交通事故の慰謝料は、同じけがでも「どの基準で計算するか」で金額が変わります。基準は3つあり、法律に基づく自賠責基準がいちばん低く、裁判基準(弁護士基準)がいちばん高くなるのが通常です。たとえば後遺障害14級では、自賠責基準の32万円に対し、裁判基準は110万円です(赤い本2022年版)。この記事では、3つの基準の違いと裁判基準での計算方法を説明し、記事内のツールでご自身の治療期間と等級から金額を試算できます。
第1 交通事故の慰謝料には3つの基準がある
交通事故の慰謝料は、自賠責基準・任意保険基準・裁判基準のどの基準で計算するかによって、同じけがでも金額が変わります。3つのうち、裁判基準がいちばん高くなるのが通常です。
慰謝料は、事故で受けた精神的な苦痛に対する賠償です。民法は、他人の権利を侵害した者はその損害を賠償する責任を負うと定めています(709条)。その賠償は、財産以外の損害、つまり精神的損害にも及びます(710条)。
治療費や休業損害といった財産的な損害とは別に、慰謝料は金銭で評価される損害です。慰謝料は、加害者への制裁ではなく、被害者に生じた損害を金銭で埋め合わせるためのものです(最判平成9年7月11日)。
この精神的損害をいくらと見るかについて、交通事故の実務では3つの基準が併存しています。傷害(入通院)慰謝料・後遺症慰謝料・死亡慰謝料のそれぞれに、裁判基準(赤い本・青本)、自賠責基準、任意保険会社の基準があります。
3つの基準は、性質が違います。
- 自賠責基準は、自動車損害賠償保障法にもとづく基準です。保険会社は、国が定める支払基準に従って保険金を支払わなければなりません(自賠法16条の3)。被害者への最低限の補償を目的とするため、3つのうちいちばん低い水準になるのが通常です。
- 任意保険基準は、各保険会社が独自に定める社内基準です。金額は公表されていません。
- 裁判基準は、裁判所が損害賠償額を算定するときに用いる基準で、弁護士基準とも呼ばれます。通称「赤い本」「青本」と呼ばれる基準額がこれにあたり、昭和46年に裁判官が公表した算定基準を原型として発展してきました。
けがの慰謝料は、2つの部分から成ります。1つは、治療のために入院・通院した期間に対する入通院慰謝料(傷害慰謝料)です。もう1つは、治療を続けても症状が残り、後遺障害の等級が認定されたときに加わる後遺障害慰謝料です。どちらも、どの基準で計算するかで金額が変わります。
治療期間と後遺障害の等級を入力すると、裁判基準と自賠責基準で慰謝料がいくら違うかを、その場で試算できます。
交通事故 慰謝料の目安計算
入院・通院の期間や後遺障害の等級を入力すると、裁判基準(弁護士基準)と自賠責基準、それぞれの目安を計算します。
入院日数を含めた、実際に治療を受けた日数の合計です。自賠責基準の目安の計算にのみ使います。空欄のままでも計算できます。
裁判基準(弁護士基準)の目安
自賠責基準の目安
弁護士が交渉した場合の目安
裁判基準を100%とした場合の80〜100%の範囲を機械的に示したものです。この80%という数字は、当事務所の弁護士の過去の交渉経験にもとづく目安であり、すべての事案に当てはまるものではありません。実際の交渉の結果を保証するものではありません。
入通院慰謝料は24か月分を上限として計算しています。長期の治療が必要な事案は、個別の算定が必要です。
実治療日数を入力すると、自賠責基準の傷害分がこれより低く算定される場合があります。
この計算ツールについて
- 裁判基準は、赤い本(民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準)2022年版の入通院慰謝料表・後遺障害等級表にもとづく目安です。
- 自賠責基準の金額は、自動車損害賠償責任保険の支払基準(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)にもとづきます。
- 過失相殺・素因減額・慰謝料の増額事由は反映していません。
- 自賠責基準の傷害分(上限120万円)は、慰謝料だけでなく治療費や交通費なども含めた枠の目安です。
- 実際の金額は個別の事案の内容により増減します。ここに表示される金額を保証するものではありません。
- 入力していただいた内容は、サーバーに送信されず、お使いの端末(ブラウザ)内でのみ計算されます。
第2 裁判基準ではどう計算するのか
裁判基準の慰謝料は、治療期間で決まる入通院慰謝料と、等級で決まる後遺障害慰謝料の2つを合算して求めます。それぞれ計算の仕方が違います。
