警察から「話を聞きたい」と電話があっても、逮捕も勾留もされていない在宅の被疑者には、その呼び出しに応じる義務はありません(刑事訴訟法198条1項但書)。ただし、応じるにせよ断るにせよ、どう対応するかでその後の立場は変わります。黙って無視すれば、逃亡や証拠隠しのおそれがあると受け取られ、逮捕状が請求されることもあるからです。この記事は、電話を受けた在宅の方が、当日までに何をしておくべきかを、順を追って説明します。
第1 警察からの呼び出しの電話は、断れるのか
取調べのために警察へ出向くかどうかは、在宅の被疑者本人が決められます。捜査は本来、相手の同意を得て進めるのが原則で、強制的な処分は法律に特別の定めがある場合に限られます(刑事訴訟法197条1項)。
呼び出しに応じて受ける取調べは、この任意の捜査です。だからこそ、被疑者には出頭を拒む自由と、取調べの途中で退去する自由が認められています。
被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる。
(刑事訴訟法198条1項但書)
条文が「逮捕又は勾留されている場合を除いては」と限っている点が大事です。この出頭を拒む自由があるのは、あくまで在宅の被疑者に限られます。身柄を拘束されている被疑者の扱いは違い、この点は第3で改めて触れます。
逮捕には、裁判官があらかじめ発する逮捕状が必要です(刑事訴訟法199条1項)。これに対し、呼び出しに応じての取調べは、令状のいらない任意の捜査です。電話で呼ばれた段階は、強制ではなく、まだ本人の意思にゆだねられた入口にすぎません。
実務では、呼び出しは電話で来るのが一般的で、正式な呼出状が届くことはむしろ稀です。不在のときに、警察官が書面を置いていくこともあります。
「署に来てほしい」と言われたからといって、それだけで逮捕が決まっているわけではありません。まずは落ち着いて、誰から何の件で呼ばれているのかを確かめる場面です。もっとも、警察に対して「何の件ですか。」と尋ねても、「思い当たる節があるでしょう。」と返されることもあります。
取調べやその前提である呼び出しを断ることと、黙って無視してよいことは同じではありません。呼び出しに一切応じず連絡も取らないでいると、逃げるつもりや証拠を隠すつもりがあると受け取られ、逮捕状の請求につながることがあります。
だから、断ること自体は権利でも、黙って音信を絶つのとは意味が違います。弁護士に相談して出頭の意思を伝え、日程を調整するのか、それとも連絡を絶つのかで、その後の道は分かれます。

第2 電話を受けてから当日までに、何をしておくか
出頭に応じると決めたら、当日より先に弁護士へ相談しておくのが基本です。相談から出頭までの流れは、次のように整理できます。

はじめに、電話の内容を正確に控えます。確かめておく事柄は、次の4点です。
- 誰から呼ばれたか(担当の警察署・部署・氏名)
- いつ、どこへ来るよう言われたか
- どの事件についての呼び出しか
- 自分が被疑者と参考人のどちらとして呼ばれているのか
捜査機関から呼び出しを受けた人への対応をまとめた実務の文献も、まずこの事実の確認から始めるよう説いています。被疑者として呼ばれているのか、参考人としてなのかで、その後の意味が変わるからです。
次に、出頭より前に、弁護士へ相談します。逮捕された後よりも、この段階のほうが、とれる対応の幅が広く残っています。
出頭の前に相談しておけば、当日の同行や、捜査機関への意見書の提出につなげられます。相談では、控えた事柄に加えて、思いあたる事情や、手元にある関係書類があれば伝えます。弁護士は、事件の見通しを立てたうえで、当日どう対応するかを一緒に決めます。
正式に依頼すると、弁護人は選任届を捜査機関へ提出します。以後は、弁護人として同行や意見書の提出ができるようになります。
出頭の日程も、本人の都合を踏まえて調整できます。取調べに応じるかどうかが任意である以上、日程を一方的に決められるわけではないからです。弁護士と合わせて、同行してもらえる日を選びます。
持ち物として、任意の取調べではICレコーダーなどで自ら状況を録音しておく方法があり、防御の観点から役に立つとする文献もあります。録音してよいか迷うときも、まず弁護士に相談してから決めます。
