児童ポルノに関する事件は、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(以下、本記事では「児童買春・児童ポルノ禁止法」と表記します。)7条が中心条文です。条文構造は、所持・保管(1項)、提供(2項)、提供目的の製造・所持等(3項)、姿態をとらせ製造(4項)、ひそかに描写する製造(5項)、不特定多数提供・公然陳列(6項)、不特定多数提供目的の製造等(7項)、国外輸出入(8項)の合計8項にわたる複層構造です。
被疑者・被告人として刑事手続に乗る場面は多岐にわたります。自宅PC・スマートフォンの押収から始まる単純所持事件、クラウドサービス提供事業者の検出を端緒とする保管事件、SNSを介した自画撮り送信要求型の製造事件、性交場面の撮影が併存する複合事件などがその典型です。本記事は、定義規定(児童買春・児童ポルノ禁止法2条3項)から各態様の擬律、最新判例(最決令和2年1月27日「聖少女伝説」事件・最判令和6年5月21日〔7条4項該当行為への5項適用(罪名選択)〕)までを整理します。あわせて、AI生成児童ポルノの取扱い、令和5年新設の性的姿態等画像没収・消去制度、弁護活動の典型論点までを通覧する解説です。
事件の全体像は児童に対する性犯罪ハブ記事もご参照ください。
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第1 児童ポルノの定義
1 条文の基本構造
児童買春・児童ポルノ禁止法2条3項は、児童ポルノを次のとおり定義します。
3 この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
一 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
二 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの
「児童」は18歳に満たない者をいい(同条1項)、「性器等」は性器・肛門・乳首をいいます(同条2項括弧書)。媒体は「写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物」と広く規定されており、ハードディスク・DVD・ブルーレイ・CD-ROM・スマートフォン内蔵メモリ・SDカードなどが包摂されます。再生等の操作を経て認識できる動画ファイル・電子書籍も「視覚により認識することができる方法により描写したもの」に該当します。
2 3類型の擬律
⑴ 1号(性交又は性交類似行為に係る児童の姿態)
「児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態」を描写したものです。性交(膣性交)・性交類似行為(オーラルセックス・アナルセックス等)が含まれます。1号は、2号・3号と異なり「性欲を興奮させ又は刺激するもの」という限定文言を伴わず、性交又は性交類似行為が描写されている以上、当然に児童ポルノに該当する構造です。
⑵ 2号(児童の性器等を触る行為に係る児童の姿態)
「他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」が対象です。「性欲を興奮させ又は刺激するもの」という限定文言は、医療的診察等の場面における児童の性器等への接触行為を構成要件から除外する趣旨と理解されています。
⑶ 3号(衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態)
3号は平成26年改正で要件が明確化された類型で、二重の限定構造が採用されました。客観的限定として「殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部)が露出され又は強調されているもの」であること、評価的限定として「性欲を興奮させ又は刺激するもの」と評価できることが必要です。改正前に懸念されていた「入浴児童の親による成長記録撮影」のような家庭内の通常の生活場面を、構成要件から外す趣旨です。
3号該当性の判断にあたっては、被写体児童の体勢・撮影角度・ズーム倍率・近接撮影の有無・性的部位への焦点化の程度といった客観的事情が斟酌されます。富山地判平成24年10月11日は、「徒らに」性欲を興奮させるとまでは不要、「一般人を基準に、姿態、場面、周囲の状況、構図等を総合的に考慮」して判断するとの判断枠組みを示しました。
3 実在性要件と判断基準時
児童ポルノにおける「児童」は、実在の人物でなければなりません。漫画・アニメ・小説等の架空キャラクターを描写したものは児童ポルノに該当しません。これは立法者意思であり、平成12年10月24日大阪高裁判決以来、判例実務でも確立しています。他方、被写体児童が誰であるかを氏名・住所等で個別具体的に特定する必要はなく、「特定はできないが実在する誰かである」と認定されれば足ります。CG加工画像・AI生成画像の射程は本記事第5で扱います。
「児童」性は、撮影時点で被写体が18歳未満であったか否かで判断します。最決令和2年1月27日(刑集74巻1号119頁・「聖少女伝説」事件)は、CG加工事案において、製造時点で被写体が成年に達していたとしても、撮影時に18歳未満であった写真等を素材として児童ポルノを製造した場合には製造罪が成立するとしました。この立場のもとでは、被写体が成年に達してから10年・20年経過していても、撮影時に18歳未満であった画像を所持・提供・公然陳列すれば、それぞれの罪が成立します。旧少女ヌード写真集の現所持がその典型です(FAQ Q4参照)。
