ストーカー規制法違反は、つきまとい等やストーカー行為に対し1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(禁止命令違反は2年以下の拘禁刑等)が科される犯罪です。2021年改正でGPS機器の無断装着・位置情報取得も対象となりました。本記事では、罰則・逮捕後の流れ・示談を含む弁護活動を、刑事事件に注力する弁護士が解説します。
ストーカー規制法違反の疑いで逮捕された、あるいは警察から警告を受けたという場合、まず「この先どうなるのか」を正確に把握することが重要です。ストーカー規制法は、行政的措置(警告・禁止命令)と刑事罰の両面から行為を規制する複層的な構造を持つため、法律の知識なしには見通しを立てることが困難です。
1. ストーカー規制法とは(法の全体像)
■ 法の成立経緯と目的
ストーカー行為等の規制等に関する法律(以下「ストーカー規制法」または「法」)は、平成12年(2000年)に議員立法により成立しました。当時、恋愛感情などを背景とした執拗なつきまとい行為が急増し、被害が殺人等の重大犯罪に発展するケースが相次いでいたことが立法の背景にあります。
法第1条はその目的を「つきまとい等の行為を繰り返して行われた場合に被害者の身体、自由及び名誉に対する危害の発生を防止し、あわせて被害者の心身の健康の保護を図る」と規定しています。法は「事前の予防」と「事後の処罰」の両面から国民の安全と平穏を守る設計をとっています(檜垣重臣監修『ストーカー規制法ハンドブック』〔立花書房、2024年〕)。
その後、平成25年(電子メールの規制対象追加)、平成28年(SNSメッセージ送信の追加、罰則引き上げ、非親告罪化)、令和3年(GPS機器を用いた位置情報取得の追加、拒絶後の文書連続送付の追加)と複数回の改正を経て、現在に至ります。
■ 保護法益
ストーカー規制法の保護法益は、第一次的には「特定の者」(被害者)の身体の安全・住居等の平穏・名誉・行動の自由です(矢野直邦「『ストーカー規制法』が規制するストーカー行為について」判例タイムズ1426号〔2016年〕)。社会的法益としての「社会の安全や平穏」も二次的に保護されているとされています。
■ 3層構造――「つきまとい等」「ストーカー行為」「禁止命令等」
ストーカー規制法は、次の3層構造によって成り立っています。
第1層:つきまとい等(法2条1項)
特定の者に対して行われる8類型の行為(後述)。単体では行政措置(警告・禁止命令)の対象となります。
第2層:ストーカー行為(法2条4項)
「つきまとい等」を「反復して」行うことで初めて成立する概念。刑事罰の対象です(法18条:ストーカー行為罪)。
第3層:禁止命令等違反(法19条)
禁止命令を受けたにもかかわらず行為を継続した場合に成立する、より重い罰則が適用される類型。
この3層構造を理解することが、ストーカー規制法の弁護・対応の出発点です。
2. 逮捕・警告を受けたら──手続の流れ
■ 刑事手続の標準的な流れ
ストーカー規制法違反で逮捕されると、以下の流れをたどります。
逮捕から起訴・不起訴の決定まで最大23日間の身体拘束が可能です。
■ 接見禁止が付くケース
ストーカー規制法違反事件では、裁判所が「接見禁止命令」を発する場合があります。接見禁止が付くと、弁護士以外の者(家族も含む)との面会・手紙のやりとりが制限されます。
接見禁止が付きやすい状況としては、次のようなケースが挙げられます。
- 被害者に直接接触して証拠を隠滅するおそれがある(特に被害者と面識がある場合)
- 共犯者と口裏合わせをするおそれがある
- 被害者の住所・連絡先を把握しており、接触の危険性が具体的に認められる
■ 被害者保護と被疑者の権利の緊張
ストーカー規制法事件は、被害者保護の必要性が特に強い事件類型です。警察・検察は被害者の安全確保を最優先に考えるため、以下の点で被疑者・被告人側に不利な状況が生じやすくなります。
- 逮捕・勾留が認められやすい(被害者への接触リスクを理由とする)
- 接見禁止が付きやすい
- 示談交渉において被害者が応じにくい場合がある
だからこそ、早期の弁護士選任が重要です。
3. 「つきまとい等」に当たる行為とは
法2条1項は、「つきまとい等」として規制対象となる行為を8号に列挙しています。いずれの行為も、「特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」で行われることが要件です(目的要件)。
■ 1号:つきまとい・待ち伏せ・押し掛け・うろつき