第3 取調べの当日、何を守ればよいか
取調べの当日に守るべきことの中心は、供述調書に署名する前に、その内容を自分で読むことです。取調べで話した内容は、警察官が供述調書という書面にまとめます(刑事訴訟法198条3項)。その調書は本人に読み聞かせるか閲覧させることになっており、内容が事実と違えば、訂正や追加を申し立てられます(同条4項)。
調書は警察官がまとめるもので、自分が話したとおりの言葉になっているとは限りません。誤りがないと認めたとき、警察官は署名と押印を求めますが、これに応じる義務はなく、拒めます(同条5項但書)。訂正を申し立てれば、その内容は調書に反映されます。
署名する前が肝心です。自分の記憶と違う調書には訂正を申し立て、それでも直らなければ署名を断ります。いったん署名した調書は、後から「本当は違う」と覆すのが難しくなります。
黙って話さないことも選べます。取調べの前に、警察官は「自分の意思に反して供述しなくてよい」と告げなければなりません(同条2項)。これが供述拒否権、いわゆる黙秘権です。
黙秘の意味は、黙秘権の記事で扱います。ここでは、話すかどうかは選べる、という事実だけを押さえます。
あわせて知っておきたいのは、出頭することと、取調べで話すことは別だという点です。呼び出しに応じて署へ行っても、取調べそのものを断って退去することはできますし、途中から黙秘に切り替えることもできます。取調べ対応をめぐる実務の解説も、出頭と取調べへの応答と供述を、それぞれ別の判断として説明しています。
第1で見たとおり、在宅の被疑者は取調べの途中で退去できます(198条1項但書)。これは、身柄を拘束されている被疑者との大きな違いです。
捜査実務の解説では、身柄拘束中の被疑者には取調べに応じる義務があるとされる一方、在宅の被疑者にはこの義務はないと整理されています。もっとも、途中で退去することが後で不利にならないかは事案によるため、実際にどうするかは弁護士と相談して決めます。

第4 弁護士は、呼び出しの段階で何ができるか
弁護人は、呼び出しの段階から、逮捕を避けるための活動を始めます。呼び出しを受けた在宅の段階で相談できれば、身柄の拘束そのものを避けられる場面があります。ここで弁護人が行うことは、大きく次の3つです。
まず、出頭への同行です。弁護人は依頼者と日程を調整したうえで、取調べへの立会いを求めます。立会いは、依頼者が一人で取調べに向き合わずにすむようにするためのものです。
もっとも、在宅の取調べでは、立会いを拒絶されるケースが大半です。その場合も、弁護人は待合室などで待機し、依頼者が必要に応じて打合せできるようにします(これを「準立会い」といいます。)。こうしたときは、弁護人が取調室の近くで待機し、依頼者が数十分ごとに退出して状況を報告し、助言を求める方法もあります(弁護士が事務所で対応可能な態勢を維持し、電話で上記対応をするケースもあります。この場合、携帯電話が必要になるため、性犯罪や財産犯の場合は携帯電話を押収される危険性があるのかを弁護士に確認することになります。)。
次に、捜査機関への意見書の提出です。裁判官は、明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、逮捕状を発しません(刑事訴訟法199条2項但書)。弁護人は、この「逮捕の必要がない」ことを示すため、次の3点を意見書にまとめます。
- 逃げるおそれがないこと
- 証拠を隠すおそれがないこと
- 身体を拘束される不利益が大きいこと
こうした事情を早い段階で伝え、逮捕状が請求されたり発付されたりしないよう働きかけます。
そして、在宅のまま手続を進める交渉です。在宅の事件では、捜査機関から弁護側へ逐一連絡が入ることはほとんどありません。
弁護人は担当の刑事へ定期的に連絡を入れ、在宅の扱いを続けるよう求めます。すぐに逮捕状が請求されそうな事案では、その時期を遅らせて在宅での対応を探る交渉をすることもあります。ただし、これらの活動が身柄拘束を避ける結果を約束するものではありません。最終的にどう扱うかは、捜査機関の判断です。
第5 断ったり無視したりしたら、逮捕されるのか
