この記事のポイント
逮捕とは、罪を犯した疑いのある者の身柄を強制的に拘束する刑事手続です(刑事訴訟法199条以下)。逮捕後は、身柄拘束から 合計72時間以内 に検察官が勾留を請求するかが判断され、裁判官が勾留を認めれば、勾留請求日を起算日として原則10日(最長20日)の身柄拘束に進みます。早期釈放や不起訴を目指せる時間は、ごく限られています。
- 逮捕直後〜48時間: 警察署の留置場に収容され、司法警察員から弁解録取・取調べを受ける(刑事訴訟法203条1項)。携帯電話は預けることになり、家族にも自由に連絡できない。
- 送致(逮捕から48時間以内): 司法警察員が事件を検察官に送る(俗に「送検」)。検察官は被疑者を受け取った時から 24時間以内、かつ身柄拘束から通算72時間以内に勾留請求するかを判断する(刑事訴訟法205条1項・2項)。
- 勾留質問・勾留決定: 検察官が勾留請求すると、裁判官が本人に質問のうえ勾留を認めるかを決定(刑事訴訟法207条1項)。認められれば、勾留請求日を起算日として原則10日、延長で最長20日まで身柄拘束が続く(刑事訴訟法208条1項・2項)。
- 起訴・不起訴の判断: 勾留期間の満期までに、検察官が起訴(公判請求・略式命令)または不起訴(嫌疑不十分・起訴猶予等)を決定する。不起訴なら前科は付かない。
- 弁護活動: 接見による黙秘権・供述方針の助言、勾留阻止・準抗告、被害者との示談、検察官への不起訴・在宅切替の働きかけ、家族・職場対応。逮捕直後ほど打てる手が多い。
本記事では、逮捕後の時系列・取調べでの注意点・接見の重要性・釈放を目指す具体的な弁護活動を、刑事弁護に取り組む弁護士の視点で解説します。なお、勾留期間(原則10日・最長20日)の起算日は逮捕日でも勾留決定日でもなく、勾留請求日です(刑訴208条1項)。表現の細部や事案ごとの差異については、本文で詳しく整理しています。
突然の逮捕は、ご本人にとってもご家族にとっても、大きな不安と混乱をもたらします。「これからどうなるのか」「いつ出られるのか」「仕事はどうなるのか」――次々と不安が押し寄せてくるのは当然のことです。
しかし、逮捕されたからといって、すべてが終わりというわけではありません。適切な対応を取ることで、早期の釈放や不起訴処分を目指すことができます。
本記事では、上記のポイントを踏まえつつ、各フェーズで実務的に何が起きているのかを、弁護人の視点から踏み込んで解説します。
逮捕の3つの種類と「72時間」の中身
リードで触れた「合計72時間」は、内訳としては 司法警察員のもとで最大48時間(刑事訴訟法203条1項)、検察官のもとで最大24時間(刑事訴訟法205条1項・2項) の二段構成です。日常の刑事弁護で問題になりやすいのは、この時間制限よりもむしろ、各段階での 運用のばらつき と 逮捕の種類による証拠の残り方 です。
逮捕の3類型 ― 通常逮捕・現行犯逮捕・緊急逮捕
逮捕には、以下の3つの種類があります。
| 種類 | 内容 | 令状の要否 |
|---|---|---|
| 通常逮捕 | 裁判官が発付した逮捕状に基づく逮捕。後日逮捕とも呼ばれます | 必要 |
| 現行犯逮捕 | 犯罪を行っている最中、または直後に逮捕されるケース | 不要 |
| 緊急逮捕 | 重大犯罪で急速を要する場合に、令状なしで先に逮捕し、直ちに令状を請求 | 事後に必要 |
日常生活で最も多いのは、万引きや暴行などでの現行犯逮捕と、盗撮や詐欺などの捜査が進んだ後の通常逮捕(後日逮捕)です。通常逮捕は、捜査機関が事前に証拠を積み上げてから踏み切ることが多く、逮捕の時点で既に 供述以外の客観証拠(防犯カメラ・通信履歴・取引記録など) がある程度揃っているのが通常です。この前提を理解しないまま取調べに臨むと、想定外の証拠を突きつけられて動揺し、不利な供述に流れてしまうことがあります。
72時間制限の運用 ― 県によって動き方が違う
身柄拘束は、法律上の上限である72時間がフルに使われるとは限りません。地域や事件の性質によって、運用には実務的な差があります。
埼玉県では、日中に逮捕されれば翌日に検察官へ送致されるのが通常です。夕方以降の逮捕であれば、2日後の午前中に送致されることが多く、48時間の上限ぎりぎりまで使われるケースは多くありません。
72時間を待たずに早期釈放されるケースとしては、過失運転致傷で被害者の怪我が大きいものの、身元引受人がしっかり確保できている事案など、勾留の必要性(罪証隠滅・逃亡のおそれ)が低いと判断される類型が代表例です。
