勾留の決定に対しては、「準抗告」という不服申立てにより、別の裁判官3名による合議体に取消しを求めることができます(刑事訴訟法429条1項2号)。申立てに期間の制限はなく、勾留延長の決定に対しても改めて申し立てられます。認められれば勾留の決定は取り消され、釈放につながります。この記事では、準抗告で何を主張するのか、どのくらい認められているのか、ご家族に何ができるのかを順に説明します。
第1 準抗告とは何か
準抗告は、勾留を決めた裁判官の判断について、その裁判官が所属する裁判所に取消し・変更を求める不服申立てです(刑事訴訟法429条1項2号)。簡易裁判所の裁判官がした裁判については、管轄の地方裁判所に申し立てます(同項)。申立てを受けた裁判所は、裁判官3名の合議体で決定しなければなりません(同条4項、裁判所法26条2項)。一人の裁判官が出した結論を、別の3名の裁判官が審査し直す仕組みです。
前提となる勾留は、検察官の請求を受けた裁判官が決定します。期間は勾留請求の日から10日間で(同法208条1項)、やむを得ない事由が認められると、通じて10日を限度に延長されます(同条2項)。逮捕から勾留請求までの流れは、逮捕の流れで説明しています。

準抗告の申立てに、法律上の期間制限はありません。申立ては、理由を記載した請求書を裁判所に差し出して行います(同法431条)。実務では、申立書を提出したタイミングにもよりますが、当日又はその翌日に判断されます。
注意点
① 準抗告の申立てをしても、勾留の執行は止まりません。理由があると認められて初めて、決定が取り消されます(同法432条・424条1項・426条2項)。
② 起訴されるまで、保釈の請求はできません。保釈は起訴された後の制度です(同法207条1項ただし書)。
起訴前に勾留そのものを争う中心的な手段が、この準抗告です。
第2 準抗告では何を主張するのか
準抗告で主張する対象は、罪を犯した「疑い」そのものではなく、罪証隠滅・逃亡のおそれと、勾留の必要性です。この区別が、主張を組み立てる出発点になります。
1 勾留の三つの要件
勾留には三つの要件があります。①罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由、②住居不定・罪証隠滅・逃亡のいずれかにあたる事由(刑事訴訟法60条1項)、③勾留の必要性です。③は条文に明記されていませんが、勾留の取消しを定める同法87条1項が根拠とされ、要件であることに争いはありません。
同法60条1項は起訴後の被告人について定めた条文ですが、起訴前の被疑者の勾留にも適用されます(同法207条1項)。
2 「やっていない」は直接の理由にできない
法律上、勾留に対する準抗告では、犯罪の嫌疑がないことを理由にできません(同法429条2項・420条3項)。①を正面から争う場ではないのです。無実の主張がある事件でも、準抗告の書面では、②の事由と③の必要性がないことを論じます。

3 何を材料に崩すのか
罪証隠滅は、俗に「おそれ」と呼ばれますが、条文の文言はより限定されています。
被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。 (刑事訴訟法60条1項2号)
この文言は、昭和23年の国会審議で、単なる「おそれ」とする当初の案文から意図的に改められました。一定程度以上の具体的な可能性を求める趣旨とされています(季刊刑事弁護98号26頁)。実務では、何をどうやって隠すのか(対象・態様)、それが実際に可能か(客観的可能性)、本人がそうしそうか(主観的可能性)に分けて判断されます。
最高裁の判断もあります(最決平成26年11月17日判時2245号124頁・刑事訴訟法判例百選〔第11版〕14事件)。京都市の地下鉄内での痴漢(迷惑行為防止条例違反)につき、前科前歴のない会社員で、被害者との面識もない事案です。
最高裁は、この事案で勾留の必要性の判断を左右するのは「罪証隠滅の現実的可能性の程度」だとしました。そのうえで、可能性の程度を示さないまま勾留を認めた準抗告審の決定を取り消しています。
逃亡のおそれに対しては、定まった住居、安定した就労、身元を引き受ける家族の存在を、具体的な資料で示します。勾留の必要性に対しては、拘束を続ける公益と本人側の不利益とを比較する主張を組み立てます。失職や退学、治療の中断、家族の生活への影響は、この不利益にあたる事情です。ご家族の協力が結果を左右する場面であり、第4で具体的に説明します。
第3 どのくらい認められているのか
準抗告の結果は、司法統計に表れています。裁判官の裁判に対する準抗告(刑事訴訟法429条)は、令和6年に全国で1万5352件の申立てがありました。うち2880件で、元の裁判の取消し・変更がされています(令和6年司法統計年報刑事編第17表・同付表)。この統計は、勾留・勾留延長のほか保釈などに対する準抗告を含み、検察官側の申立ても混じった全体の数字です。それでも、おおむね5件に1件弱の割合で元の裁判が動いています。認められるかどうかは、最終的には申立てを受けた裁判所の判断にゆだねられます。