被害者の住居・勤務先・学校・通常所在する場所等の付近で、つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居等へ押し掛け、または付近をみだりにうろつくことです。
- 通勤路で毎朝待ち伏せする
- 自宅アパートの前に長時間駐車する
- 職場近くで相手が外出するのを待つ
1号の行為①〜④および⑤(電子メール等に限る)については、身体の安全・住居等の平穏・名誉が害され、または行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法で行うことが必要です。
▶ 1号後段の場所的要件と令和2年最判(解釈論上の重要論点)
1号後段の「見張り」「押し掛け」「うろつき」には「住居等またはその付近」という場所的要件が付されています。最高裁令和2年7月30日判決(刑集74巻4号476頁)は、相手方の自動車にGPS機器をひそかに取り付けて位置情報を取得した行為が「住居等の付近において見張り」に当たるかを判断し、行為者自身が「住居等の付近」に所在することを要するとして否定しました(谷英幸「ストーカー行為罪に関する解釈論上の諸問題」刑事法ジャーナル〔2025年〕)。
「押し掛け」については「住居等の付近」ではなく「住居等」への到達が文言上求められています。このことから、弁護論点として、行為者が住居等まで至らず途中で停止していた場合には「押し掛け」該当性を争う余地があります(文理上の解釈が可能かという問題は残るものの、到達の有無は事実認定上も重要な争点となり得ます)。
■ 2号:監視していることを告げる行為
「あなたの行動を見ていた」「今日〇〇に行っていたね」などと告げることで、被害者に監視されているという不安を覚えさせる行為です。直接本人に告げるだけでなく、SNSへの投稿や第三者を通じた伝達も含みます。
■ 3号:面会・交際等の要求
義務のない面会・交際・復縁などを要求することです。メールや手紙による要求も含まれ、要求の方法は問いません。
■ 4号:著しく粗野または乱暴な言動
大声で怒鳴る、罵倒するなど、著しく粗野または乱暴な言動で相手を不安にさせる行為です。
■ 5号:無言電話・連続した通信行為
次の行為が対象です。
- 無言電話
- 拒まれたにもかかわらず連続して電話をかける
- 拒まれたにもかかわらず連続してFAX・電子メール・SNSメッセージ等を送信する
- 拒まれたにもかかわらず連続して文書(手紙・はがき等)を送付する
令和3年改正のポイント:それまでは電子メールに限定されていた文書連続送付規制が、手紙・はがき等にも拡大されました。LINEのブロック機能を迂回して別のSNSからメッセージを送る行為も対象です。
なお、この5号の「連続して」(一回の行為群の中での繰り返し)は、後述する法2条4項の「反復して」(複数のつきまとい等が繰り返されること)とは別個の概念である点が重要です(白鳥智彦「ストーカー行為の反復性要件と理由不備」警察学論集77巻9号〔2024年〕)。
■ 6号:汚物等の送付
動物の死体その他の汚物、または嫌悪感を覚えさせるものを送付したり、知り得る状態に置いたりする行為です。
■ 7号:名誉を害する事項の告知
誹謗中傷する内容を本人や周囲の人間に告げること、またはSNS等で公開することです。
■ 8号:性的羞恥心を害する事項の告知等
わいせつな言葉・文書・画像等を送付したり、知り得る状態に置いたりする行為です。
■ 令和3年改正で追加された「位置情報無承諾取得等」(法2条3項)
令和2年7月の最高裁判決(最判令2・7・30)を踏まえて令和3年改正で新設されました。具体的には次の行為が対象です。
- GPS機器等の位置情報記録・送信装置を、相手方が所持する自動車・原付・自転車等に無断で取り付けること
- 無断で取り付けた位置情報装置により相手方の所在地情報を取得すること
スマートフォンへのアプリインストールは国会審議においてこの類型に該当しないと確認されています(檜垣重臣監修『ストーカー規制法ハンドブック』〔立花書房、2024年〕)。
弁護士の実務観:
「ストーカーした覚えはない」という依頼者の多くは、自分の行為がどの号に該当するかを認識していません。逮捕された場合、弁護士はまず各行為が8類型のどれに当たるかを精査し、目的要件(好意・怨恨の感情の充足目的)を含めて構成要件該当性を丁寧に検討します。
4. 「ストーカー行為」の成立要件――「反復して」の意義
■ 「反復して」とは何か
