罪名別・刑期区分別の実人員が載っています。表題は「性犯罪の量刑に関する資料(平成11年〜令和元年)」で、法務省刑事局が最高裁判所提供のデータに基づいて作成しました。

当事務所で、実人員から全部執行猶予率を計算しました。強制わいせつ罪は平成27年から令和元年まで69.0%から76.8%の範囲にあり、5年の平均は約72.8%です。

同じ資料から強制性交等(強姦)罪を計算すると、同じ5年の平均は約16.0%になります。下限の差が、猶予率の差として現れています

3 55.7%と72.8%を並べて比べることはできない

前の二つの数字は、比べられません。罪名も、母集団も、年次も違うからです。55.7%は令和6年の章単位一括、72.8%は改正前の強制わいせつ罪単体の数字であり、並べて「猶予率が下がった」とは読めません。

4 分布からは、個別の事件の量刑は導けない

統計が答えているのは、その年に処理された事件の全体がどう分かれたか、という問いです。目の前の事件がどちらに入るか、という問いには答えていません。

本記事が確認できた範囲では、不同意わいせつ罪だけを取り出して個別の判決を集計した公的なデータは見つかりませんでした。そこで当事務所は、公開されている裁判例を集め、判決文に現れた量刑事情を検討しました。

第4 裁判例31件から見えること

宣告刑は懲役1年から3年に収まり、31件のうち28件(90%)に執行猶予がついていました。第1の5で見た流れでいえば、31件はいずれも宣告刑が3年以下に収まり、執行猶予を検討できる位置にあった事件です。

集計の対象は、罪名が不同意わいせつ罪のみで起訴された地方裁判所の判決です。D1-Law.com判例体系に収録され、判決全文を確認できたものに限りました。2023年12月から2026年1月までの判決で、2026年8月25日時点の有罪31件と無罪1件です。

31件はいずれも「懲役」の言渡しです。行為時の法律が適用されるためで、2025年6月1日以後の行為には拘禁刑が言い渡されます。

1 収録分では宣告刑は懲役1年から3年、9割が執行猶予

宣告刑は懲役1年から3年で、中央値は懲役2年です。法定刑の上限は10年ですが、31件はすべて3年以下に収まっています。

区分 件数
全部執行猶予 28件(90%)
実刑 3件

31件のうち5件は、同種の不同意わいせつ罪2〜3件が併合された事件で、いずれも懲役2年6月以上でした。1個の事件について裁かれた26件に限ると、執行猶予の割合は約92%になります。

猶予期間は4年が15件で最多、3年が10件、5年が3件でした。

当事務所が集計した参考裁判例31件の宣告刑と執行猶予の分布(全部執行猶予28件・実刑3件、D1-Law.com判例体系)

2 どのような事情が判決文に現れているか

被害者との関係では、指導・監督関係が12件(約4割)で、単独では最大の区分です。ただし過半ではありません。知人3件、面識なし3件、職場1件、客と従業員1件、その他6件、記載なし5件と続きます。

この約4割という数字は、判例集に収録された事件の構成比です。事件が実際にどのような関係の中で起きているか、という発生実態の比率ではありません。

場所は、学校・保育・クラブ・福祉施設などの施設が14件、住居6件、路上4件、店舗4件、車内2件です。認否は、自白21件、一部否認4件、否認2件、記載なし4件でした。

前科については、「前科前歴がない」等の明示が22件、限定的な言い回しを含めると26件です。異種の罰金前科は1件でした。前科が量刑にどう働くかは、このデータでは測れませんでした

被害者側の処罰感情は、なお厳罰を望むと記載されたものが17件、宥恕または処罰感情の緩和が4件、記載なしが10件です。厳罰を望む記載があっても、31件全体の9割に執行猶予がついています。

示談は、成立が6〜7件、一部弁償が2件、申出のみが4件、拒否されたものが2件で、なし・記載なしが多数を占めます。この罪では、示談が成立しにくい実態が見てとれます。