1 入通院慰謝料は治療期間で決まる
入通院慰謝料は、入院した期間と通院した期間の長さで決まります。赤い本2022年版には、入院期間を横軸、通院期間を縦軸に並べた表があり、その交点の金額を読み取ります。
通院だけで終わった場合は通院期間の数字を、入院だけの場合は入院期間の数字を、そのまま使います。入院と通院が続いた場合は、表の数字を組み合わせて計算します。たとえば事故直後に1か月入院し、その後6か月通院した合計7か月では、赤い本2022年版の別表Ⅰで149万円です。
ただし、むち打ち症で医師の他覚的所見(レントゲンやMRIなどで客観的に確認できる異常)がない場合は、金額の低い別表Ⅱを使います。別表Ⅱは、別表Ⅰの7割から8割ほどの水準です。
どちらの表を使うかは、被害者が訴える症状の重さではなく、他覚的所見の有無で分かれます。同じむち打ちでも、頚椎の骨折など客観的に確認できるものは別表Ⅰを使います。
通院が長期にわたるのに、実際に通院した日数が少ない場合は、通院期間が調整されることがあります。実務上の目安として、別表Ⅰでは実通院日数の3.5倍ほど、別表Ⅱでは3倍ほどを通院期間として計算に用いることがあります。これは裁判基準の中での調整の目安であり、厳密な計算式ではありません。
2 後遺障害慰謝料は等級で決まる
後遺障害慰謝料は、認定された後遺障害の等級ごとに金額が決まっています。等級は1級から14級まであり、症状が重いほど金額が高くなります。赤い本2022年版では、いちばん軽い14級で110万円、重い1級では2,800万円です。
後遺障害の等級は、自賠責保険の手続で認定されます。この等級は法的な拘束力を持つものではありませんが、その後の損害賠償にきわめて強い影響を持ち、裁判で覆すことは容易ではありません。等級が決まれば、特別な事情がない限り、裁判ではその基準額どおりの慰謝料が認定される傾向にあります。
たとえば、他覚的所見のあるけがで6か月通院し、14級の後遺障害が残ったとします。この場合、入通院慰謝料116万円(別表Ⅰ)と後遺障害慰謝料110万円を合わせた226万円が、裁判基準での目安になります。
第3 保険会社の提示はなぜ計算より低いのか
保険会社が最初に示す金額は、多くの場合、裁判基準より低い自賠責基準や任意保険基準を土台にしています。第1で述べたとおり、同じけがでも、どの基準を使うかで金額が変わるからです。
自賠責基準の傷害慰謝料は、1日あたり4,300円です(支払基準第2の3)。対象となる日数について、支払基準は「実治療日数その他を勘案して、治療期間の範囲内とする」とだけ定めています。
実務では、実際に通院した日数の2倍と、総治療期間のうち、少ない方を対象日数とする扱いが広く使われています。ただし、この2倍という数字は実務上の目安であり、告示が倍率を定めているわけではありません。
たとえば6か月通院し、実際に通院した日が60日だったとします。この場合、その2倍の120日を対象とし、4,300円かける120日で51万6,000円ほどになります。
さらに、自賠責の傷害分には120万円の上限があります。ここで注意したいのは、この120万円が慰謝料だけの上限ではないことです。治療費や休業損害も含めた、傷害による損害全体の上限が120万円です(自賠法施行令2条1項)。治療が長引くと、慰謝料まで十分に回らないこともあります。
後遺障害の慰謝料も、自賠責基準は裁判基準より低く定められています。たとえば14級では、自賠責基準の32万円に対し、裁判基準は110万円です。等級が重くなるほど、この差は大きくなります。
任意保険基準は、各保険会社が独自に定める社内基準で、金額は公表されていません。そのため、提示された金額がどの基準にもとづくのか、裁判基準とどれだけ差があるのかは、計算して比べてみないと分かりません。保険会社が示す金額は交渉の出発点であることが多く、そのまま受け入れなければならないものではありません。
なお、実際に受け取れる金額は、ここで計算した慰謝料そのものとは限りません。事故当事者双方の過失割合などによって、ここから増減します。
第4 弁護士が入ると何が変わるのか
弁護士が交渉に入ると、金額を決める基準が任意保険基準から裁判基準に切り替わります。私が被害者の代理人として保険会社と交渉するとき、土台にするのは裁判基準です。弁護士は、赤い本の基準額をもとに損害額を積算し、保険会社に対して裁判基準での支払いを求めます。
