覚醒剤の所持・使用は覚醒剤取締法41条の2により10年以下の拘禁刑が科され、営利目的の場合は更に重く処罰されます。再犯率が高く実刑判決のリスクが大きい類型です。本記事では、覚醒剤事件の刑罰・逮捕後の流れ・初犯と再犯で異なる処分の見通し・執行猶予や情状弁護を含む弁護活動を、刑事事件に注力する弁護士が解説します。
ご家族が覚醒剤で逮捕されたと聞いて、大きな不安を感じていらっしゃるのではないでしょうか。
「刑務所に入ることになるのか」「いつ釈放されるのか」「初犯でも実刑になるのか」――。突然の逮捕で、何もわからないまま時間だけが過ぎていくのは、本当につらいことだと思います。
この記事では、覚醒剤取締法違反で逮捕された場合について、以下のポイントをわかりやすく解説します。
- 覚醒剤事件の刑罰の種類と重さ
- 逮捕されてから裁判までの流れ
- 初犯と再犯で量刑がどう変わるか
- 弁護士ができる具体的な弁護活動
覚醒剤取締法違反とは|禁止される行為と刑罰の一覧
覚醒剤取締法は、覚醒剤の濫用による健康被害を防ぐために制定された法律です。この法律では、覚醒剤の所持・使用・譲渡・譲受・製造・輸出入が禁止されています。
それぞれの行為に対する刑罰を、以下の表にまとめました。
覚醒剤事件の刑罰一覧
| 行為 | 非営利目的 | 営利目的 |
|---|---|---|
| 所持 | 10年以下の拘禁刑 | 1年以上の有期拘禁刑(+500万円以下の罰金もあり) |
| 使用 | 10年以下の拘禁刑 | 1年以上の有期拘禁刑(+500万円以下の罰金もあり) |
| 譲渡・譲受 | 10年以下の拘禁刑 | 1年以上の有期拘禁刑(+500万円以下の罰金もあり) |
| 製造 | 1年以上の有期拘禁刑 | 無期もしくは3年以上の拘禁刑(+1,000万円以下の罰金もあり) |
| 輸出入 | 1年以上の有期拘禁刑 | 無期もしくは3年以上の拘禁刑(+1,000万円以下の罰金もあり) |
「拘禁刑」とは
令和4年刑法改正(令和7年6月1日施行)により、従来の「懲役」と「禁錮」が一本化された刑罰です。刑事施設に収容され、必要に応じて作業や教育プログラムを受けます。
覚醒剤事件は、大麻事件などと比べて法定刑が重く設定されています。所持や使用でも最長10年の拘禁刑が科される可能性があり、営利目的の製造・輸出入では無期拘禁刑もありえます。
また、所持・使用・譲渡・譲受、製造、輸出入のいずれについても未遂罪が処罰の対象です(覚醒剤取締法41条3項・41条の2第3項・41条の3第3項)。実際に行為を完了していなくても、着手した段階で処罰される可能性があります。
もっとも、法定刑の上限が適用されるのは大規模な営利目的事犯など限られた類型です。令和7年版犯罪白書(法務総合研究所)によれば、令和6年(2024年)に地方裁判所で覚醒剤取締法違反により有罪判決(懲役)を受けた4,770人のうち、懲役7年を超える刑を言い渡されたのは86人(約1.8%)にとどまり、大多数は2〜3年または1〜2年の刑期に収まっています。
覚醒剤で逮捕された後の流れ
覚醒剤事件で逮捕されると、法律で定められた手続に沿って事件が進んでいきます。
逮捕から勾留まで(最大72時間)
逮捕されると、警察での取調べを経て、48時間以内に検察官に送致(事件が検察に引き継がれること)されます。検察官はさらに24時間以内に勾留(こうりゅう)を請求するかどうかを判断します。
勾留とは、逃亡や証拠隠滅のおそれがある場合に、引き続き身体を拘束する手続です。
覚醒剤事件では、共犯者との口裏合わせや証拠隠滅のおそれがあるとされやすく、勾留される可能性が非常に高いのが実情です。
勾留期間(原則10日、最大20日)