3 実刑となった3件に共通していた三つの事情

実刑は3件です。懲役2年・1年8月・2年6月で、いずれも法律上は執行猶予を付けられる刑期でした。この3件には、次の三つが共通しています。

  • ⑴ 16歳未満の被害者に対する類型(刑法176条3項)であること。3項が適用された8件のうち実刑は3件で、3項でない23件からは実刑が出ていません。
  • ⑵ 裁判所が計画性・常習性を実質的に認定していること。「犯行に至る道筋を自ら作り出し」「居残りを指示し二人きりの状況を作出」「指導者としての立場を利用し心理的圧力」といった認定です。
  • ⑶ 被害者側の宥恕が得られていないこと。記載がないか、被害弁償がないか、300万円を支払ってなお厳罰を望まれているかのいずれかでした。

この三つがそろえば実刑になる、という関係ではありません。⑵の認定がある事件は10件あり、そのうち7件には執行猶予がついています。3件に共通していた事情であって、結論を決める条件ではありません。

4 示談には非対称がある

示談が成立した6〜7件からは、実刑が1件も出ていません。宥恕または処罰感情の緩和が認定された4件も、すべて執行猶予です。

他方で、示談がない事件や記載のない事件でも、実刑の割合は12%にとどまります。示談が成立した事案から実刑は出ていない一方、示談がないことが実刑に直結してはいない、という非対称があります。

同じ懲役2年6月で結論が分かれた2件があります。D1-Law.com判例体系〔28340585〕は、一部弁償として300万円を支払いながら、なお厳罰を望まれて実刑になりました。〔28340680〕は被害者3名の全員と各50万円で示談が成立し、全員が許す旨を述べて、執行猶予4年(保護観察付き)です。

被害者の人数も認定された常習性も、後者のほうが重い事件です。結論を分けた差分は、示談の内容と宥恕の有無でした。

5 個別の事例

否認していても執行猶予がついた例があります。〔28341296〕(東京地判令和8年1月26日)は、否認し、示談もなく、厳罰を望む処罰感情がある事件でした。それでも、求刑どおり懲役2年・全部執行猶予4年です。日本国内での前科がないことが、判決に現れています。

無罪の判決もあります。〔28331538〕(青森地裁八戸支部判決令和6年12月6日)です。防犯カメラと写真面割りによる犯人の特定について、「被告人が犯人と間違えられた合理的な疑いが残る」と判断しました。

実刑となった3件は、〔28332351〕が懲役2年、〔28334078〕が懲役1年8月、〔28340585〕が懲役2年6月です。

6 この集計の母集団と限界

31件は、全国の不同意わいせつ事件を網羅的に集めたものではありません。2026年8月25日時点の数字で、収集は今も続けており、件数も割合も今後動きます。

ここに現れた割合は、判例集に収録された事件の構成比です。個別の事件の帰結を、この集計から導くことはできません。第6で述べるとおり、量刑の判断そのものは裁判官にゆだねられています。

第5 量刑を数量的に分析した研究は何を示したか

公刊裁判例を統計処理した研究では、執行猶予の向きを分ける事情が数値で示されています。示談の全部成立・被害者1名・再犯可能性の低さが猶予の側に、姦淫の既遂・被害者複数・服役歴が実刑の側に働くという結果です。

第4でみた31件の傾向、とくに示談が成立した事案から実刑が出ていないことと矛盾しない結果です。統計から読み取れない「どの事情がどれだけ効くのか」に、研究は正面から取り組んでいます。

1 刑期の大枠は、被害者の人数と傷害で決まっていた

2002年から2016年までに公刊された裁判例を分析した研究があります(『長崎総合科学大学紀要』60巻2号111〜234頁)。対象は改正前の罪名で、強姦罪・強姦致傷罪・強制わいせつ罪・同致傷罪・同未遂罪の事案です。