なお、勾留請求が認められた場合、勾留期間(原則10日)の起算日は 勾留請求日 です(刑訴法208条1項)。「逮捕日」でも「勾留決定日」でもありません。後述するように、この起算日のずれ方は地域によって違いがあり、国選弁護人が実際に動ける期間にも影響します。
取調べでの対応 ― 弁解録取・黙秘権・調書の落とし穴
逮捕直後にもっとも重要なのは、捜査機関に何かを話す前に、弁護士のアドバイスを受けることです。リードでも触れたとおり、取調べでは 弁解録取(べんかいろくしゅ) という手続きが行われ、警察官から逮捕の理由について弁解を聞かれます。ここで一度作られた供述調書は、後から覆すのが極めて困難です。
弁解録取・取調べで起きやすいこと
弁解録取・取調べの場面では、次のようなことが繰り返し起きます。
- 事件の筋書きの先取り: 捜査機関が想定する筋書きをそのまま認めてしまう
- 余罪の自白: 聞かれていない別件まで話してしまう
- 細部の誤記憶: 緊張・睡眠不足のなかで曖昧な記憶を「断定」されてしまう
取調べでは、黙秘権(もくひけん)があります。話したくないことは話さなくてよい権利で、行使したからといって不利な評価につながるわけではありません。弁護士に相談する前に、焦って話す必要はないというのが大原則です。
「認めれば楽になる」「素直に話したほうがいい」の落とし穴
取調べでは、捜査官から「認めれば早く出られる」「素直に認めたほうが処分が軽くなる」と言われることがあります。短時間で釈放を期待してこの誘導に乗ってしまうと、身に覚えのないこと、あるいは事実と異なるニュアンス まで認めた調書ができあがります。一度署名指印した調書は、裁判で重要な証拠として扱われ、後からの訂正は非常に困難です。
特に身に覚えがない場合、安易に認めてしまうと 冤罪(えんざい) につながるおそれがあります。「認めなければ交際相手のところに警察が行く」「学校に連絡する」といった形で供述を迫られるケースもありますが、こうした言葉に動揺して認める必要はありません。弁護士に相談してから対応を決めることが重要です。
※ この事例はイメージです
弁護士がいる場合といない場合の差
弁護士は、取調べ前に 黙秘権の行使方法・供述方針・想定される追及への対応 についてアドバイスを行います。当番弁護士の段階でも、「次の取調べまでにこれは話さない」「この点は事実関係を整理してから答える」といった具体的な指針を持って臨めるのと、そうでないのとでは、調書の中身が大きく変わります。不利な供述を阻止する弁護活動は、起訴・不起訴の分かれ目に直結します。
勾留阻止と勾留延長 ― 10日+10日の実務
検察官が勾留請求し、裁判官が勾留決定(刑訴法207条1項)を出すと、勾留請求日を起算日として原則10日間の身柄拘束が始まります(刑訴法208条1項)。さらに「やむを得ない事由」があるときは 最大10日間の延長 が認められ、合計で 最大20日間 勾留される可能性があります(同条2項)。
逮捕からの身柄拘束期間をまとめると、以下のようになります。
| 段階 | 期間 | 累計 |
|---|---|---|
| 逮捕〜送致 | 最大48時間 | 2日 |
| 送致〜勾留決定 | 最大24時間 | 3日 |
| 勾留(原則) | 10日間 | 13日 |
| 勾留延長 | 最大10日間 | 最大23日間 |
つまり、逮捕から起訴・不起訴の判断がなされるまで、逮捕手続きと合わせて 最大で23日間 の身柄拘束を受ける可能性があります。事件の内容や対応によって幅はあり、軽微な事件で早期に示談が成立すれば数日で釈放されることもあれば、勾留延長まで使われることもあります。
実務上、勾留が10日間ぴったりで終了するケースは多くありません。12〜13日間(逮捕手続きを含む)で必要な捜査書類がすべて揃うことは稀であり、勾留延長が認められるのが通常です。10日間の勾留で釈放されやすいのは、軽微なDV事案などに限られます。
また、勾留請求日と勾留決定日のずれ方は地域によって違います。埼玉では同日中に勾留請求・勾留決定・国選弁護人配点まで進む運用が一般的で、国選弁護人が実質10日フルに弁護活動を組み立てられます。一方、東京では勾留請求の翌日に勾留決定・国選配点となる運用があり、国選弁護人が実際に動ける期間が実質9日になることがあります。私選であれば送致前から契約できるため、地域差の影響を受けにくいという違いもあります。
勾留を阻止するための弁護活動
「勾留を阻止する」という発想は、ご本人やご家族にとってはイメージが湧きにくいかもしれませんが、刑事弁護では 身柄解放のための主戦場 です。具体的には、以下のような活動を重ねます。