勾留が認められると、原則として10日間、延長されるとさらに10日間、合計で最大20日間、身体拘束が続きます。
覚醒剤事件では、尿検査の鑑定結果を待つ必要があることなどから、勾留が延長されるケースがほとんどです。
起訴・不起訴の判断
勾留期間内に、検察官が起訴(裁判にかけること)するか、不起訴にするかを決めます。
覚醒剤事件は起訴率が非常に高い犯罪類型です。大麻と異なり、覚醒剤の単純所持・使用について不起訴となるケースはきわめて稀です。
ただし、後述するように、故意(薬物が覚醒剤だと知っていたこと)を争う場合など、弁護活動により不起訴を目指せる場面もあります。
起訴後から判決まで
起訴されると、被告人という立場になります。起訴後は保釈(保証金を納めて一時的に釈放される制度)を請求できるようになります。
覚醒剤事件では、初犯で単純所持・使用の場合、保釈が認められることも少なくありません。一方、営利目的や共犯者がいる場合には、保釈が認められにくい傾向があります。
裁判では、証拠の取調べや被告人質問を経て、判決が言い渡されます。
覚醒剤事件の量刑の傾向|初犯と再犯の違い
覚醒剤事件の量刑は、初犯か再犯かによって大きく変わります。
令和7年版犯罪白書によれば、令和6年(2024年)に地方裁判所で覚醒剤取締法違反により有罪判決を受けた4,770人の内訳は、全部執行猶予が1,717人(約36%)、実刑が3,053人(約64%)となっています。実刑のうち511人には一部執行猶予が付いており、純粋な全部実刑は全体の約53%です。量刑の山は「2〜3年の実刑」と「1〜2年の全部執行猶予」の二つに分かれており、初犯と再犯でこの二峰が振り分けられる構造になっています。
初犯の場合
覚醒剤の単純所持・使用の初犯(営利目的でなく、前科もない場合)では、多くのケースで拘禁刑1年6月・執行猶予3年程度の判決が出ています。
執行猶予とは、一定期間(この場合3年間)罪を犯さなければ、刑の言渡しの効力が失われる制度です。つまり、刑務所に入らずに社会生活を続けることができます。
初犯で執行猶予がつくかどうかは、以下のような事情が考慮されます。
- 覚醒剤の量や使用回数
- 入手経路や動機
- 反省の態度
- 家族や職場の監督体制
- 薬物依存の治療への取り組み
※ 上記はあくまで一般的な傾向であり、個別の事情によって結果は異なります。
再犯の場合
覚醒剤事件の再犯(2回目以降の逮捕・起訴)では、実刑(執行猶予がつかず、刑務所に収容されること)になる可能性が高くなります。
再犯の場合の量刑の目安は、概ね以下のとおりです。
| 回数 | 量刑の傾向 |
|---|---|
| 2回目 | 拘禁刑1年6月〜2年程度(実刑の可能性が高い) |
| 3回目以降 | 拘禁刑2年〜3年程度(ほぼ確実に実刑) |
※ 上記はあくまで目安です。個別の事情(薬物の量、使用頻度、営利性の有無など)によって大きく異なります。また、被害者がいる事件では、被害者の宥恕(ゆうじょ=許すこと)の有無も重要な考慮要素です。
再犯でも執行猶予がつく可能性はあるか
覚醒剤の再犯で執行猶予を獲得するのは容易ではありません。しかし、令和4年刑法改正(令和7年6月1日施行)により、「再度の執行猶予」の要件が一部緩和されました。
改正前は再度の執行猶予が認められる刑の上限が「1年以下」でしたが、改正後は「2年以下」に引き上げられています。
ただし、再度の執行猶予には「情状に特に酌量すべきものがあるとき」という厳格な要件が必要です。法改正後も、この要件の厳しさ自体は変わっていません。
再度の執行猶予が認められるためには、たとえば以下のような事情を具体的に示す必要があります。
- 薬物依存の専門的な治療プログラムに真剣に取り組んでいること