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第2 罪の各態様
児童買春・児童ポルノ禁止法7条は、行為態様ごとに罪を区分しています。法定刑構造を最初に整理します。
| 項 | 行為類型 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 1項前段 | 自己性的好奇心目的の所持 | 1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金 |
| 1項後段 | 自己性的好奇心目的の電磁的記録保管 | 1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金 |
| 2項 | 特定少数への提供 | 3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金 |
| 3項 | 特定少数提供目的の製造・所持・運搬・輸出入・保管 | 3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金 |
| 4項 | 児童に姿態をとらせ製造 | 3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金 |
| 5項 | ひそかに描写し製造 | 3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金 |
| 6項 | 不特定多数提供・公然陳列 | 5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金又は併科 |
| 7項 | 不特定多数提供目的の製造・所持・運搬・輸出入・保管 | 5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金又は併科 |
| 8項 | 不特定多数提供目的の国外輸出入(日本国民) | 5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金又は併科 |
各態様の構成要件は、提供目的の有無・提供範囲(特定少数か不特定多数か)・自ら撮影したか否か・撮影時に児童の認識があったか否かによって整理されます。
1 単純所持・電磁的記録保管(7条1項)
平成26年改正で新設された類型です。第3で詳述します。
2 提供罪(7条2項)
「児童ポルノを提供した者」は、3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金に処せられます。電気通信回線を通じた電磁的記録の提供も同様です。
「提供」とは、当該児童ポルノ又は電磁的記録を、相手方において利用しうる状態に置く一切の行為をいい、相手方が現に受領することまでは要しません。平成16年改正により、有償・無償を問わず、所有権の移転を伴うか否かにかかわらず、「提供」概念に統一されました。特定の知人へのファイル送信、LINE・メール添付による画像送信、特定の購入希望者へのデータ販売などが該当します。
3 提供目的所持・製造(7条3項)
特定少数の者への提供目的で、児童ポルノを製造・所持・運搬・輸出入したり、電磁的記録を保管したりする行為です。「提供目的」の認定は、ファイル共有設定の有無・販売広告の準備状況・特定の購入希望者とのやり取りの存在などの客観的事情から判断されます。
4 姿態をとらせ製造罪(7条4項)
4 前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第二項と同様とする。
「姿態をとらせ」とは「行為者の言動等により当該児童が当該姿態をとるに至ったこと」をいい、強制によることは必要ありません。提供目的が認められない自己保存目的の撮影事案で、本項が中心的に適用されます。実務上、自画撮り送信型(SNS等で児童に自身の性的姿態を撮影し送信させる類型)も、背後者の働きかけと児童の自画撮りとの間に「道具利用」関係を見出す理論枠組み(仲道祐樹「児童ポルノ法の判例と理論的課題」警察学論集76巻12号35頁参照)のもと、本項の正犯性が認められる事案が積み重なっています。
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5 ひそかに描写する製造罪(7条5項)
5 前二項に規定するもののほか、ひそかに第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第二項と同様とする。
平成26年改正で新設された盗撮型の製造罪です。「ひそかに」とは、「描写の対象となる児童に知られることのないような態様」をいいます。児童利用脱衣所への隠しカメラ設置、就寝中の児童の撮影などが典型です。
7条5項と7条4項との関係(同一行為が両項に該当する場面における擬律)は、最判令和6年5月21日により明確化されました。第6で扱います。
6 公然陳列罪・不特定多数提供罪(7条6項)