- 検察官に対する 勾留しないこと(在宅切替)を求める意見書 の提出
- 勾留決定前に裁判官へ 勾留を認めないことを求める意見書 の提出と、必要に応じた裁判官面談
- 勾留決定が出てしまった場合の 準抗告(じゅんこうこく)(刑訴法429条1項)による不服申立て
- 身元引受人の確保と、身元引受書・誓約書の作成
- 被害者との示談交渉の早期着手
これらは、勾留の必要性(罪証隠滅・逃亡のおそれ)を一つひとつ潰していく作業です。逮捕直後ほど取れる選択肢が多く、勾留決定後・勾留延長後と進むにつれて、打てる手は限定されていきます。「勾留される前」と「勾留された後」では、弁護人の動き方の優先順位が大きく変わる という点を押さえてください。
起訴・不起訴の判断と保釈
勾留期間が満了するまでに、検察官は 起訴(きそ)するか、不起訴(ふきそ)にするか を判断します。
- 起訴: 刑事裁判にかけられる
- 不起訴: 裁判にはならず、釈放される(前科はつかない)
日本の刑事事件では、約7割が不起訴 になっています。令和5年のデータでは、起訴が23万8,145人に対し、不起訴は50万7,221人でした(出典: 令和6年版 犯罪白書 2-1-1図)。不起訴を獲得するためには、被害者との示談(じだん)成立や、反省の態度を示すことが重要です。
不起訴の種類には以下の3つがあります。
- 起訴猶予: 犯罪の事実はあるが、情状を考慮して起訴しない
- 嫌疑不十分: 証拠が不十分で有罪の立証が難しい
- 嫌疑なし: 犯罪の疑いがない
多くの事件で実際に獲得を目指すのは 起訴猶予 です。事実関係を争わない事案であっても、示談成立・宥恕(ゆうじょ)獲得・再犯防止策の提示などにより、起訴を回避できる余地があります。
起訴された場合 ― 公判請求・略式起訴・保釈
起訴されると、刑事裁判 を受けることになります。起訴には2つの種類があります。
- 正式起訴(公判請求): 法廷で裁判が行われる。判決まで数か月かかることもある
- 略式起訴: 書面のみで審理され、罰金刑が科される。比較的軽い事件で用いられる
正式起訴された場合、起訴後に 保釈(ほしゃく) を申請できます。保釈とは、罪証隠滅や逃亡のおそれがないと認められた場合に、保釈保証金(保釈金) を納付することで、判決が出るまでの間、身柄を解放してもらう制度です。
なお、2023年の刑事訴訟法改正により、保釈中に制限住居を離れた場合には 刑事罰(制限住居離脱罪・刑事訴訟法95条の3) が科されることになりました。保釈が認められた場合は、裁判所が定めた条件をしっかり守ることが求められます。
早期釈放のための弁護活動と家族・職場対応
勾留阻止の段階を過ぎた後でも、刑事弁護は終わりません。むしろ、ここから 不起訴・在宅切替・職場や家庭への影響を最小化する活動 が中心になります。
被害者との示談交渉
多くの刑事事件では、被害者との示談(じだん) が成立するかどうかが、処分の結果に大きく影響します。
示談とは、被害者に対する損害賠償などの 民事上の紛争を解決する 手続きです。示談が成立した上で、被害者から「処罰を求めない」という意思(宥恕(ゆうじょ))を得られると、不起訴処分の獲得に大きく近づきます。
ただし、加害者本人が直接被害者に連絡を取ることは通常認められません。多くの事件では、被害者の連絡先は弁護人にしか開示されない運用です。弁護士が間に入って交渉する ことで、示談がスムーズに進む可能性が高まり、被害者側の二次加害リスクも抑えられます。
職場・家庭への影響を最小限にする
逮捕されると、仕事や家庭にも大きな影響が及びます。
逮捕された事実が自動的に会社に通知されるわけではありませんが、数日間出勤できないことで事実上発覚してしまうケースは少なくありません。職場に知られた場合、「私生活上の非違行為」として懲戒処分の対象になる可能性もあります。
弁護士に相談することで、職場に知られるリスクを最小限に抑える方法 や、万が一知られた場合の対応策(休暇申請の伝え方、聴取への対応、懲戒処分の手続的妥当性のチェックなど)についてアドバイスを受けることができます。家族とのやり取りについても、接見を通じてご本人の意思を伝え、混乱を避ける役割を弁護人が担います。
不利な調書を防ぐ ― 取調べ対応との関係
このH2の最終的な目的(不起訴・早期釈放)にとって、最大の脅威は 取調べで作られる不利な供述調書 です。前述のH2「取調べでの対応」で扱った黙秘権・供述方針の助言は、ここで効いてきます。早期釈放に向けた働きかけも、取調べ段階で守るべき線が守られていることが前提になります。
