公訴時効とは?主要罪名の時効一覧と性犯罪の延長を解説

「自分が犯した罪の時効はいつ成立するのか」「何年も前の被害だけど、今からでも被害届を出せるのか」――このような疑問をお持ちの方は少なくありません。

この記事では、刑事事件に注力する弁護士が、公訴時効の期間を主要罪名の一覧表付きで解説します。2023年改正による性犯罪の時効延長や、殺人罪の時効廃止、起算点・停止事由まで網羅しています。

目次

公訴時効とは?制度の意味と効果

公訴時効とは、犯罪行為が終了してから一定期間が経過すると、検察官がその事件を起訴できなくなる制度です(刑事訴訟法250条以下)。

似た名前の制度に「刑の時効」(刑法31条)がありますが、こちらは有罪判決が確定した後に刑の執行権が消滅するものです。公訴時効とは別の制度ですので、混同しないようにしましょう。

公訴時効が設けられている理由は、主に次の2つです。

  • 証拠の散逸: 時間の経過により証拠が失われ、真実の発見が難しくなる
  • 社会の処罰感情の減少: 時間の経過により、犯罪に対する社会の非難感情が薄れる

公訴時効が完成すると、裁判所は免訴判決(刑事訴訟法337条4号)を言い渡します。「時効が成立した=無罪」ではなく、「もはや起訴できない」という意味である点に注意してください。

なお、公訴時効の完成により刑事事件としての起訴はできなくなりますが、民事上の損害賠償請求権が別途残っている場合もあります。詳しくは不起訴処分とはの記事もご参照ください。

【一覧表】犯罪ごとの公訴時効期間

公訴時効の期間は、犯罪の法定刑に応じて定められています。以下の3つの区分に分けて整理します。

表1: 人を死亡させた罪の時効(刑事訴訟法250条1項)

法定刑 時効期間 主な犯罪例
死刑に当たる罪 時効なし(廃止) 殺人、強盗殺人
無期拘禁刑に当たる罪 30年 不同意わいせつ等致死、強盗致死(未遂)
長期20年の拘禁刑に当たる罪 20年 傷害致死、危険運転致死
その他の拘禁刑に当たる罪 10年 業務上過失致死、過失運転致死

注意: 殺人未遂は、被害者が死亡していないため「人を死亡させた罪」に該当しません。殺人未遂の時効は、下の「一般の罪」の表が適用されます。

逮捕後の流れについて詳しくはこちらをご覧ください。

表2: 一般の罪の時効(刑事訴訟法250条2項)

法定刑 時効期間 主な犯罪例
死刑に当たる罪 25年 現住建造物等放火
無期拘禁刑に当たる罪 15年 強盗致傷
長期15年以上の拘禁刑に当たる罪 10年 傷害
長期15年未満の拘禁刑に当たる罪 7年 窃盗、業務上横領、詐欺未遂
長期10年未満の拘禁刑に当たる罪 5年 住居侵入、脅迫
長期5年未満の拘禁刑又は罰金に当たる罪 3年 暴行、器物損壊
拘留・科料に当たる罪 1年 侮辱

執行猶予とは過失運転致傷・救護義務違反の記事も参考にしてください。

表3: 性犯罪の時効(刑事訴訟法250条3項)

2023年改正により、性犯罪の公訴時効は一律5年延長されました。

罪名 改正後の時効期間 改正前
不同意わいせつ等致傷、強盗・不同意性交等 20年 15年
不同意性交等、監護者性交等(各未遂含む) 15年 10年
不同意わいせつ、監護者わいせつ(各未遂含む)、児童福祉法60条1項 12年 7年

殺人罪の時効はなぜ廃止されたのか

2010年(平成22年)の法改正により、殺人罪など人を死亡させた罪で死刑に当たるものは、公訴時効の対象から除外されました。つまり、何年が経過しても起訴することが可能です。

この改正の背景には、「殺人犯が時間の経過だけで処罰されなくなるのは不当だ」という国民の意識の広がりがあります。

改正のポイントは次のとおりです。

  • 対象: 殺人罪のほか、強盗殺人罪なども含まれる
  • 遡及適用: 改正法施行日(2010年4月27日)時点で時効が完成していなかった事件にも適用される
  • 合憲判断: 最高裁平成27年12月3日判決は、この遡及適用が憲法39条(遡及処罰の禁止)に違反しないと判断しました。公訴時効は訴訟法規であり、行為時の違法性評価を遡って変更するものではないとの理由です