6 児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、五年以下の拘禁刑若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。(後段略)
「公然」は不特定又は多数の者が認識できる状態をいい、「陳列」は人がその内容を認識できる状態に置くことをいいます。最決平成13年7月16日(刑集55巻5号317頁・サーバ蔵置事件)は、刑法175条の公然陳列罪について「特段の行為を要することなく直ちに認識できる状態にするまでのことは必ずしも要しない」と判示し、ダウンロード等の通常必要とされる簡単な操作を介する場合も「陳列」に含まれるとしました。本項にも妥当します。
第三者がウェブページに掲載した児童ポルノのURLを自らのウェブページに掲載する「参照型」の擬律は、最決平成24年7月9日(判時2166号140頁)が、閲覧者が特段複雑困難な操作を経ることなく当該児童ポルノを閲覧できる(簡易性)こと、行為又は付随行為が全体として閲覧者に対して当該児童ポルノの閲覧を積極的に誘引する(誘引性)こと、の2要件を示しました。両要件を充たす場合は、自らウェブページに児童ポルノを掲載したのと同視できるとして公然陳列罪に該当するとされます。本決定には反対意見2名が付されており、複数の操作を経る必要がある間接型事案では正犯性が否定される可能性があります。
7 不特定多数提供目的所持・製造(7条7項)
不特定若しくは多数の者への提供・公然陳列の目的で、児童ポルノを製造・所持・運搬・輸出入したり、電磁的記録を保管したりする行為です。インターネット掲示板への掲載目的・ファイル共有ソフトでの共有目的・販売目的でのDVD製造などが典型例です。法定刑は7条6項と同じく5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金又は併科で、児童ポルノ罪の中で最も重いラインです。
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第3 単純所持罪の要件論
平成26年改正で創設された児童ポルノ単純所持罪(7条1項前段)は、構成要件に括弧書きで限定が重ねられている特異な条文構造を持ちます。①自己の性的好奇心を満たす目的、②自己の意思に基づき所持するに至った者、③当該者であることが明らかに認められる者、の3要素を全て満たした者だけが本罪の主体となります。
第七条 自己の性的好奇心を満たす目的で、児童ポルノを所持した者(自己の意思に基づいて所持するに至った者であり、かつ、当該者であることが明らかに認められる者に限る。)は、一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。(後段略)
後段は、媒体所持を伴わないクラウド保管・SNSダイレクトメッセージ蓄積等の「電磁的記録の保管」を、所持と並列して処罰対象とします。
1 自己の性的好奇心を満たす目的
学術研究目的・報道取材目的・捜査資料保管目的等の正当目的による所持を構成要件レベルで除外する立法的配慮です。児童買春・児童ポルノ禁止法3条が、学術研究・文化芸術活動・報道等に関する国民の権利及び自由を不当に侵害しないように留意すべき旨を定めているのと、相補的に機能します。
実務上、目的要件は所持態様(フォルダ構成・閲覧履歴・複製の有無・ファイル名の整理状況)から推認される傾向が強く、学術研究目的を主張するなら、当該研究の具体的内容・所属機関・既発表論文等との関連性を客観的に立証する必要があります。
2 自己の意思に基づき所持するに至った者
不本意取得類型を構成要件から除外する立法者配慮です。典型的に問題化するのは次の場面です。
a 友人持込み型
友人が来訪時に被疑者宅のPCに児童ポルノを保存して帰り、被疑者がその事実を認識していなかった事案
b ブラウザ自動キャッシュ型
ウェブブラウジング中に表示された画像が自動的にキャッシュ・サムネイル領域に保存されたケース
c ウイルス感染・遠隔操作型
マルウェア感染や遠隔操作により第三者が被疑者端末に画像を送り込んだ事案。フォレンジック解析でファイル取得経路を立証することが防御の中核となります
d 平成26年改正前所持型
平成26年改正法の施行前から所持していた児童ポルノも、附則の経過措置期間の満了(平成27年7月14日)後は本罪の対象となります(詳細はFAQ Q3参照)
3 当該者であることが明らかに認められる者
立法経緯としては、単純所持処罰化に対する慎重論(思想信条の自由・誤入手者の処罰可能性等)に対する妥協として、構成要件要素として明文化されたものです。実体法に訴訟法的要請(証明の明確性)を混在させた立法者の意思表明と理解されており、所持者が誰であるかが客観証拠から明らかに認められる場合に限り処罰する、という限定処罰の趣旨表明です。
家庭内共用PC・職場共用PC・ファミリー共用クラウドストレージ・複数人が共用するスマートフォンなど、所持環境を複数の者が共有する事案では、本要件が争点となりえます。物理媒体型では押収PC・USB等の管理状況、ログイン履歴、ユーザーアカウントの分離状況、利用時間帯と被疑者の生活パターンとの整合性などが、クラウド・SNS型ではアカウントの登録メールアドレス・電話番号、ログインIPアドレス、二段階認証の登録端末などが、それぞれ所持者同定の判断要素となります。