「つきまとい等」が1回だけでは「ストーカー行為」は成立しません。法2条4項は「同一の者に対して反復してつきまとい等をすること」をストーカー行為と定義しています。この「反復して」の意義は、長年にわたり学説上の対立があった論点です。
■ 異なる号の行為を組み合わせても「反復」か
最高裁平成17年11月25日決定は、「特定の行為を反復することに限るものではない」と明示しています(矢野直邦「『ストーカー規制法』が規制するストーカー行為について」判例タイムズ1426号〔2016年〕)。現在の実務では、1号のつきまといと5号のメール送信という異なる類型の行為を繰り返した場合も「ストーカー行為」として認定されます。
■ 反復性の具体的な判断基準
「反復して」といえるためには、理論上少なくとも2回の「つきまとい等」の存在が必要です。回数・期間の判断は以下の要素を総合考慮します。
- 行為の回数(最低2回)
- 各行為間の時間的間隔(「ある程度時間的に近接していること」が必要)
- 被害者との関係性・行為に至る経緯
- 加害者の執着心・反復意思
- 警告を受けていたかどうか
月1回程度の頻度であっても、一定期間にわたり繰り返されれば反復と評価される余地があります(檜垣重臣監修『ストーカー規制法ハンドブック』〔立花書房、2024年〕)。
■ 「連続して」と「反復して」の区別――重要な実務論点
5号の文書連続送付類型では、「連続して」(一個の「つきまとい等」内部の繰り返し)と「反復して」(複数の「つきまとい等」自体の繰り返し)という二重の時間的要件が問題になります。
東京高裁令和5年9月20日判決では、この区別が不明確な原判決が「理由不備」(刑訴法378条4号)として破棄・差戻されました(白鳥智彦「ストーカー行為の反復性要件と理由不備」警察学論集77巻9号〔2024年〕)。
事案の概要
被告人が被害者に対し令和3年7月4日頃から同月29日頃にかけて合計11通のはがきを送付した事案です。原審(東京地裁)は有罪判決を言い渡しましたが、東京高裁が原判決を破棄・差戻しとしました。
東京高裁の判断
「原判決は、『罪となるべき事実』において、構成要件要素である『反復して』行うことが必要な複数の『つきまとい等』の個々の内容を明確に区別して示しておらず、『ストーカー行為』に該当する具体的事実の記載を欠いているから、原判決には理由不備の違法がある」(刑訴法378条4号)
理由不備の内容
11通のはがき送付は全体としてみれば相当数にわたりますが、「ストーカー行為」が成立するためには、個々の「連続した送付」(各「つきまとい等」)をそれぞれ特定したうえで、それが複数回「反復」されたことを具体的に示す必要があります。原判決はこの区別をせず、包括的に認定したため「理由不備」とされたのです。
差戻審(東京地裁令和6年6月11日判決)では、11通の送付を「1〜5通目」「6〜8通目」「9〜11通目」という3つの「連続した送付」(各一個の「つきまとい等」)に分節化し、これらが3回にわたり反復されたとして有罪認定しています。
弁護士の実務観:
公訴事実において「連続して」と「反復して」の区別が不明確な場合、裁判所に対して訴因の特定・釈明を求めることが有効な弁護戦略になります。行為の分節化方法によっては、「つきまとい等」の個数が減少し、反復性要件を充足しないとの主張が可能になります。少し技巧的ではありますが、第1審においては敢えて当該議論に触れず、判決後に控訴理由として挙げることも考えられます。
■ ストーカー行為の本質=「行為の集合体」
矢野直邦論文(判例タイムズ1426号)は、ストーカー行為の本質を「つきまとい等の行為の集合体」と捉え、次のような指摘をしています。
「法は飽くまで同一の者に対して『つきまとい等』の行為を『反復してすること』を『ストーカー行為』と定義し(2条2項)、それを刑事罰の対象としているのであって、かつて『つきまとい』等の行為をしたことがある相手方に対する後続の『つきまとい等』の行為を『ストーカー行為』と定義して、この後続行為のみをとらえて処罰対象にするという規定の仕方をしているわけではない」
起訴された2つの行為のうち1つが認定されなかった場合、残る1つの行為では「集合体」としてのストーカー行為を構成しません。この場合、検察官が訴因変更手続を経ることなく有罪を求めることは許されないという論理的帰結が導かれます。
5. 禁止命令・警告の仕組みと行政手続
■ 警告(法4条)
被害者の申出に基づき、所轄の警察本部長等が加害者に対して行う行政的措置です。「更に反復して当該行為を行うことの禁止」を警告するもので、刑事処罰ではありません。
警告の特徴
- 申出から警告までの手続が比較的迅速