弁護士を呼ぶ方法と費用
逮捕された場合に弁護士を呼ぶ方法は、主に3つあります。
最も大切なのは、「どの制度を使うか」で迷って時間を失わないことです。当番弁護士でも国選弁護人でも、まずは弁護士がついている状態を作ることが最優先です。後から私選弁護人に切り替えた場合、国選弁護人は自動的に解任されますので、安心してください。
当番弁護士(無料・1回限り)
当番弁護士(とうばんべんごし)とは、逮捕された方のもとに、弁護士が1回無料で面会(接見)に来てくれる制度です。
利用方法は以下のとおりです。
- 逮捕された本人が警察官に「弁護士を呼んでほしい」と伝える
- または、ご家族が各地の弁護士会に電話する
埼玉弁護士会:048-863-5255
当番弁護士は、逮捕当日または翌日に接見に来てくれます。ただし、1回限りの制度のため、継続的なサポートが必要な場合は、国選弁護人の選任や私選弁護人への依頼を検討しましょう。
迷ったら、まずは当番弁護士を呼んでください。弁護士と面会してアドバイスを受けることが、何よりも大切です。
国選弁護人(条件あり・国が費用負担)
国選弁護人(こくせんべんごにん)は、経済的な理由で弁護士を雇えない方のために、国が費用を負担して弁護士を選任する制度です。
国選弁護人をつけるための主な条件は以下のとおりです。
- 被疑者段階(勾留中):勾留状が発せられた被疑者で、資力が50万円未満
- 被告人段階(起訴後):起訴された被告人で、弁護士がいない場合
国選弁護人の選任を希望する場合は、「国選弁護人をお願いします」と伝えるだけで手続きが進みます。「私選弁護人を探してから」と考えて時間を空けるよりも、まず国選弁護人の選任を申請して、弁護士がいる状態を作ることが大切です。
私選弁護人(自分で選べる・費用は自己負担)
私選弁護人(しせんべんごにん)は、ご自身やご家族が費用を負担して、自由に選んで依頼する弁護士です。
私選弁護人のメリットは以下のとおりです。
- 逮捕直後から依頼できる(勾留前でも対応可能)
- 刑事事件の経験が豊富な弁護士を自分で選べる
- 迅速かつ手厚いサポートが期待できる
費用は事件の種類によって異なりますが、着手金・成功報酬を合わせた総額で100万〜110万円程度が一般的な相場です。
よくある質問(FAQ)
逮捕されたことが自動的に会社に通知されることは、原則としてありません。ただし、数日間出勤できないことで事実上発覚するケースが多いです。また、通勤途中の事件や公務員の場合は、発覚する可能性が比較的高くなります。報道される可能性がある事件では、それを通じて会社に知られることもあります。弁護士に相談することで、職場への影響を最小限に抑えるための対応策を一緒に考えることができます。
いいえ、逮捕されただけでは前科はつきません。前科がつくのは、起訴されて有罪判決を受けた場合です。不起訴処分を獲得できれば前科はつきませんので、早期に弁護士と対策を立てることが大切です。
逮捕直後は、原則として家族との面会はできません。勾留が決定した後(逮捕から約3日後)から、一般面会が可能になります。ただし、面会は1日1回・約15分・警察官の立会いありなどの制限があります。
なお、逮捕段階でも、留置場の担当者の判断でご家族との面会が認められるケースもあります。面会が難しい場合でも、警察署に行って面会を希望する旨を伝えてみることをお勧めします。面会が叶わなくても、現金や着替えなどを差し入れることができれば、ご本人の助けになります。
弁護士であれば、逮捕直後から時間や立会いの制限なく面会(接見)できます。
逮捕されると、携帯電話は警察に預けることになります。事件の証拠として押収される場合もあり、その場合は捜査機関が「返しても差し支えない」と判断するまで返却されません。押収物の還付請求という手続きもありますが、捜査中は認められないことが多いのが実情です。返還までに数か月かかることも珍しくありません。釈放後に、預けた所持品は返却されるのが一般的です。
ご相談について
逮捕は、人生の終わりではありません。適切な対応と弁護活動によって、不起訴や早期釈放を実現できるケースは数多くあります。ご本人・ご家族が動揺するのは当然のことですが、最初の一手として「弁護士に話を聞いてもらう」ことを最優先にしてください。
レナトス法律事務所では、刑事事件に注力する弁護士がご相談を承っております。まずはお気軽にお問い合わせください。
初回相談 5,500円(税込)
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