この研究の総括は、刑期の枠が二段で決まると説明しています。第一に、すべての被害者数と、犯情の重い性犯罪についての傷害の有無・程度によって、刑期の基本的な位置づけが決まります。第二に、共犯関係、心神耗弱、被害者の落ち度、飲酒、併合された窃盗・詐欺、犯行後の行為が、その位置づけを修正します。

犯行の類型による傾向差も報告されています。配偶者・交際相手による犯行、知的障害のある被害者に対する犯行、友人・知人による犯行、SNSを介した犯行は、類型として刑期が軽くなる傾向にあるとされます。親や教師などによる性的虐待の類型は、逆に重くなる傾向にあるとされます。

平成年間の量刑傾向は、緩やかな重罰化の方向にあったとまとめられています。示談の成否と被告人の若さが、一般情状として刑期の大枠を修正する要素になることも、統計的に裏づけられました。

2 執行猶予の選択基準を予測したモデル

同じ研究者の第2弾が、執行猶予の有無そのものを目的変数にしています(『地域論叢』36号51〜60頁)。

対象は、平成年間の公刊裁判例335件です。処断罪が強姦・強姦致傷・強制わいせつ・同致傷・同未遂などで、有期懲役に処された事案を集めています。内訳は執行猶予75件(22.4%)、実刑260件(77.6%)でした。

手法は、質的なデータから結果を判別する統計手法(数量化理論第II類)と、有効な変数だけを残す変数増減法です。41の量刑因子・157のカテゴリーから12因子が選ばれ、判別的中率は86.0%でした。判別値がマイナス側に振れると執行猶予の方向で、判別的中点は−0.528とされています。

性犯罪の執行猶予の選択基準を分析した研究で、執行猶予の側と実刑の側に働いた事情のスコアを並べた図

主要なカテゴリースコアは、次のとおりです。マイナスが執行猶予の方向、プラスが実刑の方向を示します。

事情 スコア 向き
心神耗弱あり −1.465 猶予
被害者の落ち度あり −1.183 猶予
再犯可能性なし(低い) −1.177 猶予
処断の基礎が強制わいせつ −0.732 猶予
示談:全部成立 −0.678 猶予
若年あり −0.439 猶予
被害者数:1名 −0.264 猶予
示談:一部成立 +0.306 実刑
服役歴あり +0.423 実刑
姦淫・既遂 +0.534 実刑
被害者数:2名 +0.650 実刑
執行猶予期間中 +0.792 実刑

(『地域論叢』36号51〜60頁「主要カテゴリースコア」より。示談・未成立は+0.100、被害者数3名は+0.234。執行猶予期間中の事案は7件で、有意ではないとされています)

判別への寄与を示す偏相関では、姦淫の既遂が1位です。被害者数が1名であることが3位に入ります。

研究のまとめによれば、執行猶予が選ばれるのは、処断の基礎が強制わいせつ罪・同未遂罪で被害者が1名の場合が基本です。被害者が複数になると、実刑の側に振れます。強制わいせつ致傷・強姦(致傷)は基本的に実刑で、強姦未遂は他の因子次第だとされます。

一般情状の側では、示談が完全に成立したこと、再犯の見込みが低く更生の見込みが高いという心証、若年であることが、執行猶予の方向に働いています。服役歴、執行猶予期間中の犯行、反省がないことは、実刑の方向に働きます。犯行時の心神耗弱と被害者の落ち度の認定も、執行猶予の選択で被告人に有利に働いていました。

3 この研究を自分の事件にそのまま当てはめられない理由

【注意点】

  • ① 対象が公刊裁判例のため、重い事案に偏っています。モデル内の実刑率77.6%は、公的統計での強制わいせつ罪の全部執行猶予率70%前後と逆転しており、研究者自身がサンプルの偏りによると注記しています。
  • ② 分析対象は2023年改正前の旧罪名の裁判例です。不同意わいせつ罪・不同意性交等罪への適用は外挿にとどまります。
  • ③ 判別的中率86.0%は、14%で判別と実際の結論が食い違ったということでもあります。

