国選弁護人は資力要件等を満たす被疑者・被告人について裁判所が選任する弁護人で、私選弁護人は本人や家族が直接選任する弁護人です。費用負担・選任時期・弁護人を選べる自由度に大きな違いがあります。本記事では、両者の違い・費用の比較・選任時期の差・状況に応じた選び方の判断基準・切替の可否を、刑事事件に注力する弁護士が解説します。
ご家族が逮捕されたとき、真っ先に気になるのが「弁護士はどうすればいいのか」ということではないでしょうか。
「国選弁護人がつくと聞いたけれど、それで十分なのだろうか」
「私選弁護人を頼むとお金がかかるのでは」
こうした不安を抱えている方は少なくありません。
この記事では、国選弁護人と私選弁護人の違いについて、以下のポイントをわかりやすく解説します。
- 国選弁護人・私選弁護人それぞれの制度の仕組み
- 費用の違いと国選弁護人の利用条件
- メリット・デメリットの比較
- どちらを選ぶべきかの判断基準
国選弁護人・私選弁護人とは?制度の基本を解説
刑事事件で逮捕・勾留された方には、弁護人(弁護士)をつける権利があります。
これは憲法34条で保障された「弁護人依頼権」という大切な権利です。
弁護人のつけ方には、大きく分けて2つの方法があります。
国選弁護人とは
国選弁護人とは、国の費用で選任される弁護人です。
経済的な理由などで自分では弁護士を頼めない方のために、裁判所(または裁判官)が弁護士を選んでつけてくれる制度です(刑事訴訟法36条、37条の2)。
もともとは起訴された被告人だけが対象でしたが、現在では勾留された被疑者(まだ起訴されていない段階の方)にも国選弁護人がつくようになっています。
つまり、逮捕されて勾留が決まった段階から、国選弁護人を請求できます。
実際に多くの方がこの制度を利用しており、司法統計(2024年)によると、被疑者段階で国選弁護人が選任された件数は全国で約7万9,000件にのぼります。
また、通常第一審の終局段階では、被告人全体の約85%にあたる約4万2,000人に国選弁護人がついています。
私選弁護人とは
私選弁護人とは、ご本人やご家族が自分で選んで依頼する弁護人です。
弁護人の選任は「何時でも」できると法律で定められています(刑事訴訟法30条)。
逮捕直後から、ご本人はもちろん、ご家族(配偶者・親・兄弟姉妹など)が独立して弁護人を選任できます(同法31条の2、32条)。
国選弁護人と私選弁護人の違いを比較
国選弁護人と私選弁護人の主な違いを、わかりやすく表にまとめました。
| 項目 | 国選弁護人 | 私選弁護人 |
|---|---|---|
| 選任方法 | 裁判所(裁判官)が選任 | ご本人・ご家族が自分で選任 |
| 選任できる時期 | 勾留状が発せられた後 | 逮捕直後から(勾留前でも可) |
| 弁護士を選べるか | 選べない(裁判所が指定) | 自由に選べる |
| 費用 | 原則として国が負担 | 依頼者が負担(事務所による) |
| 弁護士の人数 | 原則1名 | 複数選任も可能 |
| 解任・変更 | 原則として自由にできない | 自由に変更できる |
以下、特に重要なポイントを詳しく見ていきましょう。
選任の時期が違う
私選弁護人はいつでも選任できます。
逮捕されたその日から弁護士に連絡して動いてもらうことが可能です。
一方、国選弁護人は勾留状が発せられた後でなければ請求できません(刑事訴訟法37条の2)。
逮捕から勾留が決まるまでには通常2〜3日かかります。
この初期の段階は、取調べへの対応や今後の方針を決めるうえで非常に重要な時間です。
逮捕から勾留決定まで(最大72時間)は、国選弁護人がつかない空白期間が生じる可能性があります。
この期間に弁護人の助けが必要な場合は、私選弁護人を選任するか、弁護士会の「当番弁護士」制度を利用する方法があります。
弁護士を選べるかどうかが違う
私選弁護人は、ご自身で弁護士を選ぶことができます。
刑事事件に注力している弁護士、特定の分野に詳しい弁護士など、ご希望に合った弁護士を探して依頼できます。
国選弁護人は、裁判所が弁護士会を通じて選任するため、どの弁護士がつくかは選べません。
刑事事件の経験が豊富な弁護士がつくこともあれば、普段は別の分野を扱っている弁護士がつくこともあります。
費用の仕組みが違う
国選弁護人の費用は、原則として国(法テラス)が負担します。
国選弁護人の報酬は法テラスの報酬算定基準に基づいて支払われ、依頼者が直接負担する必要はありません。
ただし、有罪判決を受けた場合には、裁判所の判断で訴訟費用(国選弁護人の報酬を含む)の全部または一部を被告人に負担させる決定がなされることがあります(刑事訴訟法181条1項)。