4 量刑相場
単純所持1罪・前科前歴なし事案では、罰金30万円相当の略式命令処理が中心です。公表されている裁判例の分布では、単純所持の単独起訴事案は略式手続・罰金刑処理の比率が高く、公判請求は提供目的所持・大量所持・職業上地位濫用事案に集中する傾向があります。なお、司法統計年報によれば、児童買春・児童ポルノ禁止法違反全体(通常第一審・令和6年)の執行猶予率は92.1%です。公務員事案では、刑罰本体が罰金30万円相当の略式命令で終わることが多くても、後続の懲戒処分(免職・停職)が刑罰より重い構造となる二重制裁性に留意が必要です(詳細は第8・5参照)。
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第4 クラウド検出経由の発覚
近年、児童ポルノ事件の発覚経路として急増しているのが、クラウドサービス提供事業者の検出を端緒とするルートです。
1 PhotoDNAと知覚ハッシュ
クラウド事業者は、自社サービス上にアップロードされる画像・動画について、知覚ハッシュ(perceptual hash)と呼ばれる技術で児童ポルノ検出を行っています。最も普及している技術が、マイクロソフトが開発したPhotoDNAです。知覚ハッシュは、画像のピクセル単位の暗号学的ハッシュとは異なり、画像の視覚的特徴を一定の解像度で要約した数値列で、トリミング・色調整・軽微な解像度変更を経た画像でも元画像と一定の類似度が認められれば検出されます。
照合先は、米国NCMEC(National Center for Missing & Exploited Children、全米行方不明・被搾取児童センター)が運用する既知の児童ポルノ画像のハッシュ値データベースです。
2 NCMEC通報経路
米国法(18 U.S.C. §2258A)は、米国内のクラウド事業者・SNSプラットフォーム事業者に対し、自社サービス上で児童ポルノを検出した場合のNCMECへの通報を義務付けています。Google・Apple・Meta・Microsoftなどの主要事業者は、いずれもこの義務に従って通報を行っており、NCMECは通報内容を整理して関係国の法執行機関に転送します。日本の窓口は警察庁で、そこから都道府県警察に情報が下ろされ、捜査着手に至ります。
3 NCMEC経由事案の特徴と弁護対応
NCMEC経由事案は、端緒情報がアカウント単位で提供されること、検出時点でのファイルハッシュ値・タイムスタンプが付随することが多いこと、クラウド側のデータ保全状況が捜査時点で確認可能であること、被疑者の端末押収前にクラウド側で既に証拠が固定されていることに特徴があります。物理媒体押収型と異なり、被疑者が端末データを削除してもクラウド側に保全された証拠は残ります。
弁護方針としては、ハッシュ値による同一性判定の射程と限界を踏まえつつ、原典となる海外事件の捜査記録の信頼性、クラウドアカウントの帰属(単純所持罪3要素のうち「明らかに認められる者」要件)、NCMEC経由情報に基づく令状請求の疎明資料の適法性(伝聞法則・違法収集証拠排除法則)、日米刑事共助条約(MLAT)に基づく手続の必要性などを精査することになります。
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第5 AI生成児童ポルノの擬律
生成AI(GAN・拡散モデル等)の社会実装が進む中、AI生成児童ポルノの擬律は近年急速に問題化している論点です。実務上は、次の4類型が議論されています。
a 既存児童ポルノ写真をCG加工した類型
聖少女伝説事件で扱われた古典的類型
b 実在児童の顔写真をAIに学習させて作成した実在しない児童性的姿態の動画等
c 完全AI生成型
実在児童とは無関係な架空人を描写
d 着衣の児童画像をAI脱衣化アプリで処理した擬似ヌード化画像
1 聖少女伝説事件(最決令和2年1月27日)の到達点
最決令和2年1月27日(刑集74巻1号119頁)は、昭和57〜59年初版本の少女ヌード写真集を素材として作成したCG3点について、児童ポルノ製造罪(行為時の平成26年改正前7条5項。現行7条7項に相当)の成立を肯定しました。第一審の東京地判平成28年3月15日は、CG画像と実在児童との「同一性」の判断基準として、次のとおり判示しています。
このような児童ポルノ法の目的や同法7条の趣旨に照らせば、同法2条3項柱書及び同法7条の「児童の姿態」とは実在の児童の姿態をいい、実在しない児童の姿態は含まないものと解すべきであるが、被写体の全体的な構図、CGの作成経緯や動機、作成方法等を踏まえつつ、特に、被写体の顔立ちや、性器等(性器、肛門又は乳首)、胸部又は臀部といった児童の権利擁護の観点からしても重要な部位において、当該CGに記録された姿態が、一般人からみて、架空の児童の姿態ではなく、実在の児童の姿態を忠実に描写したものであると認識できる場合には、実在の児童とCGで描かれた児童とが同一である(同一性を有する)と判断できる。
判断要素として、①被写体の顔立ち、②性器等(性器・肛門・乳首)、③胸部、④臀部の4要素が「児童の権利擁護の観点からしても重要な部位」と位置付けられています。
記録化された性的な姿態が他人の目にさらされることによって、更なる性的搾取が生じ得る