- 警告を受けた記録は、その後の禁止命令発令の判断材料となる
- 警告に従わず行為を継続した場合、禁止命令の発令要件を満たすことになる
■ 禁止命令等(法5条)
公安委員会が、特定の者に対して行われたつきまとい等のうち、更に反復して行われるおそれがあると認める場合に発令する命令です。
禁止命令の内容(法5条1項)
1号命令:つきまとい等・位置情報無承諾取得等を行わないことを命じる
2号命令:「更に反復して当該行為が行われることを防止するために必要な事項」(警察からの電話連絡等に応じることを含む)
有効期間と延長
禁止命令の有効期間は1年です(法5条8項)。更新制度があり(法5条9項・10項)、反復のおそれが継続する場合は延長が可能です。
平成28年改正:緊急禁止命令の新設
従来は原則として警告を経てから禁止命令を発令していましたが、平成28年改正で「緊急時の禁止命令」が新設されました。被害者の生命・身体への危険があるなど緊急の必要がある場合は、警告を経ずに禁止命令を発令できます(法5条3項・4項)。
令和5年の実績:禁止命令等の発令件数は1,963件(前年比+219件、+12.6%)で法施行後最多を記録しました(太田尾磨「ストーカー加害者等に対する新たな施策について」警察学論集77巻9号〔2024年〕)。
■ 令和6年から運用開始した加害者施策
太田尾磨「ストーカー加害者等に対する新たな施策について」(警察学論集77巻9号〔2024年〕)は、令和6年3月18日付け警察庁通達に基づき全国展開された3つの新施策を詳述しています。
(1)加害者連絡
禁止命令等を受けた加害者全員に警察官が定期的に連絡し、近況・執着程度のリスク評価を行う施策です。法5条1項2号命令の形式で「警察からの電話連絡等に応じること」が命じられ、連絡拒否は命令違反として対処されます。
(2)治療等の教示
禁止命令等を受けた加害者全員に対し、精神科・カウンセリング等の医療機関における治療等の有用性を教示し、リーフレットを交付します。強制ではなく任意の働きかけです。
「加害者の内面に働きかけ、被害者に対して有する執着心や支配意識を取り除くことを目的として、専門家によるカウンセリングや治療を実施することが有効な対策となる可能性がある」(太田尾磨「ストーカー加害者等に対する新たな施策について」より)
(3)被害者等の危機意識の醸成
被害者側に対して、防犯指導の強化と緊急通報装置(GPS機能付き)の積極的貸し出しを行う施策です。
弁護士の実務観:弁護士として被疑者・被告人に関与する際、禁止命令が発令された場合の2号命令(加害者連絡応諾義務)の存在を必ず伝えてください。連絡拒否が即座に新たな違反事件を構成する運用に変わっています。また、治療・カウンセリングへの自発的受診は、情状弁護において有力な材料となります。
6. 罰則――逮捕・起訴された場合
■ ストーカー行為罪(法18条)
ストーカー行為をした者は、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金に処せられます。
- 非親告罪(被害者の告訴がなくても起訴可能)
- 平成28年改正で非親告罪化された
■ 禁止命令等違反(法19条)
禁止命令に違反した場合の罰則は、ストーカー行為罪より重く設定されています。
① 禁止命令に違反してストーカー行為をした者
→ 2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金
② 禁止命令に違反する行為によりストーカー行為となる行為をした者
→ 2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金
③ その他の禁止命令等違反
→ 6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
■ 禁止命令違反の方が重い点の実務的意味
ストーカー行為罪の法定刑(1年以下)に対し、禁止命令違反(2年以下)は倍の重さです。これは、「一度行政的な警告・命令を受けたにもかかわらず行為を継続した」という悪質性を重く評価する趣旨です。
実務上、次のような影響があります。
- 同じ行為でも禁止命令後の行為は起訴されやすく、実刑となるリスクが高まる
- 逮捕・勾留される可能性が高くなる
- 示談交渉の余地が狭まる場合がある
7. 弁護士が行う弁護活動
■ 初回接見の重要性
逮捕後48時間以内の早期接見が極めて重要です。初回接見では以下を行います。
① 認否・弁護方針の確定