この場合、負担額は検察庁を通じて国庫に納付する形となります。
もっとも、実務上は訴訟費用の負担を命じられないケースも少なくありません。
ただし、一定以上の資力がある場合には負担を命じられることもあり、裁判所は被告人の経済状況を考慮して判断しています。
私選弁護人の費用は、依頼者が負担します。
日本弁護士連合会の調査(2009年)によると、事案が簡明な刑事事件の場合、着手金は20万円前後〜30万円前後が多く(30万円前後が約52%)、報酬金も同程度です。
また、弁護士報酬の実務書(『ガイドブック弁護士報酬〔第3版〕』商事法務、2025年、192頁以下)によると、認め事件の着手金は30万円前後、執行猶予が得られた場合の成功報酬も着手金と同程度の金額が相場とされ、保釈や示談の有無によって着手金に差がつくこともあります。
ただし、これらのデータには幅があり、近年は刑事弁護の専門性の高まりに伴い費用は上昇傾向にあります。事案の複雑さや弁護士事務所の方針によっても大きく異なりますので、具体的な金額は各事務所にお問い合わせください。
国選弁護人を利用するための条件
国選弁護人は誰でも利用できるわけではありません。
以下の条件を満たす必要があります。
資力の要件
国選弁護人の選任を請求するには、資力申告書を提出する必要があります(刑事訴訟法37条の3)。
ここでいう「資力」とは、現金や預貯金などの金融資産の合計額を指します。
自動車や時計などの動産、不動産は含まれません。
基準額は50万円と定められています(「刑事訴訟法第36条の2の資産及び同法第36条の3第1項の基準額を定める政令」〔平成18年政令第287号〕)。
- 資力が50万円未満の場合 → そのまま国選弁護人の選任を請求できます
- 資力が50万円以上の場合 → まず弁護士会に私選弁護人の選任を申し出る必要があります。それでも弁護人が見つからない場合に、国選弁護人を請求できます
資力申告書は、ご本人の記憶にもとづいて記載すれば足ります。
預金通帳の写しなどの添付は求められていません。
なお、資力について虚偽の申告をした場合は、10万円以下の過料(罰則の一種)が科されることがあります(刑事訴訟法38条の4)。
勾留されていること
被疑者段階で国選弁護人がつくのは、勾留状が発せられている場合に限られます。
逮捕されただけで勾留されていない段階では、国選弁護人は請求できません。
国選弁護人のメリット・デメリット
メリット
- 費用の負担が少ない: 弁護人の報酬は原則として国(法テラス)が負担するため、経済的な負担を抑えられます
- 必ず弁護人がつく: 要件を満たせば、確実に弁護人が選任されます
- 使命感を持った弁護士が担当する: 国選弁護人の報酬は法テラスの基準に基づくため、私選の場合と比べて弁護士の経済的メリットは大きくありません。それでも国選弁護を引き受ける弁護士は、刑事弁護に対する強い使命感と公共的正義感を持って活動しています
デメリット
- 弁護士を選べない: どの弁護士が担当するかは選べません。相性が合わない場合でも、原則として変更が難しいです
- 選任までに時間がかかる: 勾留決定後でなければ請求できず、逮捕直後の重要な時間に弁護人がいない可能性があります
- 弁護士の変更が難しい: 国選弁護人の解任は裁判所の判断によるため、「合わないから変えたい」という理由では認められにくいことがあります
私選弁護人のメリット・デメリット
メリット
- いつでも依頼できる: 逮捕の前でも後でも、いつでも弁護士に依頼できます。逮捕されたその日から動いてもらうことが可能です
- 弁護士を自分で選べる: 刑事事件に注力する弁護士、信頼できる弁護士を自分の目で選べます
- 身体拘束からの解放後も継続して活動できる: 逮捕・勾留から解放された後も、引き続き示談交渉や公判の準備などの弁護活動を行ってもらえます
- 身柄解放の判断で有利に働く: 勾留に対する不服申立て(準抗告)の場面で、「弁護人がついており、釈放後も継続的に示談交渉などを行える環境がある」ことをアピールできます
- 変更が自由: 万が一、弁護方針が合わない場合でも、別の弁護士に変更できます
デメリット
- 費用がかかる: 弁護士費用は自己負担となります。事務所によって金額は異なりますので、事前に確認しましょう
- 弁護士探しの手間: ご家族が弁護士を探す必要があります。逮捕直後の混乱の中での弁護士選びは、精神的な負担になることもあります
国選弁護人と私選弁護人、どちらを選ぶべきか
どちらを選ぶかは、事件の内容やご家庭の事情によって変わります。
以下のポイントを参考にしてみてください。
私選弁護人を選んだほうがよいケース