山口厚裁判官補足意見は、児童ポルノ製造罪が「性的搾取の対象とされないという利益の侵害」を処罰の直接の根拠としているとし、被写体児童の利益保護を保護法益論として明示しました。この論理は、CG加工に限らず、AI生成・ディープフェイク等の新類型にも応用しうる射程を持つと整理されています。
2 実在児童学習型AI生成(宮本征見解)
法務省刑事局付・宮本征検事は、警察公論81巻2号(立花書房、2026年)「実務刑事判例評釈 case 364 東京地判令3.9.2」91〜93頁において、AI実在児童学習型の擬律について次のとおり見解(私見と明示)を示しています。
論考は、令和2年判例の判示について「あくまで『児童の実在性』を求めるものであって、『児童の性的姿態の実在性』まで求めるものではないと考えるべき」と整理した上で、判断基準を次のとおり提示します。
AIに「実在する児童」の顔写真を学習させて作成した実在しない「児童の性的姿態」の動画等であっても、例えば、一般人が当該児童の性的姿態を描写したものと視覚的に誤信し得るものについては、「児童ポルノ」に該当するものとして、その製造行為等につき、児童ポルノ等規制法の罰則を適用する余地があり得ると思われる。
すなわち、AIに実在児童の顔写真を学習させ、架空人の性的姿態と合成した動画等であっても、当該児童に対する性的搾取・性的虐待を生じさせるおそれがあり、実在する児童の権利を害し得るものとして、児童買春・児童ポルノ禁止法の趣旨・目的に照らしてその規制対象に含まれると解すべきものが十分存在するという立場です。この判断軸は、聖少女伝説事件の「忠実な描写」基準と論理構造を共有しており、今後の擬律判断の参考になると考えられます。
3 完全AI生成型の射程
実在児童とは無関係な架空人のみを描写する純粋AI生成画像については、「児童の実在性」要件自体を欠くとの立場が、現行法の解釈論として依然として残ります。宮本論考も、完全AI生成型については明示の言及をしていません。
弁護方針としては、被疑者が用いた生成AIモデル・プロンプト・出力ログを保全して画像が完全AI生成であることを示すこと、学習データセットの内容を専門家鑑定で分析して特定の実在児童の特徴を再現していないことを示すこと、AI生成画像特有の特徴(指の本数の誤り・背景の不自然性・肌の質感の均一性等)を指摘して特定実在児童との同一性を否定することが、立証の組立てとなります。
ただし、完全AI生成画像であっても、生成AIの学習データに実在児童の児童ポルノ画像が含まれていた事実が立証されれば、自己の性的好奇心を満たす目的の要件を満たす場合には、別途、学習データ自体の所持罪(7条1項)・電磁的記録保管罪(7条1項後段)が成立しうる点に留意が必要です。
4 AI脱衣化アプリ処理画像
着衣の児童画像(学校のクラス写真、SNS投稿写真等)をAI脱衣化アプリで処理した類型は、顔・体型・髪型等の主要部位は実在児童の特徴をそのまま保持し、衣服部分のみがAI生成された架空の裸体に置換される構造を持ちます。聖少女伝説事件の重要部位基準に照らせば、「顔立ちは実在児童のものであるが、性器等・胸部・臀部は架空」という構造になり、宮本論考が想定するAI実在児童学習型と論理構造が類似します。一般人が「当該児童の本当の裸体である」と誤信しうるかが判断の焦点です。
なお、本類型は特定被害児童の名誉感情・羞恥心の侵害が直接的に生じる類型であり、児童ポルノ罪が成立しない事案でも、名誉毀損罪(刑法230条)・侮辱罪(刑法231条)の成否が問題となります。
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第6 7条4項と5項の適用関係(最判令和6年5月21日)
製造罪の擬律で、4項(姿態をとらせ製造)と5項(ひそかに描写する製造)の関係は、長らく解釈論上の論点でした。すなわち、児童に姿態をとらせ、かつ、そのことを児童に知られないような態様でひそかに撮影した場合、4項と5項のいずれが適用されるのか、5項冒頭の「前二項に規定するもののほか」という文言の射程はどこまで及ぶのか、というのが争点でした。
1 判旨
最判令和6年5月21日(裁判所ウェブ掲載)は、この論点について、次のとおり判示しました。
児童ポルノ法7条5項が、ひそかに児童の姿態を撮影するなどして児童ポルノを製造するという行為態様の違法性の高さに鑑み、同条3項及び4項の各児童ポルノ製造に加えて、処罰対象となる児童ポルノ製造の範囲を拡大するために制定されたという立法の趣旨及び経緯、並びに、同条4項、5項の各児童ポルノ製造罪の保護法益及び法定刑に照らせば、児童に姿態をとらせ、これをひそかに撮影するなどして児童ポルノを製造したという事実について、当該行為が同条4項の児童ポルノ製造罪にも該当するとしても、なお同条5項の児童ポルノ製造罪が成立し、同罪で公訴が提起された場合、裁判所は、同項を適用することができると解するのが相当である。
すなわち、児童に姿態をとらせ、かつ、ひそかに撮影した事案について、4項の製造罪に該当するとしても、5項の製造罪も成立し、5項で起訴された場合は5項を適用しうるとの結論を採用しました。
2 理由付け
最高裁は理由として、次の点を挙げています。