「つきまとい等」の行為をしたかどうか、目的要件(好意・怨恨の感情の充足目的)があったかどうかを確認します。全面否認・一部否認・全面認罪のいずれかの方針を依頼者と協議して決定します。
② 被害者への接触禁止の徹底
逮捕後に被害者へ直接連絡をとることは、証拠隠滅と評価されて勾留・接見禁止の原因となり、また示談交渉に向けた取り組みも水泡に帰します。被疑者・被告人から被害者への連絡は弁護士を通じてのみ行うよう厳命します。
■ 「つきまとい等」に当たらないと争う
行為の性質や状況から、構成要件該当性を争う余地があります。
目的要件の欠如
行為の動機が「恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことへの怨恨の感情を充足する目的」ではなかったことを主張します。たとえば、正当な権利主張(貸したお金の返還要求など)の一環である場合がこれに当たります。
「不安を覚えさせる方法」の不充足
1〜4号・5号電子メール等の行為は「身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法」(不安方法)による行為に限られます。行為の態様・被害者との関係・経緯等を総合考慮して(檜垣重臣監修『ストーカー規制法ハンドブック』〔立花書房、2024年〕)、この要件を満たさないと主張することが考えられます。
この「不安方法」要件の意義については、解釈論上2つの立場の対立があります(谷英幸「ストーカー行為罪に関する解釈論上の諸問題」刑事法ジャーナル〔2025年〕)。
- 類型的安心感侵害説:類型的に安心感の侵害をもたらす性質の強い方法であることを要するとする立場。法の文言と親和的であり、立案担当者の説明もこれに即する。
- 行為者負担配慮説:ストーカー規制法が「日常生活規制立法」としての側面を持つことに着目し、その行為を規制した場合に行為者側にどの程度の負担が生じるかという観点から不安方法を理解する立場。
弁護実務では、行為の日常性や行為者側の利益(たとえば正当な権利主張・不貞調査等)との衡量を不安方法の充足に関する反論として活用する余地があります。
なお、5号のうち「電子メールの送信等」のみに不安方法限定が付いているのは、電子メール等が日常的通信手段であるためです。これに対して、令和3年改正で追加されたGPS等による位置情報無承諾取得(法2条3項)には不安方法限定が付されていません。これは、GPS機器取り付けが「日常生活において一般に行われ得る行為ではなく、正当性に欠ける悪質性の高い行為である」として、類型的に不安方法を充足するものと整理されているからです。
■ 「反復性」要件を争う――訴因の特定を求める
前述した東京高裁令和5年9月20日判決(白鳥智彦「ストーカー行為の反復性要件と理由不備」警察学論集77巻9号〔2024年〕)を踏まえ、以下の弁護活動が有効です。
公訴事実における「連続して」と「反復して」の区別の確認
5号文書送付類型の事案では、公訴事実が「連続して」(各「つきまとい等」内部の繰り返し)と「反復して」(複数の「つきまとい等」の繰り返し)を明確に区別して記載しているかを精査します。区別が不明確な場合、求釈明権を行使して特定を求めます。
行為間の時間的間隔を主張
行為間の時間的間隔が長い場合(例:中10日以上)、「連続性」が断絶しており複数の行為群が単一の「つきまとい等」としては評価できないことを主張します。分節化の方法によっては、「つきまとい等」の個数が減少し、反復性要件を満たさない構成が可能になります。
反復回数の少なさを主張
起訴されている行為の総回数が少ない場合(2〜3回程度)、「反復」の要件を厳格に適用すれば犯罪が成立しないとの主張が検討できます。月に1回程度以下の頻度では反復性が認められにくい余地があります(矢野直邦「『ストーカー規制法』が規制するストーカー行為について」判例タイムズ1426号〔2016年〕)。
個々の行為の「つきまとい等」該当性と「反復」の二段階の争い方
谷英幸論文(刑事法ジャーナル〔2025年〕)は、反復性に関してさらに踏み込んだ論点を提起しています。個々の行為自体は単体では「つきまとい等」に当たらないが、繰り返されることで複数回の行為を全体としてまとめて「つきまとい等」に当たると認める余地がある、という解釈です(例:住居前を数秒通過するだけの行為を単体では「見張り」「うろつき」と評価しにくくとも、反復により全体として該当するとする構成)。