この研究が示しているのは、過去の裁判例に現れた傾向です。これから言い渡される判決の予測ではありません。第6で述べるとおり、量刑の判断そのものは条文に書かれておらず、裁判官の評価にゆだねられています。

第6 執行猶予はどう判断されるか

執行猶予がつくかどうかは、宣告刑が3年以下に収まるかという条文上の関門と、情状という裁判官の評価の、二つで決まります。第1の5で並べた量刑の流れの最後に来るのが、この判断です。

1 条文が定める関門

1 次に掲げる者が三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。
一 前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがない者
二 前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に拘禁刑以上の刑に処せられたことがない者
(刑法25条1項)

猶予される期間は、裁判が確定した日から1年以上5年以下です。条文からは、三つの関門が読み取れます。

⑴ 宣告刑が3年以下であること

3年を1日でも超える刑が言い渡されれば、執行猶予はつきません。この罪に罰金の定めはありませんから、25条1項の「五十万円以下の罰金」の枠も使えません。3年以下の拘禁刑という一本道になります。

⑵ 前科に関する要件

1号は、前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがない場合です。2号は、処せられたことがあっても、その執行を終わった日か執行の免除を得た日から5年以内に、拘禁刑以上の刑に処せられていない場合です。初犯であれば1号にあたります。制度の全体像は執行猶予の制度で扱っています。

第4でみた31件は、22件から26件までが前科前歴のない事件でした。前科のあるサンプルが乏しく、前科がこの先の判断にどう働くかは、当所の集計からは測れていません。

⑶ 情状

三つ目が「情状により」です。何をもって情状とするかは、条文に書かれていません。第2で分けた犯情と一般情状の両方が、ここで評価されます。

2 執行猶予中に再び罪を犯した場合

2 前に拘禁刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が二年以下の拘禁刑の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、この項本文の規定により刑の全部の執行を猶予されて、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。
(刑法25条2項)

再度の執行猶予は、二つの意味で要件が厳しくなります。刑の上限が3年以下ではなく2年以下になり、情状も「特に酌量すべきもの」が求められます。さらに、25条2項で猶予されて保護観察に付され、その期間内に罪を犯した場合は、この規定を使えません。

3 保護観察がつくかどうか

1 前条第一項の場合においては猶予の期間中保護観察に付することができ、同条第二項の場合においては猶予の期間中保護観察に付する。
(刑法25条の2第1項)

25条1項の執行猶予では、保護観察に付すかどうかが裁判所の裁量です。25条2項の再度の猶予では、保護観察が必ず付きます。初犯の執行猶予は25条1項の場面ですから、保護観察は付くこともあれば付かないこともあります。

第4でみた31件でも、執行猶予28件のうち保護観察が付いたのは5件でした。

付された保護観察は、行政官庁の処分によって仮に解除することができるとも定められています(同条2項)。

4 「情状」の中身は、条文に書かれていない

執行猶予の可否を最後に決めるのは、「情状により」という一語です。この評価の幅を、最高裁は古くから事実審裁判所の裁量として説明してきました。

「刑の量定については、事実審裁判所において、犯人の性格、年齢及び境遇並びに犯罪の情状及び犯罪後の情況を考察し…適当に決定するところに委ねられている」
(最判昭和25年5月4日刑集4巻5号756頁)

第3で見た分布も、第4で見た裁判例も、第5で見た研究も、この評価が過去にどう現れたかを外から観察したものです。個別の事件で執行猶予がつくかどうかは、最終的に裁判官の判断にゆだねられます。弁護士にも、そこから先を断定することはできません。