背景には、勾留の判断そのものが慎重になった流れがあります。全国の勾留請求却下率は、平成2年には0.18%でしたが、令和6年には5.88%です(同年報第15表)。地方裁判所に限れば9.4%に達します。この変化が、準抗告の土台にあります。
当事務所が拠点とするさいたま地裁・簡裁は、変化が早かった裁判所の一つです。公表されている数字では、勾留請求の却下は2006年の年間4件(却下率0.05%)から2017年には年間209件(同4.06%)になりました。埼玉弁護士会が2010年に始めた全件不服申立ての運動の後に生じた変化です(季刊刑事弁護98号)。
では、何が結果を分けているのか。弁護士会の事例集『勾留準抗告に取り組む〔第2版〕』(愛知県弁護士会刑事弁護委員会編)に、勾留請求を却下した準抗告審の決定84例を分析した一節があります。
84例を概観すると、まず、端的に刑訴法60条1項各号に該当しないことを理由に勾留請求を却下した例が1件も見当たらないことに驚かされる。広義か狭義かはともかく、いずれの裁判例も勾留の必要性が判断の決め手となっている。 (『勾留準抗告に取り組む〔第2版〕』23頁)
勝敗を分けているのは、おそれの有無の抽象論ではなく、勾留の必要性だと整理されています。同書は、粗暴犯・窃盗・交通事犯では相当数で勾留を認めない決定が得られているとも分析しており、罪名だけで諦めないよう促しています(同書第9章)。
第4 家族にできることは何か
勾留が決まった後のご家族の動きは、準抗告の結果に影響を与えます。同書が分析する却下84例のうち63例は、誓約書・身元引受書・示談交渉といった原決定の後に生じた事情を踏まえた取消しでした(同書第1章)。決定後に整えた材料が、7割超の事例で決め手になっています。
1 身元引受書は「なぜ監督できるか」まで書く
身元引受書は、「引き受けます」とだけ書いた書面では評価されません。なぜこの引受人なら本人の出頭を確保できるのかまで書きます。同居する家族なら日常の監督ができること、雇用主なら就労関係を通じた監督ができることを、住民票や在職証明書とあわせて示します。
引受けが形だけでないことは、時系列でも示せます。逮捕を知ってから、安否確認・面会・弁護士への依頼にどう動いたかを上申書に書きます。遠方から駆けつけて宿泊し、監督の態勢を整えた事実も、具体的に書けば疎明の資料になります。
2 誓約書と示談
本人の誓約書は、「証拠を隠さない」「被害者と接触しない」「事件の現場に近づかない」など、しない行為を具体的に列挙して作ります。同書では、初回の接見中に誓約書を作成してもらう工夫が紹介されています(同書第1章コラム)。
示談が成立すると、罪証隠滅のおそれと必要性の判断は大きく変わり得ます。同書には、逮捕の翌日に示談が成立し、準抗告の申立書を出した後に検察官から「本日釈放します」と連絡があった傷害の事例が収録されています(同書第1章コラム)。高校生の被疑者について、両親と祖父母が監督を誓約し、祖父母宅に住まわせる態勢を整えて勾留が取り消された例もあります(同書第9章)。
3 連絡が取れる状態にしておく
準抗告の準備は、時間との勝負になります。身元引受書や上申書は、弁護人がご家族から事情を聞き取り、その日のうちに整えることもあります。原本の受渡しが間に合わないときは、書面の写真を送って先に内容を示すこともあります。弁護人からの連絡にすぐ応じ、住民票や在職証明書などの資料を素早く用意できる状態にしておくことが、そのまま申立ての速さにつながります。
弁護人の選任を含めた逮捕直後の動き方は、家族が逮捕されたら(初回接見)で説明しています。本人と面会できない場合の対応は、接見等禁止をご覧ください。
第5 勾留延長決定にも準抗告ができる
勾留延長の決定は、最初の勾留とは別の裁判であり、改めて準抗告の対象になります(刑事訴訟法429条1項2号)。最初の勾留への準抗告が棄却されても、延長の決定には新たに申し立てられます。
延長は自動ではありません。裁判官が「やむを得ない事由」を認めた場合に限り、通じて10日を限度に許されます(同法208条2項)。実務の解説では、起訴・不起訴を決めるために捜査を続ける必要があり、その間の身柄拘束がやむを得ない場合を指すとされています(『増補令状基本問題(上)』348頁)。
もっとも、起訴前の勾留延長の請求は、令和6年に全国で6万5566件あり、請求の段階で却下されたのは302件にとどまります(令和6年司法統計年報刑事編第17表)。延長を請求の段階で止めることは難しく、延長の決定に対する準抗告で、取消しや期間の短縮を争うのが現実的な道になります。
弁護人は、残っている捜査に本当に身柄拘束が必要かを主張します。『勾留準抗告に取り組む〔第2版〕』第8章のコラムには、延長請求の理由欄が「取調べ未了」「裏付捜査未了」といった定型の記載になりがちな実情への指摘があります。押収済みの証拠品の解析のように、本人を留置しなくても進む捜査は、在宅の捜査で足りるという反論の対象になります。