そのように解さなければ、事案によっては、同罪で公訴を提起した検察官が同条4項の児童ポルノ製造罪の不成立の証明を、被告人がその成立の反証を志向するなど、当事者双方に不自然な訴訟活動を行わせることになりかねず、さらには、ひそかに児童の姿態を撮影するなどして児童ポルノを製造したことは証拠上明らかであるのに、裁判所が同条5項を適用することができないといった不合理な事態になりかねない。同項にいう「前2項に規定するもののほか」との文言は、以上の解釈を妨げるものではない。
5項冒頭の「前二項に規定するもののほか」という文言は、実体的に3項・4項に該当するものを除く趣旨ではなく、3項・4項として処罰されるものを除く趣旨であると解釈されたわけです。
3 原審・大阪高判令和5年7月27日(判タ1519号208頁)の整理
原審は、5項製造罪の立法趣旨について、対象児童に知られることのないような態様で描写することにより児童ポルノを製造する行為がその行為態様において悪質であるとともに、当該児童の尊厳を害する行為であり、児童を性的行為の対象とする風潮を助長し、流通の危険を創出するものであることに鑑みて、処罰範囲を拡大する趣旨で設けられたものと整理しました。そのうえで、ひそかに描写して製造するという行為態様の悪質性や児童の尊厳を害すること等は、就寝中で意識のない児童の姿態をそのまま撮影した場合と、撮影の際に一定の姿態をとらせるという撮影者の行為を伴う場合とで異なるものではないから、立法趣旨との関係では後者の場合を除外すべき理由はないと判示しました。3項・4項・5項の法定刑が同じであるため、5項で処罰されても被告人の不利益はない点も指摘されています。
4 実務への影響
本判決により、検察官は、児童に姿態をとらせ、かつ、ひそかに撮影した事案について、4項と5項のいずれで起訴するかを裁量で選択できることになりました。弁護方針としては、本判決後は5項該当性そのものを争うのではなく、「ひそかに」要件の事実認定を争う方向が中心になると考えられます。被害児童が撮影行為自体は認識していた事案では、5項該当性を争いつつ、4項該当性が代替的に成立しうる構造を意識した整理が必要です。
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第7 没収・消去制度
令和5年法律67号として制定された「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」(以下、本記事では「撮影処罰法」と呼びます)は、児童ポルノ事案の事後処理に新たな制度的層を加えました。同法第3章(複写物の没収)は令和5年7月13日に、第4章(押収物に記録された電磁的記録の消去等)は令和6年6月20日に、それぞれ施行されています。
1 対象電磁的記録の範囲と複写物への射程
撮影処罰法9条1項は「対象電磁的記録」として、撮影罪・記録罪により生成された性的姿態等の影像を記録した電磁的記録、私事性的画像記録(リベンジポルノ防止法の対象)に係る電磁的記録、児童買春・児童ポルノ禁止法3条の2に規定する電磁的記録の3類型を列挙します。児童ポルノ事案では、従来の刑法19条による没収に加えて、撮影処罰法第4章の消去手続が重畳的に適用される構造です。
撮影処罰法8条1項は、性的姿態等撮影罪(同法2条1項)・性的姿態等影像記録罪(同法6条1項)の犯罪行為により「生じた物を複写した物」等を没収対象とします。従来の刑法19条1項3号では複写物は没収対象外とされてきましたが、本制度はこの限界を突破し、原本・複写を問わず影像の同一性に基づいて没収を可能とした点に特色があります。ただし、8条1項の複写物没収の対象は撮影罪・記録罪の生成物等に限定されており、児童ポルノの複写物には及びません。児童ポルノ事案に及ぶのは第4章の消去等の手続であり、同法10条1項1号ハが児童ポルノ(児童買春・児童ポルノ禁止法2条3項に規定する物)を対象押収物として明記しています。
2 手続の流れ
検察官は、保管中の押収物が対象に該当すると思料するときは、刑事訴訟法上の押収を解いた上で「領置」し(同法12条)、消去等措置をとるときは、あらかじめ措置の内容を明らかにして「消去等決定」を行わなければなりません(同法16条・20条1項)。消去等決定・消去命令前の聴聞は必須で(同法17条2項)、対象電磁的記録が帰属する者・対象領置物件の所有者・消去命令の名宛人に対し意見聴取の機会が保障されます。撮影処罰法11条は、リモートアクセス複写の対象となった電磁的記録について、クラウド事業者等「消去する権限を有する者」に対する消去命令を可能とします(違反は1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金・同法43条)。
消去等決定・消去命令・領置等への不服申立ては、検察庁の長に対し30日以内に審査の申立てを行い(同法26条1項)、その後の取消訴訟は当該検察庁の所在地を管轄する地方裁判所に専属します(同法34条1項)。
3 弁護方針上の論点
検察官が没収を求める「複写物」の影像同一性の立証責任は検察側にあり、複写経路・メタデータ・ハッシュ値等の客観的立証が不十分である場合、没収対象から除外する主張が成り立ちます。被告人のデバイスに犯罪と無関係なデータが混在する場合、撮影処罰法18条1項に基づき、対象電磁的記録ではない電磁的記録を他の記録媒体に複写して交付するよう申し出ることができ、業務関係データ・家族写真・通信記録等の保全を求めることが弁護活動の柱となります。