第1で述べたとおり、裁判基準は3つの基準のなかで高い水準です。もっとも、この基準は、法律のように裁判官を拘束するものではありません。基準から大きく外れた金額を認めるには、相応の理由の説明が必要です。
最高裁も、著しく低い慰謝料を理由の説明なく認定した原審判決を破棄しています(最判平成10年12月18日)。同種事案の実務上の取扱いに比べて低きに失し、経験則または条理に反する、というのがその理由です。裁判基準は、法的な拘束力こそ持たないものの、交渉や裁判で事実上の強い支えになります。
弁護士が入ると基準が変わるのは、裁判という選択肢が現実味を持つからです。保険会社は、示談がまとまらなければ裁判になり、裁判では裁判基準で慰謝料が算定されることを分かっています。弁護士が代理人につくと、裁判を見据えた交渉になり、裁判基準を土台にした解決に近づきます。
交渉がまとまらないときは、裁判所に訴訟を起こして判断を求めることもあります。訴訟になれば、裁判所が赤い本などの基準を参考に慰謝料を算定します。多くの事案は訴訟の前の示談交渉で解決しますが、その交渉も裁判基準を見据えて進みます。
金額がどのくらい変わるかは、事案によります。私がこれまで関わった交渉では、裁判基準の8割を上回る水準で解決した例が多いです。ただし、これは私自身の経験にもとづく見立てで、すべての事案に当てはまるものではありません。
増額が見込めるかどうかや、その幅は、提示額が裁判基準からどれだけ離れているかによって変わります。示談で終わるか裁判まで進むか、過失割合や後遺障害の内容によっても、結果は変わります。
第5 慰謝料はいつ決まるのか
慰謝料の総額は、治療が終わって症状固定に至るまで確定しません。症状固定とは、治療を続けてもこれ以上回復が見込めない状態になったことをいい、この時点で後遺障害が残っているかどうかが判断されます。症状固定の時期は、けがの内容や治療の経過によって異なり、主治医の判断で決まります。
法律上は、後遺障害は「傷害が治ったとき身体に存する障害」と定義され(自賠法施行令2条1項2号)、この「傷害が治ったとき」が症状固定にあたります。後遺障害が残った場合は、症状固定の後にその等級の認定を受け、等級が決まってはじめて後遺障害慰謝料の金額が定まります。
入通院慰謝料は入院・通院した期間で決まり、後遺障害慰謝料は残った症状の等級で決まります。どちらの金額も、治療が終わってはじめて計算できるためです。
治療中の今、最終的な金額を正確に見通すことはできません。後遺障害の等級がどう認定されるか、交渉や裁判で最終的にいくらと評価されるかは、治療の経過と、その記録によって変わるからです。通院の実績は入通院慰謝料の裏づけになるため、通院の記録が残っていることが、後の交渉で意味を持ちます。
第6 よくある質問
弁護士に頼むと費用倒れになりませんか
多くの任意保険には、弁護士費用特約を付けることができます。特約があれば、弁護士費用を保険でまかなえるため、自己負担なく相談や依頼ができる場合が多いです。特約がない場合は、見込まれる増額と費用を照らして、依頼するかどうかを判断することになります。費用倒れになるかどうかは、事案によって異なります。
被害者本人のほかに、家族にも慰謝料は認められますか
けがの慰謝料は、原則として被害者本人のものです。生命を侵害された場合には、被害者の父母・配偶者・子に、その人自身の慰謝料が認められます(民法711条)。死亡事故の慰謝料は、金額や範囲を含めて本記事では扱いません。
むち打ちで後遺障害が認められなかった場合、慰謝料は入通院分だけですか
後遺障害の等級が認定されなかった場合、後遺障害慰謝料は加わりません。ただし、入通院慰謝料は治療期間に応じて計算されます。むち打ちで他覚的所見がなく別表Ⅱを使う場合でも、通院した期間に応じた金額が算定されます。等級認定の結果に納得できないときの対応は、事案ごとに検討します。
第7 本記事の前提と更新
本記事は2026年7月時点の法令・運用に基づきます。判例・法改正に応じて随時更新します。
交通事故の慰謝料についてのご相談は、当事務所でも受けています。相談の方法と費用は、費用のご案内をご覧ください。
参考文献
- 高野真人編著『註解 交通損害賠償算定基準』ぎょうせい
- 小野裕樹『被害者側弁護士のための交通賠償法実務』
- 「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号。令和2年4月1日施行の現行版)
- 国土交通省「自賠責保険・共済の限度額と補償内容」