弁護論点として注目されるのは、この構成をとった場合、「複数回の行為をまとめて1個の『つきまとい等』と評価した」としてよいかという問題です。法2条4項は「つきまとい等」を「反復」することを求めており、複数回の行為を「1個のつきまとい等」と評価してしまうと、別途「反復」が充足されているかという問いが残ります。この二段階の構造を活用して、認定される「つきまとい等」の個数や反復の有無を争うことが考えられます。
共犯関与者の立場での争い方
依頼を受けて「つきまとい等」に当たる行為をした協力者(目的を有しない者)については、恋愛感情等の充足目的を持つ者が自ら行う場合と、目的のない者が協力する場合とでは、相手方に与える不安の程度が異なる可能性があるという指摘があります(谷英幸・前掲)。目的を有するからこそ執着が生じエスカレートするという認識を前提とするならば、目的なき協力者が関与する行為類型によっては、共犯成立の根拠となる典型的法益侵害の実現可能性が問われます。共犯関与が問題となる事案では、この観点から共犯成立の可否を検討する余地があります。
弁護士の実務観:「反復性の主張」は、完全無罪を目指す場合だけでなく、量刑を争う場面でも有効です。認定される行為の個数・期間・態様が縮小されれば、実刑か執行猶予か、科料の大小に影響します。
■ 示談・被害届の取り下げ
ストーカー規制法違反事件において、示談の成立と被害届の取り下げは、不起訴・軽減を実現する最も有力な手段のひとつです。
示談交渉のポイント
- 弁護士を通じた交渉(直接連絡は厳禁)
- 被害者の連絡先を弁護士が把握できるよう担当検察官に働きかける
- 接近禁止・連絡禁止に関する誓約書を含む内容とする
- 示談金の相場は事案の悪質性・被害の程度・回数等によって大きく異なる
ただし、被害者感情が強く、示談に応じてもらえないケースも多くあります。また、公訴提起後に示談が成立しても不起訴にはなりませんが、量刑判断において有利な事情として考慮されます。
■ 情状弁護:精神科受診・カウンセリング・接触遮断の具体化
示談が難しい場合でも、次の情状弁護が重要です。
精神科受診・カウンセリングの受療
ストーカー行為の背景には、病的な執着・愛着障害・人格障害等の精神医学的問題が潜む場合があります。自発的に精神科やカウンセリングに通い始めることは、「再発防止に向けた具体的な取り組み」として裁判所に評価されます。
警察の新施策でも「治療等の教示」が加害者全員に対して行われるようになっています。弁護士としては、この流れを先取りして、公判段階までに受療実績・診断書・医師意見書等を証拠として提出できるよう準備します。
接触禁止の具体化
被害者との接触を物理的・環境的に遮断する措置も重要な情状事実です。
- 転居(被害者の行動範囲外への引越し)
- 連絡ツールの処分・アカウントの削除
- 職場の変更(被害者と同じ職場・沿線の場合)
- 信頼できる身元引受人の確保
家族・職場の協力
家族や職場の上司が「今後の監督を誓約する」という身元引受書を作成・提出することも、執行猶予獲得に向けた重要な情状証拠です。
8. 執行猶予・不起訴の見通し
■ 不起訴になりやすいケース
以下の事情が重なる場合、起訴猶予(不起訴)となる可能性があります。
- 初犯(前科・前歴がない)
- 行為の期間・回数が少ない
- 被害者との示談が成立し、被害届が取り下げられた
- 被告人が反省・謝罪の姿勢を示している
- 精神科受診・カウンセリング等、再発防止に向けた具体的措置をとっている
ただし、不起訴が「確実」な事情はなく、最終的には検察官の裁量判断です。
■ 執行猶予になりやすいケース
起訴されても、次のような場合は執行猶予(拘禁刑の猶予)が期待できます。
- 初犯・認罪
- 示談の成立(被害者が宥恕している場合)
- 行為の悪質性が比較的低い(脅迫・暴力等が伴っていない等)
- 精神科受診・カウンセリング受療の実績
- 身元引受人・監督体制の確立
■ 実刑リスクが高まるケース
- 禁止命令違反(警告・命令後も行為を継続した場合)
- 前科がある(特にストーカー・暴力関係の前科)
- 被害者への脅迫・暴力が伴っている
- 被害者が接触に応じず示談が成立しない
- 依然として被害者への執着が認められる
■ 免責事項
本稿で記載した見通しは、一般的な傾向を解説したものです。個別の事案では、行為の回数・態様・期間・被害者との関係・前科前歴・精神状況等、様々な事情が絡み合うため、実際の処分・判決は大きく異なる場合があります。「必ず不起訴になる」「確実に執行猶予になる」という保証は、いかなる弁護士にも行うことはできません。早急に弁護士に相談のうえ、個別事情に応じた対応を検討することが不可欠です。