クラウドアカウントのアクセス権限を有する者が被告人本人である場合、被告人による消去への自発的協力は、量刑上「被害回復・再被害防止への寄与」として評価されうるため、弁護方針として積極的に活用できます。
第8 弁護活動の典型論点
児童ポルノ事件の弁護活動は、行為類型・発覚経路・職業の有無・前科前歴などにより組立てが大きく分かれます。本節では、典型的に争点化する論点を整理します。
1 構成要件非充足の主張
3号事案では、平成26年改正で付加された二重の限定構造(「殊更に性的部位の露出・強調」と「性欲を興奮させ又は刺激するもの」)を活用した構成要件非充足の主張余地が、他類型に比して相対的に大きくなっています。被写体児童の体勢・撮影角度・ズーム倍率・近接撮影の有無・他の身体部位との比較における焦点化の程度等の客観的事情を精査して組み立てます。
単純所持罪事案では、第3で整理した3要素のうち、どれを争点として組み立てるかを最初に判断します。客観証拠との整合性に応じて、自己意思要件→明らかに認められる要件→自己の性的好奇心目的要件→児童性の故意の順で射程が広い構造です。
CG加工事案・AI生成事案では、聖少女伝説事件の同一性基準(重要部位4点・一般人誤信可能性)を起点として、実在児童との同一性を否定する主張を組み立てます(第5参照)。
2 児童年齢の立証への対応
検察官は、児童ポルノ罪の成立要件として、被写体児童が撮影時に18歳未満であったことを「合理的な疑いを差し挟む余地がない」程度に立証する責任を負います(最決平成19年10月16日刑集61巻7号677頁)。立証手段は、戸籍・住民票・本人供述(被害児童本人特定型)、Tanner法による医師鑑定(画像のみ型)、SNS・通信記録などです。
被害児童本人を特定できない画像のみ事案で、検察官がTanner法医学鑑定を中核証拠とする場合、東京地判平成28年3月15日(判時2335号105頁)が指摘するTanner法の限界点を活用する余地があります。同判決は、18歳以上女性で2〜4度評価例があり得ること、写真修整の可能性、医学的観察対象としての画像の信頼性に限界があることを指摘し、医師意見の全面採用を否定しました。安易な対抗鑑定請求はかえって検察側鑑定の信用性を補強する結果となる場合もあるため、鑑定書の内在的批判(鑑定方法論・観察事実の摘示状況・推論過程の合理性)から組み立てることが基本となります。
3 罪数主張
⑴ 児童淫行罪との罪数
児童に淫行をさせた様子をビデオ撮影した事案では、児童福祉法34条1項6号違反(児童淫行罪・法定刑10年以下の拘禁刑)と児童ポルノ製造罪(7条4項・法定刑3年以下の拘禁刑)の罪数が問題となります。最決平成21年10月21日(刑集63巻8号1070頁)は、両罪を原則として併合罪と整理しました。両行為が通常伴う関係にあるとはいえないこと、保護法益が異なることが根拠です。併合罪となる結果、処断刑の長期は、刑法47条本文によれば最も重い児童淫行罪の長期10年に2分の1を加えた15年となりそうですが、同条ただし書により各罪の長期の合計を超えることはできないため、10年+3年=13年が上限となります。
⑵ 不同意わいせつ罪との罪数
最決平成30年9月10日は、強制わいせつ罪(現・不同意わいせつ罪)と児童ポルノ製造罪の罪数について、一次保存(撮影機内蔵媒体への保存)にとどまる事案では観念的競合、二次保存(PCのHDDへの転送等)がある事案では併合罪となるとの枠組みを示しました。弁護方針としては、押収PCのフォレンジック解析結果から二次保存の有無を確認し、一次保存にとどまる事案では観念的競合主張を組み立てることが考えられます。
⑶ 高松高判令和7年2月13日の射程
高松高判令和7年2月13日(令和6年(う)第126号)は、SNS画像送信要求+性交+撮影の複合事案について、要求局面(画像送信要求行為が不同意わいせつ罪・16歳未満の者に対する映像送信要求罪・性的姿態等撮影罪・児童ポルノ製造罪の4罪の実行行為性を同時充足)を観念的競合、性交局面と撮影局面を併合罪と整理しました。令和5年改正後の現代的事案における罪数処理指針として参照されています。
4 示談・治療プログラム参加
被害児童本人との直接示談は通常困難で、保護者を介した示談が中心となります。保護者の処罰感情が独立に評価される傾向があり、「示談成立」だけでなく「宥恕」までの獲得が量刑減軽に実質的に作用します。高松高判令和7年2月13日では、100万円の示談が成立していたにもかかわらず「宥恕」までは認定されず、量刑減軽効果が限定的にとどまった事例です。
SOMEC(性障害専門医療センター)等の性犯罪治療プログラムへの参加実績は、起訴猶予獲得・懲戒処分軽減双方に有用な情状立証材料となります。被疑者・被告人段階から専門医療機関への通院記録・カウンセリング記録を保全し、これを意見書・弁論で活用することで、「改善更生の現実的可能性」を可視化することが、執行猶予判決・不起訴処分を導く弁護方針として有効です。令和7年6月施行の拘禁刑統一により、改正後刑法12条3項は「改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができる」と定め、改善指導の概念が刑事司法の中核に置かれました。これにより、「治療への取り組み」が量刑判断及び処分判断における積極要因として一層重視される傾向が予測されます。