第7 弁護人は量刑にどう働きかけるか

弁護人が量刑に働きかける経路は、犯情に関わる事実を争う道と、一般情状を資料の形にする道の二つです。第2で分けた二段のどちらに向けた作業なのかを、はじめに区別します。

量刑実務では、同種事案の量刑傾向を下回る根拠を、具体的に示すことが求められます。抽象的に反省を述べるだけでは足りません。

1 犯情に関わる事実を争う

弁護人は、犯行の動機・手段・方法・結果について、記録に現れた事実を確認します。捜査段階の見立てがそのまま量刑の前提になると、刑の大枠が実際の行為より重い位置で固まります。

第2の1⑴で述べた行為責任の限定機能は、ここで実際の働きをします。弁護人は、犯情に含めてよい事実の範囲を主張し、行為の重さを超えた評価がされないよう争います。

起訴されていない事実の扱いも、この経路に含まれます。取調べで話題になっただけの出来事が量刑の理由に紛れ込まないよう、弁護人は第2の2⑶の線引きを主張します。

2 示談を、被害者全員と行う

弁護人は、被害者との示談交渉を行います。第5の2で見たとおり、猶予の側に働いていたのは示談の全部成立であり、一部成立は逆向きのスコアでした。第4の4の対照ペアも、同じ刑期で結論を分けたのは示談の内容と宥恕でした。

被害者が複数いる事件では、全員との間で成立させられるかどうかが分かれ目になります。交渉の進め方は事案ごとに違い、示談交渉で扱っています。結果を約束できる作業ではありません。

3 治療に向けた手続を、資料の形にする

再犯の見込みが低いという心証は、執行猶予の方向に働く一般情状の一つでした(第5の2)。これを言葉ではなく資料で示すために、当事務所では次の順で進めます。

⑴ まず申込をして、その記録を残す

性障害の治療を行う医療機関では、初診まで2〜3か月待つこともあります。判決までに受診が間に合わない事件も珍しくありません。

そこで、申込をした記録そのものを情状資料にします。身柄が拘束されているかどうかを問わず、早い段階で申込の手続を進め、送信の記録を残します。受診済みであることを前提にして組み立てません。

⑵ 診察・面会を経て、意見書の作成を依頼する

「弁護士の先生からご依頼いただき、精神科医が作成いたします。精神医学的な診断名、およびそれによる犯行への影響、治療可能性と内容、予後等を詳細に記載いたします。作成期間は通常、診察や面会から約2週間ほどです」
(SOMEC「案内資料」2024年3月1日改訂)

作成期間の目安は、診察や面会から約2週間です。費用は、2024年3月改訂の案内資料で意見書が254,870円とされています。これに一般診察16,500円と、アセスメント11,000円から24,200円が加わります。

意見書や治療計画書の内容について、医師の出廷証言を依頼することもできます。ただし、出廷だけを単独で依頼することはできません。

⑶ 治療引受書は、発行の順序が決まっている

「当センターにおいて治療引き受けの準備ができている旨記載された1枚の書面です。処分確定後には治療を受ける旨記載された宣誓書にご署名いただいた上で発行が可能です」
(SOMEC「案内資料」2024年3月1日改訂)

同じ案内資料で、治療引受書は9,460円です。処分が確定したあとに治療を受ける旨の宣誓書へ署名することが、発行の条件になっています。判決前にどの書面をそろえられるかは、この順序で決まります。

治療そのものの期間の目安は1年から3年です。集団での認知行動療法を月1回3時間で12回、または月2回2時間で24回受けて1クールとされています。なお、書面内省のプログラムで扱った書面は、裁判の証拠として使えないと明記されています。

4 量刑は、一審でそろえる

控訴審の控訴理由の内訳を見ると、被告人側の1位は量刑不当で71.3%を占めます(『曹時』77巻2号81頁)。検察官側でも量刑不当が2位で29.8%です。量刑は、控訴審まで争いが持ち越される領域だといえます。