性犯罪の時効延長 — 2023年改正のポイント

なぜ延長されたのか

性犯罪は、被害者が羞恥心や自責感から被害を申告しづらいという特性があります。その結果、被害が潜在化しやすく、訴追が事実上可能になる前に公訴時効が完成してしまうという不当な事態が生じていました。

こうした問題を解消するため、令和5年法律第66号により、性犯罪の公訴時効期間が延長されました。なお、同法の本体(不同意性交等罪の新設等)の施行日は2023年7月13日ですが、公訴時効の延長については公布日の2023年6月23日から先行施行されています。

具体的にどう変わったか

各罪名ごとに5年間延長されています。

  • 不同意わいせつ: 7年 → 12年
  • 不同意性交等: 10年 → 15年
  • 不同意わいせつ等致傷等: 15年 → 20年

性犯罪の公訴時効 早見表(2026年4月現在)

「自分のケースは時効が完成しているのか」を確認するための早見表です。

罪名 時効期間 この日以降の犯行なら時効未完成
不同意わいせつ等致傷・強盗不同意性交等 20年 2008年6月24日以降
不同意性交等・監護者性交等 15年 2013年6月24日以降
不同意わいせつ・監護者わいせつ 12年 2016年6月24日以降

※上記の境界日は、旧法の時効期間が2023年6月23日(改正施行日)時点で未完成となる犯行日を逆算したものです。この日以降の犯行には改正後の時効期間が適用されます。

被害時に18歳未満だった場合、犯行終了時から被害者が18歳に達する日までの期間がさらに加算されます(刑事訴訟法250条4項)。加算期間は被害者の年齢により異なりますので、個別のケースは弁護士にご相談ください。

境界付近の日付は1日の差で結論が変わります。必ず弁護士にご確認ください。

撮影罪の詳細撮影行為に関する犯罪の全体像も併せてご確認ください。

改正前の犯罪にも適用される(附則の重要ポイント)

この点は非常に重要です。 改正法附則5条2項により、改正法施行前に犯した罪でも、施行日(2023年6月23日)時点で時効が完成していなければ、改正後の新しい時効期間が適用されます。

具体例で考えてみましょう。

: 2016年6月25日に不同意わいせつ行為が行われたケース

  • 旧法の時効期間は7年 → 時効完成日は2023年6月24日
  • 改正法施行日は2023年6月23日 → この時点で時効はまだ完成していない
  • したがって、新法の時効期間12年が適用される
  • 時効完成日は2028年6月24日に延長

一方、2016年5月25日に同じ行為が行われた場合は、旧法の時効完成日が2023年5月24日となり、改正法施行日よりも前に時効が完成しています。この場合は新法の適用はありません。

なお、平成16年改正(平成17年1月1日施行)で法定刑が引き上げられた際の附則は異なります。この改正では、施行前の犯罪には改正前の時効期間が適用されると定められていました(附則3条2項)。2つの改正で附則のルールが異なる点には注意が必要です。

被害者の方へ: 「もう時効だ」と諦めていた方も、改正により実は間に合う可能性があります。まずは警察や弁護士にご相談ください。

18歳未満の被害者はさらに延長される

刑事訴訟法250条4項により、被害者が犯罪行為終了時に18歳未満だった場合、通常の時効期間にさらに期間が加算されます。

加算されるのは、「犯罪行為が終了した時から被害者が18歳に達する日までの期間」です。

計算例: 12歳で不同意わいせつの被害を受けたケース

  1. 不同意わいせつ罪の時効期間: 12年
  2. 犯行終了時から被害者が18歳に達する日までの期間: 約6年
  3. 合計: 12年 + 約6年 = 約18年

若年の被害者は、心身の未成熟や知識・経験の不足から、被害を申告することがより困難です。この規定は、そうした実態を踏まえた立法措置です。

公訴時効はいつから始まる?起算点の基本ルール

「犯罪行為が終了したとき」が起算点

公訴時効は、犯罪行為が終了したときから進行を開始します(刑事訴訟法253条1項)。

犯罪の類型によって、起算点は次のように異なります。

  • 結果犯(殺人等): 結果が発生した時(例: 被害者が死亡した時)から起算
  • 継続犯(監禁等): 犯罪行為の最終行為が終了した時から起算
  • 共犯がある場合: 最後の行為が終了した時から、全ての共犯について起算(同条2項)