- 逮捕直後にすぐ弁護士に会いたい場合: 勾留前の段階から弁護活動を始めてもらいたいときは、私選弁護人が必要です
- 否認している場合(やっていない場合): 取調べでの対応が特に重要になります。黙秘権の行使方法など、早期に具体的な助言を受けることが大切です
- 早期の身柄解放を目指す場合: 勾留を阻止するための意見書の提出や、勾留決定に対する準抗告など、スピード感のある弁護活動が求められます
- 刑事事件に詳しい弁護士に依頼したい場合: 弁護士を指名して依頼したい場合は、私選弁護人を選ぶ必要があります
国選弁護人を利用するケース
- 経済的に弁護士を頼む余裕がない場合: 費用が大きな壁になっている場合は、国選弁護人制度を活用しましょう
- 勾留後の段階で、特に弁護士の指定がない場合: 国選弁護人でも、保釈請求や被害者との示談交渉などの弁護活動は行われます
国選から私選への切り替えも可能
「まず国選弁護人がついたけれど、やはり自分で選びたい」という場合、途中から私選弁護人に切り替えることも可能です。
私選弁護人が選任されると、国選弁護人は解任されます(刑事訴訟法38条の3第1項1号)。
ご本人やご家族が、事件の途中であっても私選弁護人を選任することができます。
弁護士費用を払えない場合の選択肢
「私選弁護人を頼みたいけれど、費用が心配」という方には、以下の選択肢もあります。
- 国選弁護人制度の利用: 前述の資力要件(50万円基準)を満たせば、国選弁護人を請求できます。経済的に私選弁護人を依頼する余裕がない場合は、まずこの制度の利用をご検討ください
- 当番弁護士制度: 逮捕された方の要請により、弁護士会から弁護士が1回無料で接見に来てくれる制度です。初回の接見で、今後の方針についてアドバイスを受けることができます。詳しくは日本弁護士連合会の当番弁護士制度のご案内をご覧ください
よくある質問(FAQ)
Q1: 国選弁護人の費用は本当に無料ですか?
A: 国選弁護人の報酬は原則として国(法テラス)が負担するため、ご依頼時に費用をお支払いいただく必要はありません。ただし、有罪判決を受けた場合、裁判所が訴訟費用(弁護人報酬を含む)の全部または一部を被告人に負担させる決定をすることがあります(刑事訴訟法181条1項)。この場合は検察庁を通じて国庫に納付する形になります。実務上、負担を命じられないケースも少なくありませんが、「完全に無料」とは言い切れない点にご注意ください。
Q2: 国選弁護人がついた後に、私選弁護人に変更できますか?
A: はい、可能です。私選弁護人を選任すると、国選弁護人は解任されます。事件の途中であっても、ご本人やご家族が私選弁護人を選任することができます。
Q3: 逮捕されたらすぐに国選弁護人がつきますか?
A: いいえ、国選弁護人が請求できるのは勾留状が発せられた後です。逮捕から勾留決定までは最大72時間かかることがあり、この間は国選弁護人はつきません。逮捕直後に弁護士の助けが必要な場合は、私選弁護人の選任か、当番弁護士制度の利用をご検討ください。
Q4: 家族が弁護士を探す場合、どうやって選べばよいですか?
A: 刑事事件に注力している弁護士を選ぶことをおすすめします。弁護士事務所のホームページで取扱分野や実績を確認し、初回相談で対応や方針を聞いてみましょう。逮捕後の流れを理解している弁護士であれば、スムーズな対応が期待できます。
Q5: 資力が50万円以上あると国選弁護人は利用できませんか?
A: 資力が50万円以上の場合でも、まず弁護士会に私選弁護人の選任を申し出て、それでも弁護人が見つからなかった場合には、国選弁護人を請求できます。資力があるからといって、必ずしも国選弁護人を利用できないわけではありません。
まとめ
国選弁護人と私選弁護人の違いについて解説しました。
改めて、重要なポイントを整理します。
- 国選弁護人は国の費用で選任されるため経済的負担が少ないが、弁護士を選べず、勾留後でなければつかない
- 私選弁護人は費用がかかるが、逮捕直後から弁護士を自分で選んで依頼でき、迅速な弁護活動が期待できる
- 国選弁護人の利用には資力の要件(50万円基準)がある
- 国選から私選への途中切り替えも可能
- 費用が心配な場合は、法テラスの立替制度や当番弁護士制度も活用できる
ご家族の逮捕という突然の出来事に直面すると、冷静な判断が難しくなります。
「どうすればいいかわからない」と感じたら、まずは弁護士に相談することが大切です。
レナトス法律事務所では、刑事事件に関するご相談を承っております。
ご家族が逮捕された場合のご不安やお悩みについて、お気軽にお問い合わせください。
コメント