だからこそ、示談も治療の手続も、一審の審理に間に合う時期に組む必要があります。弁護人は、判決の期日から逆算して、いつまでに何を提出するかを決めます。

捜査から判決までの手続の流れそのものは、性犯罪で捜査を受けたときの手続で扱っています。

第8 よくある質問

1 宣告される刑は、求刑より軽くなるのが普通ですか

公刊裁判例を分析した研究では、宣告刑は求刑のおよそ0.8倍(±0.15)にあたり、両者に非常に高い相関があるとされています。いわゆる八掛けです(『長崎総合科学大学紀要』60巻2号111〜234頁)。

ただし、これは改正前の旧罪名の裁判例から得られた相関であり、個別の事件がこの比率になると決まっているわけではありません。

2 事実を争う場合と、量刑だけを争う場合とで、進み方は違いますか

通常第一審で自白事件が占める割合は87.2%、無罪率は0.17%です(『曹時』77巻2号66頁・104頁)。数字の上では、事実を争わずに量刑を争う事件が大半を占めています。もっとも、事実を争うかどうかは証拠関係を見たうえで決める事柄で、統計から決まるものではありません。

3 懲役から拘禁刑に変わって、内容は何が違うのですか

刑法12条2項は、拘禁刑について「刑事施設に拘置する」と定めています。同条3項は「拘禁刑に処せられた者には、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができる」と定めています。

作業と指導の位置づけが条文に書かれた点が、懲役・禁錮との違いです。施行前のデータを扱う統計では、表記が懲役・禁錮のままになっています(第3の1⑶)。

4 執行猶予がついた場合、有罪判決を受けたこと自体はどうなるのですか

執行猶予の言渡しを取り消されることなく猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは効力を失います(刑法27条1項)。猶予期間が終わるまでは、刑の言渡しは残ったまま、その執行だけが止まっている状態です(刑法25条1項)。

ただし、刑法27条には2項以下に例外の定めがあります。

本記事は、統計・裁判例の追加にあわせて随時更新します。

参考文献

  • 柴田守「変数増減法を用いた性犯罪の執行猶予の選択基準に関する量刑予測モデル」『地域論叢』36号(長崎総合科学大学地域科学研究所)、2021年3月、51-60頁。
  • 柴田守「性犯罪の刑期判断基準に関する定量的研究」『長崎総合科学大学紀要』60巻2号、2020年、111-234頁。
  • 城下裕二「量刑」太田達也=川出敏裕編著『新 刑事政策講座Ⅰ』成文堂、2026年、307-330頁。
  • 田邉三保子「痴漢及び盗撮の常習性」植村立郎監修『刑事事実認定重要判決50選(下)〔第3版〕』立花書房、171-185頁。
  • 法務省刑事局「配布資料7 性犯罪の量刑に関する資料(平成11年〜令和元年)」法制審議会・性犯罪に関する刑事法検討会、最高裁判所提供データに基づく。
  • 第一法規『D1-Law.com 判例体系』(2026年8月25日時点収録分・当事務所集計)。
  • 最高裁判所事務総局『司法統計年報 2 刑事編』令和6年。
  • 法務省法務総合研究所『犯罪白書』令和7年版。
  • 最高裁判所事務総局刑事局「令和5年における刑事事件の概況(上)」『曹時』77巻2号、2025年。
  • SOMEC「案内資料」2024年3月1日改訂。
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

レナトス法律事務所 代表弁護士/埼玉県弁護士会所属(登録番号 第64945号)
刑事事件と交通事故被害者の民事を中心に、ご相談者おひとりおひとりに丁寧に向き合うことを大切にしています。前職のアトム法律事務所を経て、2026年4月に独立・レナトス法律事務所を開設しました。
取扱分野:刑事弁護/交通犯罪/薬物事件/性犯罪/暴行・傷害/交通事故被害者の民事/犯罪被害者支援(拡大予定)

目次