5 公務員事案における二重制裁性
公務員が単純所持罪で立件された事案では、刑罰本体が罰金30万円であっても、後続の懲戒処分(免職・停職)が経済的・社会的に致命的となる構造です。弁護人としては、起訴・略式請求の前段階で示談・自首・治療プログラム参加を組み立てて起訴猶予を獲得することが、懲戒処分回避の現実的な経路となります。
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FAQ
Q1 削除した画像でも所持罪に問われますか
削除により、所持状態は終了します(本罪は所持の継続行為を処罰する継続犯です)。ただし、①フォレンジック解析(復元)により削除済みファイルから過去の所持が立証されるリスク、②公訴時効(3年。刑事訴訟法250条2項6号)が完成していない過去の所持が処罰対象となるリスク、③押収時点で現存する別の児童ポルノファイルについて本罪が成立するリスク、が残ります。削除時期が3年以上前であれば公訴時効が完成している可能性があり、現存ファイルで立件される場合、削除済みファイルは情状立証の材料にとどまります。
なお、捜査着手を察知して削除した場合、自己の犯罪に係る証拠隠滅は刑法104条の対象外(最決昭和40年9月16日刑集19巻6号679頁)であるため別罪を構成しませんが、量刑上の反省態度の評価には影響します。
Q2 成人だと信じていたと主張すれば不処罰になりますか
児童ポルノ単純所持罪(7条1項)について、被写体の児童年齢を知らなかったことを理由に故意阻却を主張する余地は、児童買春・児童ポルノ禁止法9条の知情擬制の対象外であるため、提供目的所持罪・製造罪・提供罪等に比べて相対的に大きくなっています。ただし、被写体の容姿・体格・場面(学校制服・部活動着・ランドセル等)から児童であることが外形上明らかな場合は、児童性の故意は容易に推認されます。「成人だと信じていた」という抗弁は、被写体の外形と整合しない限り採用されにくいのが実情です。
Q3 平成26年改正前から持っていた画像を消さずに保管していた場合は処罰されますか
平成26年7月15日施行の改正法(平成26年法律79号)は、附則で、改正後の7条1項を施行日から1年間(平成27年7月14日まで)は適用しないという経過措置を置きました。平成27年7月15日以降は、改正法施行前に取得した児童ポルノの継続所持も処罰対象となります。「以前から持っていたから違法ではない」という抗弁は通用しません。
Q4 被写体がもう成人になっている場合でも罪になりますか
「児童」性は撮影時点で判断されるため(撮影時基準説。最決令和2年1月27日参照)、被写体が現在は成年に達していたとしても、撮影時に18歳未満であった画像を所持・提供・公然陳列すれば、それぞれの罪が成立します。旧少女ヌード写真集の現所持、過去の交際相手(撮影時未成年)の自撮り画像の継続所持などが、典型的な該当事案です。
Q5 家族と共用のPCで発覚した場合、自分の所持が認定されてしまいますか
家庭内共用PC・ファミリー共用クラウドストレージ等で、被疑者以外の者がアクセス可能な環境にある事案では、単純所持罪3要素のうち「当該者であることが明らかに認められる」要件が争点となりえます。立証責任は検察官にあるため、共用利用者の特定・アクセス履歴・被疑者の不在時のアクセス記録などを整理して、合理的疑いを生じさせる方向で組み立てます。ただし、ファイル作成・更新時刻と被疑者の所在記録(タイムカード・行動記録)が一致する事案、被疑者専用アカウントでログインされていた事案、フォルダ構成・閲覧履歴が被疑者の嗜好と整合する事案などもあります。こうした事案では、共用環境であっても所持者の同定が認められる傾向があります。
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おわりに
児童ポルノ罪は、児童買春・児童ポルノ禁止法7条の8項にわたる複層的な構造を持ち、それぞれの態様で構成要件・法定刑・立証構造が異なります。クラウド検出経由の発覚が増えている現代では、被疑者・被告人段階での初動対応(端末押収への対応、フォレンジック証拠の保全、クラウドアカウント情報の確認)が、その後の弁護活動の射程を大きく規定します。AI生成児童ポルノ・ディープフェイク・脱衣化アプリといった新類型は、現行法の解釈・適用が議論の途上にある領域です。
事件全体の構造は児童に対する性犯罪ハブ記事を、特定の論点については児童ポルノ事件 単純所持の弁護、児童ポルノ事件 自画撮り送信型の弁護、児童ポルノ事件 重畳適用・罪数論、児童ポルノ事件 端末共用・冤罪型の弁護、児童ポルノ事件 AI生成型・CG加工型の弁護、児童ポルノ事件 自首・量刑相場をご参照ください。
レナトス法律事務所(さいたま市大宮区)は、刑事弁護を取扱いの中心とする法律事務所です。児童ポルノ事件でご本人やご家族が対応を検討されている場合、初回相談では、事案の整理と現時点でとり得る選択肢、今後の手続の見通しの順でご説明します。お問い合わせは 050-5574-2763 まで。
文責:レナトス法律事務所 代表弁護士 横山遼(よこやま・りょう)
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