- 24時間体制の福祉施設への入所など、物理的な再犯防止措置が整っていること
- 高次脳機能障害など、衝動制御の困難さに医学的な根拠があること
裁判例
実際に、前刑の執行猶予確定からわずか数日後に再犯した薬物事犯で、福祉施設への入所を前提とした更生環境の整備を評価し、保護観察付きで再度の執行猶予が認められた裁判例もあります(大阪地裁令和7年12月9日判決)。
覚醒剤事件における弁護活動のポイント
覚醒剤事件で弁護士ができる弁護活動は、事件の内容によってさまざまです。
身体拘束からの早期解放
逮捕後は、弁護士が勾留の取消しや保釈の請求を行い、できるだけ早い段階での身体拘束からの解放を目指します。
長期の身体拘束は、仕事や家庭への影響が大きく、ご本人にとっても精神的な負担となります。弁護士が証拠隠滅や逃亡のおそれがないことを具体的に主張することで、早期の釈放につなげます。
取調べへの対応と黙秘権の行使
覚醒剤事件では、警察・検察による取調べが連日行われます。
弁護士は、ご本人に黙秘権(取調べで話さない権利)があることを説明し、どのように取調べに対応すべきかを助言します。
とくに、自分では覚醒剤だと知らずに持っていた場合(故意がない場合)など、不当な自白を防ぐために弁護士のサポートは不可欠です。
裁判例
実際の裁判でも、「知人の荷物を返却するために持っていただけで、中身が覚醒剤だとは知らなかった」という弁解が通話記録や防犯カメラ映像と整合し、無罪判決が出た事例があります(京都地裁令和7年11月12日判決)。
執行猶予の獲得に向けた情状弁護
初犯であれば執行猶予を獲得できる可能性があります。弁護士は、以下のような事情を裁判所に対して丁寧に主張・立証します。
- 反省の態度: ご本人が深く反省していること
- 家族の監督: 家族がしっかりと監督する体制があること
- 社会復帰の環境: 仕事や住居が確保されていること
- 治療への取り組み: 薬物依存症の専門治療を受けていること、または受ける予定であること
薬物依存からの回復支援
覚醒剤事件の弁護活動では、目の前の裁判だけでなく、薬物依存からの回復という長期的な視点が重要です。
弁護士は、ダルク(薬物依存リハビリ施設)やNA(ナルコティクス・アノニマス)などの回復支援プログラムにつなぐなど、社会復帰に向けた環境づくりをサポートします。
裁判でも、こうした取り組みは量刑に好影響を与えることがあります。
一部執行猶予の活用
薬物事件では、「一部執行猶予」という制度が活用される場合があります。
これは、刑の一部を実刑として服役した後、残りの部分の執行を猶予し、保護観察のもとで社会内処遇を受ける制度です。
全部実刑と全部執行猶予の中間に位置するもので、とくに薬物依存の治療と社会復帰を両立させるために設けられました。薬物事犯では、前科がある場合でも一部執行猶予が適用される可能性があります。
令和7年版犯罪白書によれば、令和6年(2024年)に覚醒剤取締法違反で一部執行猶予が言い渡されたのは511人(有罪総数の約11%)です。制度施行直後の平成30年〜令和元年にはピークで約18%まで適用されましたが、近年は運用対象が薬物依存治療に真に適する事案に絞り込まれ、割合は漸減傾向にあります。
覚醒剤で逮捕された場合の前科への影響
覚醒剤取締法違反で有罪判決を受けると、前科がつきます。
執行猶予付き判決の場合は、猶予期間を問題なく経過すれば、刑の言渡しは効力を失います。ただし、前科の記録自体がなくなるわけではありません。
前科がつくと、一定の職業(公務員、一部の士業など)に就くことが制限される場合があります。また、再び覚醒剤事件で逮捕された場合、前科があることで量刑が重くなります。
よくある質問(FAQ)
Q1: 覚醒剤の初犯で逮捕されました。刑務所に入りますか?
