交通事故を起こしてしまい、警察から呼び出しを受けた――そんな状況で、大きな不安を抱えている方もいらっしゃるかもしれません。
「どんな罪に問われるのか」「罰金や前科はつくのか」と、先の見えない不安を感じるのは当然のことです。
交通事故事件の多くは、逮捕されずに在宅のまま捜査が進みます。ただし、事故の現場を離れてしまった場合は「救護義務違反」「報告義務違反」が加わり、処分が大幅に重くなります。
この記事では、交通事故で問われる罪について、以下のポイントをわかりやすく解説します。
- 過失運転致傷・救護義務違反・報告義務違反の罰則
- 交通事故後の捜査の流れ
- 処分の見通し(「結果の重大性」と「行為の悪質性」の2軸)
- 弁護活動のポイント
お急ぎの方へ
交通事故を起こして警察から呼び出しを受けた方、ひき逃げをしてしまった方は、早めに弁護士へご相談ください。レナトス法律事務所では、交通事故の刑事事件について初回のご相談から対応しております。お気軽にお問い合わせください。
交通事故で問われる罪とは
交通事故を起こした場合、問われる可能性がある罪は主に3つあります。事故そのものに対する罪と、事故後の対応に対する罪です。
過失運転致傷罪(自動車運転処罰法5条)
過失運転致傷罪は、自動車の運転上必要な注意を怠り、人にけがをさせた場合に成立する罪です。交通事故で人を負傷させたケースの大半は、この罪に該当します。
法定刑は7年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金です。なお、被害者のけがが軽いときは、情状により刑が免除されることもあります。
※「拘禁刑」とは、2025年6月の刑法改正で「懲役刑」と「禁錮刑」が一本化された刑罰の名称です。
救護義務違反(道路交通法72条1項前段・117条)
交通事故が起きたとき、運転者には直ちに車を停止し、負傷者を救護する義務があります。この義務に違反した場合が、いわゆる「ひき逃げ」です。
法定刑は以下のとおりです。
- 運転に起因する死傷の場合: 10年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金(道交法117条2項)
- 運転に起因しない死傷の場合: 5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金(道交法117条1項)
救護義務違反は、後述するように処分を大幅に重くする要因となります。
報告義務違反(道路交通法72条1項後段・119条)
交通事故を起こした運転者には、最寄りの警察に事故の日時・場所・死傷者の数などを報告する義務もあります。この義務に違反した場合が「報告義務違反」です。
法定刑は3月以下の拘禁刑又は5万円以下の罰金です。人身事故でなくても(いわゆる「当て逃げ」でも)報告義務違反は成立します。
法定刑の一覧
| 罪名 | 根拠条文 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 過失運転致傷 | 自動車運転処罰法5条 | 7年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金 |
| 救護義務違反(運転起因) | 道交法117条2項 | 10年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金 |
| 救護義務違反(運転起因外) | 道交法117条1項 | 5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 |
| 報告義務違反 | 道交法119条1項17号 | 3月以下の拘禁刑又は5万円以下の罰金 |
なお、救護義務違反の「運転起因」と「運転起因外」の違いが気になる方もいらっしゃるかもしれません。117条1項(運転起因外)は、自分の「運転」によって生じた事故でなくても適用されます。たとえば、坂道で駐車中の車が自然に動き出して事故を起こしたような場合でも、その場にいた運転者には救護義務が生じます(執務資料道路交通法解説20訂版783頁参照)。一方、自分の運転行為が原因で人を死傷させた場合は、より重い117条2項が適用されます。
過失運転致傷と救護義務違反(運転起因)が併合罪となった場合、刑の上限は15年にまで引き上がります。事故を起こしただけなのか、現場を離れてしまったのかで、処分の重さは大きく変わります。
交通事故後の捜査の流れ
多くは在宅事件として捜査が進む
交通事故事件の多くは、逮捕されずに在宅のまま捜査が進みます。警察からの出頭要請(呼び出し)を受け、警察署で事情聴取を受けるという形が一般的です。