初日算入ルール

公訴時効の期間計算では、犯罪行為が終了した日を1日目として算入します(刑事訴訟法55条1項ただし書)。これは通常の「初日不算入」原則の例外であり、被疑者・被告人の利益のために設けられた規定です。

また、時効期間の末日が休日に当たる場合でも、そのまま期間に算入されます(同条3項ただし書)。

公訴時効が停止する3つのケース

一定の事由がある場合、公訴時効の進行は停止します。停止している間は時効期間が進みません。

1. 公訴の提起(起訴)

検察官が公訴を提起(起訴)すると、その時点で公訴時効の進行が停止します(刑事訴訟法254条1項)。

管轄違いや公訴棄却の裁判が確定した場合は、残りの時効期間が再び進行を始めます。また、共犯の一人に対する起訴は、他の共犯に対しても時効停止の効力があります(同条2項)。

2. 犯人が国外にいる場合

犯人が国外にいる期間中は、公訴時効の進行が停止します(刑事訴訟法255条1項)。

注目すべきは、一時的な海外渡航であっても時効が停止するという点です(最高裁平成21年10月20日決定)。捜査機関が犯人を知っているかどうかも問いません。帰国後に残りの時効期間が進行を再開します。

3. 犯人が逃げ隠れている場合

犯人が逃げ隠れているために有効に起訴状謄本の送達ができなかった場合も、時効の進行が停止します(刑事訴訟法255条1項)。

「国外にいる場合」とは異なり、この場合は起訴状謄本の送達が不能であることが要件とされています。たとえば、家族にも所在を知らせずに知人宅に隠れ住んでいるようなケースが該当します。

よくある質問(FAQ)

Q1: 公訴時効と民事の時効は何が違いますか?

公訴時効は、検察官が刑事事件として起訴できる期間の制限です。これに対し、民事の消滅時効は、被害者が加害者に損害賠償を請求できる期間の制限です。刑事の公訴時効が完成しても、民事の損害賠償請求権が残っている場合があります。

Q2: 性犯罪の被害に遭いましたが、何年も前のことです。今からでも被害届を出せますか?

2023年の法改正により性犯罪の公訴時効は大幅に延長されました。改正前の犯罪でも、改正時に時効が完成していなければ新しい時効期間が適用されます。 諦めずに、まずは警察や弁護士にご相談ください。

Q3: 殺人罪に時効はありますか?

2010年の法改正により、殺人罪など人を死亡させた罪で死刑に当たるものは公訴時効が廃止されました。改正施行時(2010年4月27日)に時効が完成していなければ、いつ犯罪が行われたとしても起訴することができます。

Q4: 海外に逃亡すれば時効は進みますか?

いいえ。犯人が国外にいる期間は公訴時効の進行が停止します。一時的な海外渡航であっても同様です(最高裁平成21年決定)。帰国後に残りの時効期間が進行を始めます。

Q5: 「拘禁刑」とは何ですか?以前の懲役や禁錮とは違うのですか?

2022年の刑法改正(2025年6月1日施行)により、従来の「懲役」と「禁錮」が「拘禁刑」に一本化されました。刑の内容としては大きな変更はなく、名称が変わったものとお考えください。本記事では改正後の「拘禁刑」の表記を使用しています。

まとめ

この記事のポイントを整理します。

  • 公訴時効の期間は、犯罪の法定刑に応じて1年から30年(殺人罪等は廃止)
  • 2023年改正で性犯罪の時効は5年延長、18歳未満の被害者はさらに延長
  • 改正前の犯罪でも、施行時に時効が完成していなければ新しい時効期間が適用される
  • 起算点は犯罪行為が終了した時(初日を算入)
  • 犯人の国外逃亡・逃げ隠れの期間中は時効が停止する

被疑者の方へ

ご自身の事件について時効の成否が気になる方は、お気軽にご相談ください。公訴時効の判断は、適用される法律の改正時期や犯罪の類型によって複雑になるケースがあります。

被害者の方へ

過去の被害について「もう時効だ」と諦めている方も、法改正により間に合う可能性があります。おひとりで悩まずに、まずはお話をお聞かせください。

レナトス法律事務所は、刑事事件に注力する弁護士が在籍しています。時効に関するご相談も承っておりますので、示談で不起訴を目指す方法と併せてご検討ください。

免責事項: この記事は2026年4月11日時点の法令に基づき、一般的な法律知識の提供を目的としたものです。個別の事案についての法的アドバイスではありません。具体的なお悩みについては、弁護士にご相談ください。

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