呼び出しを断ったこと自体が逮捕の理由になるのは、法律上、ごく軽い罪に限られています。30万円以下の罰金や拘留などにあたる罪では、逮捕できる場合が限られています。
住居が定まっていない場合か、正当な理由なく出頭の求めに応じない場合に限られます(刑事訴訟法199条1項但書)。多くの犯罪はこの但書にあたらず、出頭を断ったことがそのまま逮捕の要件になるわけではありません。
ただし、間接的な影響はあります。逃げるおそれや証拠を隠すおそれがあることは、逮捕の必要性を基礎づける事情です。呼び出しに応じないことが、そうしたおそれのあらわれと受け取られ、逮捕状が請求されることもあります。捜査段階の弁護を扱う複数の文献が、この点をそろって指摘しています。
だからこそ、第1で述べたとおり、黙って音信を絶つのと、弁護士を通じて出頭の意思を示すのとでは、意味が違います。出頭には応じる構えでいることを伝えれば、逃げも隠しもしないという姿勢を示せます。
呼び出しに応じないと決める場合も、その判断は弁護士と一緒に行います。応じないことが逮捕状請求の口実にされないよう、伝え方や時期を含めて対応を組み立てるためです。日本弁護士連合会のマニュアルも、出頭を拒むかどうかは依頼者と十分に協議して決めるべきだとしています。
逮捕前の弁護活動をまとめた実務書には、いくつかの実例が挙げられています。詐欺や犯人隠避、窃盗といった事件で、弁護人が同行し、逮捕されずに在宅の捜査協力者として扱われた例です。いずれも弁護人が早い段階で動いた事案です。
もっとも、これらは個別の例であって、同じ対応をすれば同じ結果になるとは限りません。在宅の事件は手続が長くなりやすく、結論が出るまで時間がかかることもあります。実際に逮捕されるかどうかは、事案ごとに検察官や裁判官が判断するもので、弁護士にも断定できません。
もし逮捕に至った場合の流れは、逮捕後の流れで説明しています。逮捕の直後には、当番弁護士を呼ぶ方法もあります。
第6 よくある質問
会社や職場に、呼び出しのことが知られてしまうのか
在宅で捜査が進む段階では、勤務先へ警察から連絡が入るとは限りません。捜査機関の報道発表では、逮捕された事件は原則として実名、在宅の事件は原則として匿名で扱う傾向があるとされます。
在宅のまま進むことは、実名で報道される事態を避けることにもつながります。ただし事件の内容や捜査の必要によって例外はあり、どう扱われるかは事案によります。
「参考人として来てほしい」と言われた場合も、出頭を断れるのか
断れます。被疑者ではなく参考人、つまり被疑者以外の人として呼ばれた場合も、出頭を拒み、退去する自由の定めが準用されます(刑事訴訟法223条2項・198条1項但書)。
呼び出しに応じたら、その日のうちに帰れるのか
その日のうちに帰れるのが原則です。もっとも、任意の取調べにも限界はあります。
宿泊を伴う取調べの適法性が争われた決定があります(最決昭和59年2月29日刑集38巻3号479頁)。長時間の取調べについても、同じく最高裁の決定があります(最決平成元年7月4日刑集43巻7号581頁)。帰宅を求めても応じてもらえないときは、弁護士に連絡します。
第7 本記事の前提と更新
本記事は2026年7月時点の法令・運用に基づきます。判例・法改正に応じて随時更新します。
警察からの呼び出しについてのご相談は、当事務所でも受けています。相談の方法と費用は、費用のご案内をご覧ください。
参考文献
- 森直也「Q9 依頼者から『捜査機関から呼び出しを受けた』と相談された場合に留意すべきことは何か」(『否認事件の弁護(上)』所収、現代人文社)83〜89頁
- 高橋康輔『情状弁護アドバンス』第1章 任意捜査(現代人文社)42〜47頁
- 日本弁護士連合会『取調べ対応弁護実践マニュアル 第5版』捜査段階
- 田中康郎監修『令状実務詳解 補訂版』取調べ設問23
- 鐘ヶ江啓司「警察の報道発表回避(実名報道回避)のための弁護活動」
- 最決昭和59年2月29日刑集38巻3号479頁
- 最決平成元年7月4日刑集43巻7号581頁
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