在宅事件のおおまかな流れは、以下のとおりです。
- 事故発生 → 実況見分の実施
- 警察からの出頭要請(呼び出し) → 供述調書の作成
- 検察庁への書類送致
- 検察官からの呼び出し → 終局処分(起訴・不起訴)の決定
被害者の治療が終了し、診断書が確定するのを待ってから処分が決まることも少なくありません。
逮捕されるケースもある
明らかなひき逃げの場合、死亡事案、重い後遺障害が残った事案などでは、逮捕されることがあります。ただし、逮捕されても勾留(身柄の拘束が続くこと)までは至らず、釈放されるケースも多くあります。
逮捕後の流れについて詳しく知りたい方は「逮捕されたらどうなる?逮捕後の流れと対処法を弁護士が解説」をご覧ください。勾留について詳しくは「勾留とは?期間・延長の理由・釈放される方法を弁護士が解説」で解説しています。
処分の見通し
処分を左右する2つの軸
交通事故の刑事処分は、主に「結果の重大性」と「行為の悪質性」の2つの軸で方向性が決まります。加えて、被害者の処罰感情も考慮されます。
結果の重大性(被害者のけがの程度)
被害者のけがの程度は、以下のように区分して評価されます。
| 区分 | けがの程度の目安 |
|---|---|
| 軽微 | 加療2週間未満(打撲・擦り傷など) |
| 比較的軽傷 | 加療3週間程度 |
| 重傷 | 加療1〜3か月 |
| 重篤な障害 | 加療6か月〜1年以上、後遺障害あり |
| 死亡 | 死亡、重度の後遺障害(寝たきり等) |
被害者の人数や属性(高齢者・幼児など)も考慮要素になります。
行為の悪質性(過失の態様)
事故の原因となった運転行為がどの程度悪質かも、処分に大きく影響します。以下は悪質性の程度と具体例です。
| 悪質性の程度 | 具体例 |
|---|---|
| 特に重い | 飲酒運転(酒酔い)・無免許運転・ひき逃げ(救護義務違反)・薬物の影響・赤信号の無視 |
| 重い | 酒気帯び運転・居眠り運転・著しい速度超過(30km超)・横断歩道上の歩行者との事故・反対車線への進入 |
| 中程度 | わき見運転・センターラインのはみ出し・一時停止違反・速度超過(20km超)・報告義務違反(当て逃げ) |
| 比較的軽い | 前方不注視・動静不注視(他の車や歩行者の動きを見落とすこと)・ハンドル操作の誤り |
被害者側にも過失がある場合(信号無視・飛び出し・横断禁止場所の横断など)は、処分が軽くなる方向に働きます。
「結果」×「悪質性」で見る処分の目安(初犯の場合)
上記2つの軸を組み合わせると、処分のおおまかな方向性が見えてきます。以下は初犯を前提とした目安です。
| 結果\悪質性 | 比較的軽い | 中程度 | 重い | 特に重い |
|---|---|---|---|---|
| 軽傷(3週間) | 起訴猶予 | 起訴猶予〜罰金 | 罰金20〜30万円 | 罰金40万円〜 |
| 中程度の傷害(1か月) | 罰金30〜40万円 | 罰金50〜60万円 | 罰金70万円〜/公判請求 | 公判請求 |
| 重傷(3か月) | 罰金50〜60万円 | 罰金70〜100万円 | 公判請求 | 公判請求 |
| 重篤・死亡 | 公判請求 | 公判請求 | 公判請求 | 公判請求(実刑圏) |
※「起訴猶予」とは、検察官が起訴しない(不起訴にする)処分のことです。前科はつきません。「公判請求」とは、正式な裁判にかけられることです。初犯で示談が成立していれば執行猶予がつくことが多いとされています。
この表についての重要な注意点
① あくまで目安です。 この表は弁護実務の経験に基づく概括的な見通しです。検察庁には非公開の処分基準があると言われていますが、弁護人の想定と差がある可能性もあります。
② 検察官は個別に判断します。 検察官は内部基準に機械的に当てはめるわけではなく、個々の事案の具体的な事情を踏まえて終局処分を判断します。表と異なる結果になることは十分にあり得ます。
③ どんな事案でも宥恕の取得が重要です。 被害者の処罰感情もおそらく考慮要素に含まれています。上の表のどの位置にある事案であっても、弁護人を通じて被害者から宥恕(ゆうじょ)――「処罰を求めない」旨の意思表示――を得ておくことが、処分を有利にする最も確実な方法です。
ひき逃げ(救護義務違反)が加わる場合
救護義務違反は、行為の悪質性が「特に重い」に分類されます。上の表で言えば右端の列に位置するため、被害者のけがが軽傷であっても罰金〜公判請求圏に到達します。
初犯であっても公判請求(正式裁判)の可能性が高くなります。もっとも、示談の成立、自首、真摯な反省などの事情があれば、執行猶予がつく余地はあります。