別の事件(余罪)の捜査を理由とする延長も、争う対象になります。
本件勾留の基礎となる被疑事実とは異なる別件である上、一件記録上、当該別件と併せて処理しなければ本件の処分を決定し得ないような事情は認められない (『勾留準抗告に取り組む〔第2版〕』第8章)
無免許運転の事案で、延長決定を全部取り消した収録決定の一節です。余罪の捜査が必要なら余罪について手続をとるべきで、本件の延長を支える理由には原則ならない、という考え方が読み取れます。
延長の段階でも、事情の変化は結果を動かします。被害者に接触しない誓約と、被害者が許す意思(宥恕)を示した示談の成立が、延長決定の全部取消しの決め手になったDVの事例もあります。全部の取消しに至らない場合にも延長期間を短縮する一部認容があり、収録事例では短縮後の延長期間は2日から6日に分布しています(同書第8章)。
第6 認められた場合・棄却された場合
準抗告が認められると、勾留や延長の決定は取り消されます(刑事訴訟法432条・426条2項)。棄却されても、手段はそこで尽きません。その後の事情の変化を理由とする勾留取消請求の選択肢があります。

認められた場合、勾留の決定の取消しとあわせて勾留請求が却下されれば、釈放されます。延長の決定が取り消されれば、延長のないまま当初の満期を迎えることにつながります。前章のとおり、期間の短縮にとどまる場合もあります。
棄却された場合、合議体の決定に対して、さらに抗告する通常の手段は原則としてありません(同法432条・427条)。憲法違反などを理由とする特別抗告(同法433条)は残されていますが、用いられる場面は限られます。次の一手は、勾留取消請求です(同法87条1項)。
準抗告が「決定の時点の判断の誤り」を争うのに対し、取消請求は「決定の後の事情の変化」を主張する手続で、準抗告の棄却後にも申し立てられます。勾留取消請求では、裁判所が検察官の意見を聴く手続を経るため、判断までに準抗告よりおおむね1日多くかかります。示談の成立や監督態勢の充実は、ここでも主張の柱になります。このほか、公開の法廷で裁判官に勾留の理由を述べさせる勾留理由開示という手続もあります。
第7 よくある質問
Q1 家族が自分で準抗告を申し立てられますか
実務では、弁護人が申立書を作成して申し立てます。勾留の要件に即した法律上の主張と、疎明資料の組み立てが必要になるためです。一方、勾留取消請求には、配偶者・直系の親族・兄弟姉妹の請求権が明文で認められています(刑事訴訟法87条1項)。ご家族の力が生きるのは、第4で述べた資料の準備です。
Q2 否認や黙秘をしていると準抗告に不利ですか
実務上、不利な事情として扱われていることが多いです。否認や黙秘を罪証隠滅のおそれの根拠とすることには、多くの弁護士や学者から批判されているところでもあります(季刊刑事弁護98号)。もちろん、否認事件でも、住居・就労・引受態勢などを示して、罪証隠滅・逃亡のおそれと必要性を争えます。
Q3 東京と埼玉で運用の違いはありますか
あります。勾留の期間は、決定の日ではなく勾留請求の日から起算されます(刑事訴訟法208条1項、『基本刑事訴訟法1』104頁)。
さいたま地裁では、午前中の勾留請求が同日中に判断され、国選弁護人も同日に選任される運用です。東京地裁では、勾留請求の翌日に裁判所で勾留質問がなされる関係で、決定が翌日になります。国選弁護人の選任はその後になるため、10日のうち弁護活動に使えるのは実質9日です。なお私選弁護人は、逮捕直後から選任できます。
Q4 準抗告は何回でもできますか
法律上の制限はありませんが、同じ勾留の決定に対する準抗告は、1回と扱われています。これは、判断対象となる時期が勾留決定時であるためです。勾留延長の決定は別の裁判なので、これには改めて準抗告できます。準抗告の後に示談の成立など新しい事情が生じたときは、取消請求で重ねて解放を求めます。
第8 本記事の前提と更新
本記事は2026年7月時点の法令・運用に基づきます。判例・法改正に応じて随時更新します。個別の事案への当てはめはできませんので、具体的な見通しは弁護士への相談でご確認ください。
勾留・身柄解放のご相談は、当事務所でも受けています。ご相談の方法と費用は、弁護士費用のご案内をご覧ください。
参考文献
- 最高裁判所『令和6年 司法統計年報 2 刑事編』第15表・第17表(裁判所ウェブサイト)
- 愛知県弁護士会刑事弁護委員会編『勾留準抗告に取り組む〔第2版〕――160事例からみる傾向と対策』(現代人文社、2025年)
- 河原俊也「勾留の要件」別冊ジュリストNo.267『刑事訴訟法判例百選〔第11版〕』(有斐閣、2024年)14事件
- 緑大輔ほか「特集 勾留を争う」季刊刑事弁護98号(現代人文社、2019年)9〜45頁
- 田中康郎監修『増補令状基本問題(上)』(立花書房、2023年)
- 吉開多一・緑大輔・設楽あづさ・國井恒志『基本刑事訴訟法1――手続理解編』(日本評論社、2020年)
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