9. よくある質問
Q. ストーカー規制法で逮捕されたら前科はつきますか?
逮捕されただけでは前科はつきません。前科がつくのは起訴されて有罪判決が確定した場合のみです。初犯で行為の態様が比較的軽微な場合、示談が成立した場合などは不起訴処分(起訴猶予)となることもあります。弁護士が早期に介入することで、不起訴を目指すことができます。
Q. 家族が逮捕されました。弁護士に頼むとしたら、まず何を頼めばいいですか?
最初にお願いすることは「接見」です。逮捕直後は弁護士だけが本人に面会できます(弁護士接見)。弁護士が本人の話を聞き、事実関係・認否方針・家族への伝言等を確認します。ご家族が直接面会できるのは、勾留決定後(逮捕から3日程度)かつ接見禁止が付かなかった場合に限られます。
Q. 警察から警告を受けただけで、逮捕はされていません。弁護士に相談すべきですか?
警告は「逮捕の手前」の段階です。警告を受けた後に同様の行為を繰り返せば、禁止命令の申出→禁止命令、さらには逮捕という段階に進む可能性があります。警告を受けた段階で弁護士に相談し、行為をやめる・接触を断つ・場合によっては示談交渉を行うといった対処をとることで、刑事事件化を防げる可能性があります。
10. まずはご相談ください
ストーカー規制法違反で逮捕された、警察から警告を受けた、禁止命令を受けた、といった場合には、できる限り早期に弁護士に相談することをお勧めします。逮捕直後の72時間は、身体拘束の長短・接見禁止の有無・その後の見通しを左右する最重要局面です。
■ レナトス法律事務所の対応
事務所所在地・対応地域
埼玉県さいたま市大宮区を拠点に、埼玉県全域・北関東(茨城・栃木・群馬)を中心とした事件対応を行っています。
緊急接見(逮捕直後の接見)
「今すぐ接見してほしい」というご要望には、スケジュールを確認のうえ、可能な限り速やかに対応します。まずはお電話でご連絡ください。
刑事事件に注力する弁護士
代表弁護士・横山遼は、刑事弁護に注力しています。ストーカー規制法違反をはじめ、各種刑事事件の弁護経験をもとに、依頼者の権利擁護に取り組みます。
初回相談
逮捕された方のご家族からのご相談も承っています。「何から手をつけていいかわからない」という状態でも、お電話いただければ状況を整理するところからお手伝いします。
ストーカー規制法違反は、早期対応が結果を左右します。
まずはレナトス法律事務所(TEL: 050-5574-2763)までご連絡ください。
参考文献
- 檜垣重臣 監修/ストーカー規制法研究会 編著『ストーカー規制法ハンドブック〜逐条解説から実務参考資料まで〜』(立花書房、2024年)
- 矢野直邦「特別法を巡る諸問題 『ストーカー規制法』が規制するストーカー行為について」判例タイムズ1426号(2016年)
- 白鳥智彦「刑事判例研究〔553〕 ストーカー行為の反復性要件と理由不備(東京高裁令和5年9月20日判決)」警察学論集77巻9号(2024年)173-192頁
- 太田尾磨「ストーカー加害者等に対する新たな施策について」警察学論集77巻9号(2024年)
- 岡本貴幸『擬律判断ここが境界〔第2版〕』第1編第4章「自由・平穏・秘密を害する罪」(立花書房)
- 埼玉県警察本部『埼玉県迷惑行為防止条例の解説(改訂版)』
- 谷英幸「ストーカー行為罪に関する解釈論上の諸問題」刑事法ジャーナル特集「特別刑法と刑法解釈論」(成文堂、2025年)
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