A: 覚醒剤の単純所持・使用の初犯で、営利目的でない場合は、執行猶予付きの判決となる可能性があります。ただし、覚醒剤の量が多い場合や、使用回数が多い場合などは、初犯でも実刑となることがあります。個別の事情によりますので、早い段階で弁護士にご相談ください。
Q2: 覚醒剤で逮捕されたら、すぐに弁護士に相談すべきですか?
A: はい。覚醒剤事件では逮捕直後から連日の取調べが行われます。取調べでの供述内容がその後の裁判に大きく影響するため、できるだけ早い段階で弁護士に相談し、取調べへの対応について助言を受けることが重要です。
Q3: 覚醒剤で2回目の逮捕です。執行猶予はつきますか?
A: 2回目の逮捕では、1回目よりも量刑が重くなり、実刑となる可能性が高くなります。ただし、令和4年刑法改正(令和7年6月1日施行)により再度の執行猶予の要件が一部緩和されており、薬物依存の治療への真摯な取り組みや、再犯防止のための具体的な環境整備がある場合には、執行猶予を獲得できる余地もあります。
Q4: 覚醒剤事件で保釈は認められますか?
A: 起訴された後であれば、保釈を請求することができます。令和7年版犯罪白書によれば、令和6年(2024年)の地方裁判所全体の保釈率は約32%ですが、覚醒剤事件では、共犯者との口裏合わせや証拠隠滅のおそれを理由に保釈が認められにくい傾向があります。もっとも、初犯で単純所持・使用の事案であれば、起訴後に保釈が認められるケースも少なくありません。営利目的の事案や共犯者がいる場合には、とくに保釈のハードルが高くなります。
Q5: 大麻と覚醒剤では刑罰に違いがありますか?
A: はい、大きく異なります。覚醒剤は大麻と比べて法定刑が重く、単純所持でも10年以下の拘禁刑です。量刑の実情も大きく異なり、令和7年版犯罪白書によれば、令和6年の大麻取締法違反の全部執行猶予率は約84%であるのに対し、覚醒剤取締法違反は約36%にとどまり、覚醒剤事件のほうが実刑になる比率が2倍以上高いのが実情です。大麻事件について詳しくは「大麻で逮捕されたら」の記事をご覧ください。
まとめ
覚醒剤取締法違反は、法定刑が重く、起訴率も高い犯罪類型です。しかし、適切な弁護活動により、状況を改善できる余地は十分にあります。
- 初犯の場合、執行猶予付き判決を獲得できる可能性がある
- 再犯でも、治療への取り組みや環境整備により、量刑を軽減できる場合がある
- 弁護士による早期の対応が、取調べ対応・保釈請求・情状弁護のいずれにおいても重要
- 刑事手続だけでなく、薬物依存からの回復支援も弁護活動の大切な一部
覚醒剤事件は、ご本人だけでなくご家族にとっても大きな不安を伴うものです。一人で抱え込まず、まずは弁護士にご相談ください。
レナトス法律事務所では、刑事事件に注力する弁護士が、覚醒剤事件のご相談を承っております。逮捕されたご本人のこと、今後の見通しについて不安をお持ちの方は、お気軽にお問い合わせください。
止まってしまった時間を、前に進めるお手伝いをさせてください。
この記事は2026年4月時点の法令に基づき、一般的な法律知識の提供を目的としたものです。個別の事案についての法的アドバイスではありません。具体的なお悩みについては、弁護士にご相談ください。
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