悪質性の評価においては、逃走した距離や時間、被害の程度、発覚の経緯なども考慮されます。
行政処分(免許取消・停止)
刑事処分とは別に、行政処分も科されます。
- 救護義務違反: 基礎点数35点 → 免許取消(欠格期間3年〜)
- 過失運転致傷: 被害者の治療期間に応じた付加点数が加算
たとえば、安全運転義務違反(2点)で被害者に加療2か月の傷害を負わせ(9点)、さらに救護措置をとらなかった場合(35点)は、合計46点となり、免許取消・欠格期間4年に相当します。
交通事故事件では、警察から①刑事事件は検察庁へ、②行政事件は公安委員会へ、それぞれ別に送致されます。刑事手続で不起訴になった場合でも、行政処分は別途進行する点にご注意ください。
弁護活動のポイント
被害者との示談交渉
交通事故の刑事事件において、処分を軽くする最も大きな要素は被害者との示談です。
注意していただきたいのは、任意保険で賠償金を支払うことと、刑事上の示談は別の手続きだという点です。保険会社を通じた示談書は作成されますが、その内容は金銭的な清算に関するものであり、宥恕文言(「処罰を求めない」旨の意思表示)は含まれていないのが通常です。刑事処分を有利にするためには、保険とは別に、弁護人を通じて被害者から宥恕を得ておく必要があります。
弁護士が間に入ることで、被害者との交渉がスムーズに進み、示談が成立しやすくなります。
示談について詳しくは「示談とは?示談金の相場と交渉の進め方を弁護士が解説」をご覧ください。
事故態様・故意の争い
救護義務違反が成立するためには、「事故が起きたことの認識」と「被害者が怪我をしたことの認識」が必要です。単に接触した認識があるだけでは、直ちに救護義務違反が成立するわけではありません。
接触した認識そのものがない場合には、救護義務違反が成立しない可能性もあります。ドライブレコーダーなどの客観的な証拠が重要になる場面です。
弁護士は、証拠を精査した上で、事故態様や故意の有無について適切な主張を行います。
自首・出頭のサポート
ひき逃げをしてしまった後に自ら出頭した場合、自首として刑の任意的減軽が認められる可能性があります(刑法42条)。早期の出頭は情状面でも有利に働きます。
ただし、捜査機関の運用として、現場に車両の部品が残されていたり、防犯カメラの映像から車両が特定されるなど、「早晩犯人が判明する」と見込まれる事案では、自首調書が作成されないこともあります。そのため、出頭の目的は自首の成立のみに限られるわけではなく、逮捕の回避(逃亡や罪証隠滅のおそれがないことを示す)にも大きな意味があります。
出頭の前に弁護士にご相談いただければ、取調べへの対応方針を整理した上で出頭に臨むことができます。
よくある質問(FAQ)
必ずしも前科がつくわけではありません。検察官が不起訴(起訴猶予)の判断をすれば、前科はつきません。被害者のけがが軽く、過失の程度も軽い事案であれば、起訴猶予となる可能性は十分にあります。略式起訴で罰金となった場合は前科にはなりますが、いわゆる「実刑」(刑務所に入ること)とは異なります。不起訴処分について詳しくは「不起訴処分とは?3つの種類と獲得する方法を弁護士が解説」をご覧ください。
自首が認められれば、刑が任意的に減軽される可能性があります(刑法42条)。また、早期の出頭は、真摯に反省していることの表れとして情状面でも有利に働きます。出頭する前に弁護士にご相談いただくことで、取調べへの対応方針を整理し、より適切な形で出頭に臨むことができます。
任意保険で賠償金を支払うことと、刑事上の示談は別の手続きです。処分を軽くするためには、保険での賠償に加えて、被害者から「処罰を求めない」旨の意思表示(宥恕)を得ることが重要です。弁護士が間に入ることで、被害者との示談交渉がスムーズに進みやすくなります。示談について詳しくは「示談とは?示談金の相場と交渉の進め方を弁護士が解説」をご覧ください。
まとめ
この記事のポイントを整理します。
- 交通事故の多くは在宅事件として捜査が進み、逮捕は例外的なケースに限られる
- 処分は「結果の重大性」×「行為の悪質性」の2軸で方向性が決まり、被害者の処罰感情も考慮される
- 現場を離れると救護義務違反が加わり、処分が大幅に重くなる。軽傷の事案でも公判請求の可能性が高まる
- 被害者との示談・宥恕の取得が、処分を有利にする最も確実な方法
交通事故の刑事事件は、早い段階で弁護士に相談することで、取り得る選択肢が変わってきます。
レナトス法律事務所では、交通事故の刑事事件に注力しております。警察から呼び出しを受けた方、ひき逃げをしてしまった方やそのご家族の方は、お気軽にお問い合わせください。
コメント